■最大手のビットフライヤーを含む6社に業務改善命令
金融庁は6月22日(金)、仮想通貨交換業者6社に対して業務改善命令を出した。
日本経済新聞は6月19日(火)に「ビットフライヤーなど仮想通貨交換業者5社以上に、金融庁が業務改善命令を週内にも出す方針を固めた」と報じていたが、そのとおりの展開となった。
業務改善命令が出されたのは以下の6社。
・QUOINE
・ビットフライヤー
・ビットバンク
・BTCボックス
・ビットポイントジャパン
・テックビューロ
金融庁は今回出された業務改善命令の中で以下の対応を6社すべてに求めている。
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係る管理態勢の構築
・利用者保護措置に係る管理態勢の構築
・仮想通貨の新規取扱等に係るリスク管理態勢の構築
このほか、金融庁が各社に求めている対応は少しずつ異なっているが、上記以外には「経営管理態勢の構築」、「利用者財産の分別管理態勢の構築」、「反社会的勢力等の排除に係る管理態勢の構築」といったことが目立っている。
一挙6社に対する業務改善命令が出されたこと、その中に最大手のビットフライヤーが含まれていたことで、仮想通貨界隈には衝撃が走っている。
各社が受けた業務改善命令には新規口座開設を停止せよとの内容は入っていないが、この命令を受け、ビットフライヤーは自主的に「新規のお客様によるアカウント作成を自主的に一時停止」する措置を行った。つまり、現在、ビットフライヤーは新規口座開設ができない状態となっている。なお、既存顧客の取引は停止していない模様だ。
これまでビットフライヤー公式サイトトップの最上部には同社のイメージキャラクターである女優の成海璃子さんが微笑んでいたが、現在は成海さんの姿が消え、今回の処分を伝える「重要なお知らせ」が掲載されている。
ビットフライヤーへの業務改善命令&新規口座開設停止の影響があったのか、ビットコイン/円相場は6月22日(金)午後から崩れはじめ、73万~74万円台ぐらいで推移していたものが70万円の大台を割れ、6月23日(土)~6月24日(日)正午にかけては67万~69万円台ぐらいで推移するようになっている。
■SNS上で流れていたビットフライヤーに関するウワサとは?
ビットフライヤーについてはネット上のある著名人が5月ごろから同社に関する、意味不明瞭だが露骨にネガティブな雰囲気がする発言をツイッターで流し、そこに尾ひれがつく状態となっていた。それに対して同社の公式ツイッターは5月11日(金)に以下のようなツイートを行って、そういったウワサを否定していた。
一部メディアにおいて当社が不正アクセスを受けていることを想起させる主旨の記事が掲載されましたが、当社が不正アクセスを受けた事実はございませんのでご安心ください。 当社は法令等を遵守し、継続的にセキュリティ対策等の措置を行ってまいります。
同社の公式ツイッターからは、さらに6月7日(木)に以下のようなツイートが行われ…
一部 SNS において当社が不正アクセスを受けたとの話題が出回っておりますが、当社が不正アクセスを受けた事実はございませんのでご安心ください。
さらに6月11日(月)には「業務停止命令」という言葉を含む、以下のようなツイートが行われていた。
一部 SNS において、「当社が明日業務停止命令を受ける」「資金が動かせなくなる」との話題が出回っておりますがそのような事実は確認しておりません。 事実と異なる不明確な情報にご注意ください。
6月24日(日)現在、ビットフライヤーに対して業務停止命令は出ておらず、資金が動かせなくなるといった事象も起こっていない模様だ。ビットフライヤーの公式ツイッターがツイートしていたとおり、そのようなウワサはデマだった。
しかし、業務停止命令は出なかったものの、業務改善命令は出たのだった。
■テックビューロは3ヵ月半ぶり2度目の業務改善命令
金融庁はこれまで仮想通貨関連の行政処分をかなりいろいろと行ってきたが、その多くは「みなし仮想通貨交換業者」に対してだった。
【みなし仮想通貨交換業者に関する参考記事】
●資本金わずか1000万円。金融庁登録がある仮想通貨交換業者は100%安全なのか?
