■トルコリラショックはひとまず終息!?
「8月は取引参加者が少なく相場が荒れやすい」
今回、このことを改めて思い知らしめてくれたのがトルコリラ相場でした。
8月になってトルコと米国の関係が一段と悪化し、そこにトルコ自身の政治的・経済的な問題も重なってトルコリラが暴落したことは、ザイFX!でもお伝えしてきたとおりです。
【参考記事】
●トルコリラ/円が一時、16円台まで暴落! トルコリラ急落の震源地はユーロか!?
●トルコリラ/円は一時15円台まで大幅続落! 原因はトランプとエルドアンの両大統領!?
トルコ関連資産を多く保有する欧州の金融機関のリスクが警戒されたり、新興国からの資金流出懸念も連鎖的に高まって、金融市場全体がちょっとしたパニックに陥りました。
トルコリラ/円は8月13日(月)に一時、15円台半ばまで史上最安値を更新。8月1日(水)のトルコリラ/円は22円台半ばを中心に推移していましたから、わずか半月足らずで7円程度、率にして30%以上も下落する場面があったということ。まさに暴力的な下げでした。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
フリーフォールのようなトルコリラ暴落で、トルコを訪れている外国人旅行者が世界的な高級ブランド店に押し寄せているなんてニュースも話題になっていますが、トルコリラ/円の買いポジションを持っていた方にとっては、気になって仕方がない日々が続いたのではないでしょうか…。
ただ、先ほどの4時間足チャートを見ると、トルコリラ/円は15円台半ばが何度かサポートされて、そこから一時、19円台まで反発しています(それ以降はまた、上値が重くなっている感じにも見えますが…)
【参考記事】
●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)
米国とトルコの対立は続いていますが、ひとまず短期的に相場は落ち着いたようです。マーケット全体も冷静さを少し取り戻し、トルコ発の世界的な金融ショックが起こることはないといった声も増えてきたようです。
これでトルコリラが当面の大底を打った…のかはまだわかりませんが、現段階ではパニック的な動きがいったん終息に向かっているような感じですね。
■トルコが祝日になる犠牲祭に注意!?
しかし、市場で今、トルコリラに絡んで少し気にしておいた方が良いかもしれないと言われているイベントがあります。
それは「犠牲祭」。
恐ろしさを感じさせずにはいられない名前のお祭りですが、これはイスラム教で定められた宗教的な「イード」と呼ばれる大祭のこと。日本でも有名なラマダン(断食)明けに行われるイードと並んで、ムスリム(イスラム教徒)にとって非常に重要なイベントです。
国民の9割以上がムスリムのトルコにとっても、当然、犠牲祭は重要なイベント。犠牲際はトルコでは「クルバンバイラム(Kurban Bayrami)」と呼ばれ、多くの国民がお祝いをします。
ちなみに、ラマダン明けのお祭りはトルコでは「砂糖祭(イフタル・バイラム)」と言うんだそうです。甘いお菓子をみんなに振る舞うためにこう呼ばれているという説があるようですが、砂糖と犠牲…、なんとも対象的なネーミングですね。
では、犠牲祭はどんなことをするのかというと、毎年恒例のメッカ巡礼の最終日から4日ほど実施され、羊・牛・ヤギなどを生贄として神(アッラー)に捧げてお祈りをするんだそう。この間は、イスラム圏の国々は祝日となります。

上の写真はトルコと同じイスラム教国、パキスタン・イスラム共和国(通称・パキスタン)での犠牲祭の様子。こんなふうに家畜を吊るして神に祈りを捧げるんだそう。 (C)Anadolu Agency/Getty Images
なかなかインパクトのあるお祭りですが、この犠牲祭、今年(2018年)は8月21日(火)が開始日になるのです。
そう、まもなく祭りが始まるということ。これにあわせてトルコでは犠牲祭の前日となる8月20日(月)から24日(金)まで、1週間まるまる祝日となります。政府や金融機関も、少なくとも21日(火)から24日(金)までお休みとなります。
■FX各社で警戒感が高まっている様子…
そのため、犠牲祭によるトルコの連休中は、流動性が低下し、トルコリラ相場のボラティリティが高まるかもしれないというのが、ここのところ聞かれる話題です。
こうしたことからFX会社の中には、顧客に向けて、資金に余裕を持たせたり、ポジションの管理を徹底するよう注意喚起を行っているところがあります。

(出所:GMOクリック証券)
また、直近の暴落も踏まえたうえで、今後も通常よりスプレッドが拡大する可能性をお知らせしたり、急遽、トルコリラ/円のスプレッド縮小キャンペーンを終了することを決定したFX会社も見受けられます。
先日公開した以下の【参考記事】にもあるとおり、8月10日(金)にトルコリラ/円が暴落したときは、スプレッドが100銭(1円)まで拡大していた口座も存在しました。
【参考記事】
●イケダハヤト氏も知らない、トルコショックでもスプレッドが拡がらなかったFX口座とは?
すでにポジションを保有している方だけでなく、トルコリラ/円のトレードをやってみようかな…と思っている方も、しばらくはトルコリラ相場の動きと取引時のスプレッドには、特に気を配るようにしておいた方が良いと思います。
■トルコリラ相場を急変させるような材料やニュースはいっぱい
ただ、今回、犠牲祭のことを初めて知った方も多いと思います。強烈なネーミングのため、記者は存在だけ知っていたのですが、それがいつ実施されるものなのか、どんな内容なのかは把握しておらず、きちんと調べたのは初めてです。
個人的にあまり注目していなかっただけなのかもしれませんが、過去に為替市場で犠牲祭がトルコリラ相場に絡んだ材料として、大きく取り上げられた記憶もありません。ざっと調べてみても、過去にFX会社が今回のように注意を呼びかけていたケースは見当たりませんでした。
ちなみに、犠牲祭はイスラム教社会で主に使われているヒジュラ太陰暦の12月10日に実施されることになっているため、ヒジュラ太陰暦を使わない私たちから見ると、毎年、違った日にやっていることになります。昨年(2017年)は9月1日(金)が開始日でした。
ということは、これはあくまでも記者の個人的な考えですが、夏枯れ相場で市場の流動性が乏しいなか、トルコリラが大暴落した直後に犠牲祭が訪れるというタイミングの悪さが重なって、マーケットで必要以上に警戒されてしまっているのではないでしょうか。
しかしながら、8月17日(金)には、大手格付け機関がトルコの格付けを発表する予定になっていて、格下げが実施されるのではないかという警戒感が漂っています。また、米国とトルコの一段の関係悪化の原因となった、米国人牧師解放の行方に関しては、いきなり事態が変化するかもしれません。
高金利を嫌う独裁的なエルドアン大統領の影響力が強くて、思うように利上げできないトルコの中央銀行が、さすがにこのままではマズイ!とばかりに、どこかで緊急利上げを実施する可能性もゼロとは言えないでしょう。当然、それを祝日にやってはならない決まりもありません。

高金利を「悪」を呼んで中央銀行の利上げをけん制し続けるトルコのエルドアン大統領。さすがにこのままではトルコ経済もヤバイと思うのですが… (C)Anadolu Agency/Getty Images
つまり、トルコリラ相場を急変させるような材料やニュースはいっぱいあるわけです。犠牲祭の影響力がどれほどあるのかはわかりませんが、やはりトルコリラをトレードする方は、しばらくの間はいつも以上にリスクを抑えたうえで、慎重に相場に臨んだ方が良いと言えそうです。
というわけで、犠牲祭の影響がどれほどあるのかはよくわからないけれど…
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