■ユーロ/米ドルの市況が米独金利差に左右されるならば…
では、2015年3月から2017年夏場まで形成された大型変動レンジと目先の市況のどちらが「説明がつく」のかと問われると、迷いなくレンジ変動の方が「正常」だと答えられる。なぜなら、「伝統的」に、米独金利差がユーロ/米ドルの市況を左右してきたから、2017年夏までの相場は説明しやすいからだ。
換言すれば、2017年夏場までユーロ/米ドルの市況は米独金利差との連動性が高かったのに対して、その後のユーロ/米ドルの大幅上昇では、米独金利差との大きな乖離を作ってきたわけだ。
2017年夏場以降のユーロの大幅上昇は、2017年年初までのいわゆる「トランプラリー」相場が作った米ドルの「買われすぎ」、すなわちユーロの「売られすぎ」がもたらした反動と見られ、また、ECB(欧州中央銀行)が金融政策を正常化する思惑からくる先取り的な動きと思われる。
こういった市場センチメントの正当化が進んだことで、足元ではユーロの再度高値トライが当然視され、今年(2018年)は1.25ドルまで上昇するのでは…という大方の予測につながっていると思う。
■ユーロは明らかに過大評価されていると考える
しかし、筆者はユーロが明らかに過大評価されていると思う。ここからさらに過大評価されていくことはもちろんあり得るが、長くは続かないとみる。
ロジックはシンプルだ。やはり米独長期金利差がよほど縮小してこない限り、ユーロ高はすでに限界に到達している疑いが強く、また、米独金利差は縮小していくどころか、これから拡大されていく可能性のほうが大きいとみるからだ。
執筆中の現時点では、米10年物国債利回りは2.46%程度、ドイツ10年物国債利回りは0.434%程度にある。ごく単純な計算でもわかるように、この差は歴然としている。米ドルの優位性を揺るがすにはこれからドイツ10年物国債利回りの急上昇が必要、また、その見込みが必要となるわけだが、2018年もECBはQE(量的緩和策)縮小に留まり、利上げには遠い状況だ。
(出所:Bloomberg)
対して、米国は3~4回の利上げも想定される中、ここから米独長期国債利回りの格差は拡大していくとみるのが自然であろう。
実際、ドイツ10年物国債利回りの日足をみればわかるように、ユーロの1.25ドル大台打診どころか、現在の高値再トライも正当化されない疑いが大きいかと思う。
ユーロ/米ドルの昨年(2017年)高値は9月前半に形成されたが、ドイツ10年国債利回りは7月前半に高値をつけ、9月前半まではむしろ低下していた。現在の水準も昨年(2017年)7月高値(0.643%)とは大差がついており、ユーロ/米ドルは昨年(2017年)9月と同様、高値打診があっても長く維持できないのでは…とみる。
■ユーロ/円は今月中にも140円台達成!?
また、円との比較でもユーロ高を正当化する難しさがうかがえる。
円もユーロも実質ゼロ金利だが、シカゴ通貨先物市場のポジションの取り組みでみると、円の11万6000枚程度の売り超に対して、ユーロは9万2000枚程度の買い超となっていた(2017年12月26日の統計)。円売りポジションの積み上げが過大と言いながら、同じ実質ゼロ金利のユーロを買い抱えることを正当化するのは、やはり限界があると思う。
もちろん、まったく出口戦略を講じていない日銀と、QE政策を確実に圧縮していくECBとでは、スタンスの差は鮮明である。ゆえに、筆者は一貫してユーロ/円の上昇を指摘し、また、ユーロ/円も実際、年末年始に強さを見せてくれている。136円台に突っ込んだユーロ/円はやはり、140円の節目を射程圏内に収め、早ければ今月(1月)中に達成できるかとみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 日足)
■ユーロ/米ドルは頭打ちし、ダブルトップになるのでは…
一方、前述のロジックでユーロ/米ドルを検証すれば、やはり対米ドルの強さに違和感を覚え、筆者としてはなかなかユーロ/米ドルのさらなる上値余地をイメージしにくい。
相場における断定的な判断は誰もできないが、市場コンセンサスとなりつつあるユーロ/米ドルの1.25ドル大台トライといった予想にはやはり距離をおき、このあたりで再度頭打ちし、ダブルトップをつける形になるのではないかとみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 週足)
ユーロ/円の140円の大台というターゲットを維持する一方、ユーロ/米ドルの頭打ちを想定しているのは、当然のように米ドル/円の続伸を有力視しているからだ。米ドル/円は3月高値115.50円を打診していないうちは、切り返しがまだ終わっていないだろう。近々の注目点は、やはり、112円の節目前後のサポート。ここが守られれば米ドル/円はなお上放れしやすいとみる。
■ユーロ/円は20円ほどの値幅で大きく変動する可能性あり
何回も言及したが、2018年はユーロ/米ドルの1.25ドル大台打診あり、という予測が市場のコンセンサスになりつつあるから、仮にユーロが続伸せず、逆に1.15ドルの節目割れがあれば、市場センチメントは大きく変わるだろう。為替市場に限らず、相場というものは往々にして急変し、また、コンセンサスが裏切られるほど反対の方向へ激しく動く傾向も強いものだ。
となると、2018年はユーロ/円の変動幅がかなり大きくなるだろう。なにしろ、2017年の年末に本コラムに記したように、米ドル/円もまだ上値余地があるものの、2018年は円高に振れる市況が警戒されるのだ。
【参考記事】
●2018年はクロス円が大波乱!? 米ドル/円も含め上昇リミットは春頃、その後一転暴落?(2017年12月22日、陳満咲杜)
この上、ユーロ/米ドルの反転があれば、ユーロ/円は一転して大きく売られるリスクも大きい。ユーロ/米ドル次第で20円ほどの値幅もあり得るから、ユーロ/円140円大台達成後の市況に要注意だろう。市況はいかに。
(13:00執筆)
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