金融庁登録を正式に果たした“みなし”ではない仮想通貨交換業者については、3月8日(木)にテックビューロとGMOコインへ業務改善命令が出された例があっただけだった。
【参考記事】
●金融庁がみなし業者含む7社に行政処分。コインチェックの月間取引高は約4兆円!?
このうち、仮想通貨取引所Zaifを運営するテックビューロには3月8日(木)に続いて今回、6月22日(金)にも業務改善命令が出されたことになる。
テックビューロはZaif公式サイトへ5月21日(月)に発表された「Zaif ニュースレター vol.1」の冒頭2段落目を
早いもので、弊社が業務改善命令を受けてから約二ヶ月半が過ぎようとしております。
という文章から書き起こしていた。テックビューロは斬新な時候の挨拶によって、無味乾燥になりがちなこのようなニュースリリースへ潤いを与えていたのである。
これに対し、ネット上では「面白い時候の挨拶やめろ」といった歓声が沸き、これが投資系の有力まとめサイト「市況かぶ全力2階建」に取り上げられるといった事態が起きていた。
この「Zaif ニュースレター vol.1」の中では3月8日(木)の業務改善命令を受けて、テックビューロに突きつけられた最重要課題に対し、
これらを誠実に確実に果たすため、怒涛の毎日を過ごしております。
とも書かれていたのだが、テックビューロ社員が怒濤の毎日を過ごしていたにもかかわらず、今回、同社は3ヵ月半ぶり2度目の業務改善命令を受ける事態となってしまったのだった。
■過去記事中のリストと今回の6社がピタリ完全に一致!?
ここで今回、業務改善命令が出された6社の社名を今一度、挙げてみると、以下のとおりとなる。
・QUOINE
・ビットフライヤー
・ビットバンク
・BTCボックス
・ビットポイントジャパン
・テックビューロ
実は当サイトでは、この6社を予言していたかにも見える(?)リストを2017年10月6日に公開した記事中に掲載していた。その記事とは2017年9月末に仮想通貨交換業者11社がはじめて金融庁登録を果たしたことを受けて公開した以下の記事のことである。
【参考記事】
●仮想通貨交換業者11社が金融庁登録!(3) 徹底比較! 資本金の多い会社はどこ?
上の記事では第1回金融庁登録業者11社を<FX業界関連以外>の6社と<FX業界関連>の5社に分け、その時点では<FX業界関連以外>のベンチャー企業の方が仮想通貨業界の中で存在感があることを紹介していた。
今回、6月22日(金)に業務改善命令が出された6社は、このときの<FX業界関連以外>の6社のリストとピタリ完全に一致している。
(出所:2017年10月6日公開「仮想通貨交換業者11社が金融庁登録!(3) 徹底比較! 資本金の多い会社はどこ?」)
つまり今回、業務改善命令が出されたのは、第1回の金融庁登録を果たした仮想通貨交換業者のうち、<FX業界関連以外>の6社すべてに対してだったことになる。
これは<FX業界関連>の会社の方がさまざまな管理態勢がきちんとしているということを意味しているのだろうか? それとも、それとは違った、金融庁の何らかの意思を示したものなのだろうか?
■流れはコインチェックの方へ向いてきている…のかも?
仮想通貨ネムの大規模な不正流出事件を起こしてしまったコインチェックは今もって「みなし仮想通貨交換業者」という立場から抜け出せていない。
ただ、同社はマネックス証券を擁するマネックスグループに買収され、そのグループ傘下に入った。つまり、上記の枠組みで言えば、<FX業界関連以外>から<FX業界関連>の陣営に移ったような形となる。
コインチェックが最近見せている、ある動きなどから、同社が取引を全面再開する、金融庁への登録を果たすといったことが近い将来起こる可能性もありそうだと筆者には思える。前述した<FX業界関連以外>と<FX業界関連>の間に起きた行政処分の差にもしも本当に意味があるのなら、流れはコインチェックの方へ向いてきている、と言えるのかもしれない。
■金融庁はビットフライヤーの企業風土を問題視
最後に、立入検査などによって、今回、業務改善命令が出された6社が抱える問題だと金融庁が認めた点を箇条書きでまとめておきたい。
まずは注目の的となる、最大手のビットフライヤーだ。
・経営陣がコストを抑えることを優先して、内部監査を含めた内部管理態勢を整備していない
・監査等委員会及び取締役会が牽制機能を発揮していない
・登録審査等に関して当局等へ事実と異なる説明等を行うといった企業風土がある
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・利用者財産の分別管理及び帳簿書類の管理に問題あり
・不正アクセスによる仮想通貨の不正流出の未然防止に問題あり
これ以降、他の5社の問題点も箇条書きでまとめていくが、それらと比べて、ビットフライヤーの問題点で目につくのはまず、「コストを抑えることを優先して」という文言が入っていることだ。このような文言は他の5社では見られなかった。
仮想通貨業界最大手であり、かなりの利益も上げていそうで、管理態勢構築に投入する資金もふんだんにあるのではないかと推測されるビットフライヤーだが、意外にコストを抑える姿勢が目立っているのだろうか。
また、「登録審査等に関して当局等へ事実と異なる説明等を行うといった企業風土」というのも他の5社と大きく異なる問題点だ。ビットフライヤーは当局を欺くような説明を行っていたということだろうか?
なお、これらの問題点があることをふまえ、金融庁が同社に対応を求めた業務改善命令の項目は全部で10個あった。他の5社はこれが6~9個となっており、その数はビットフライヤーが一番多い。
総合的に見て、業務改善命令の内容はビットフライヤーに対して出されたものが一番重いという印象を受ける。
■利用者の預託した金銭が帳簿上の残高を下回る事態
次にビットバンクとビットポイントジャパンが抱える問題だと金融庁が認めた点について、紹介しよう。この2社には「利用者の預託した金銭が帳簿上の残高を下回る事態」といったような表現が共通して見られた。投資家の立場からすれば、自分の口座の資金に直結する問題だけに気になるところだろう。
そのほかの点も含め、ビットバンクの問題点として指摘されていることをまとめると以下のとおりだ。
・業容拡大を優先・重視する一方で、当社の社内規程は、業務の実態とかい離した内容のものが大半を占め、実際の管理で活用されていない
・利用者の預託した金銭が帳簿上の残高を頻繁に下回る事態が発生するなど、利用者財産の分別管理に問題あり
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・外部委託先管理に問題あり
そして、ビットポイントジャパンの問題点として挙げられていることは以下のとおりだ。
・業容拡大を優先・重視する一方で、利用者の預託した金銭が帳簿上の残高を継続的に下回る状況が予想されると報告されるも、取締役会で当該状況の解消策を検討していないなど当社の経営管理態勢に問題あり
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・利用者保護措置に問題あり
・システムリスクに問題あり
■Zaifの問題点はシステム障害や多発する苦情等
また、仮想通貨取引所Zaifを運営するテックビューロの問題点として挙げられていることは以下のとおりだ。この中では「システム障害や多発する苦情」という文言が含まれていることが目を引く。
・システム障害や多発する苦情等、当社が直面する経営課題に対し、組織的かつ計画的な対応が行われていない
・法令遵守に問題あり
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・利用者財産の分別管理に問題あり
Zaifはサーバに問題が起き、「502 Bad Gateway」という表示が出て、そのシステムにログインできないという現象が起きやすいことが仮想通貨投資家の間でよく知られている。「502 Bad Gateway」という表示はもはやZaifの風物詩的な扱いになっており、これは金融庁が「システム障害や多発する苦情」と表現していることと符合している。
次にQUOINEの問題点として挙げられていることは以下のとおりだ。
・仮想通貨交換業の主要な業務を委託しているグループ子会社に対し、委託業務の適正かつ確実な遂行を確保するための措置を講じていない
・法定帳簿が長期間に亘り未作成の状態であること等を取締役会等へ報告していない
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・反社会的勢力等との取引の未然防止に問題あり
・利用者財産の分別管理及び帳簿書類の管理に問題あり
そして最後に、BTCボックスの問題点として挙げられていることは以下のとおりとなっている。
・業容拡大を優先・重視する一方で、代表取締役に権限が集中し、取締役会及び取締役等がそれぞれの権能、職責を十分に果たしていない
・システムリスクに関して問題あり
・マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に問題あり
・反社会的勢力との取引の未然防止に問題あり
(ザイFX!編集長・井口稔)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)