■トルコの経常収支が3カ月連続で黒字に
12月11日(火)に発表されたトルコの10月の経常収支は27.7億ドルの黒字になりました。市場予想は25億ドルの黒字でしたので、10月の経常収支は予想以上に改善したことになります。
(出所:bloomberg)
経常収支の黒字は8月と9月に続いて3カ月連続となりました。また、昨年(2017年)の10月にトルコの経常赤字が38億ドルを超えていたことを考えると、前年同月比で60億ドル以上も改善したのは驚きです。
昨年(2017年)末におけるトルコの経常赤字は、対GDP比で5.5%であることは大きなリスク要因の1つとされてきました。
トルコがフラジャイル5(※)といわれる5カ国の1つとして見られるのも、経常赤字が大きいからです。足元の経常収支の改善はトルコリラにとって大きな追い風になります。
(※「フラジャイル・ファイブ」とは、モルガン・スタンレー(MS)が命名したもので、FRBによるQE(量的金融緩和)縮小で打撃を受けやすい5カ国の通貨を指したもの。ブラジル、トルコ、南アフリカ、インド、インドネシアの5カ国)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 週足)
■トルコリラ下落でトルコの観光収入がV字回復
トルコの経常収支改善の最大の要因は、観光収入のV字回復です。
TURSAB(トルコ旅行代理店連盟)の予想によれば、2018年にトルコを訪れた外個人は3600万人を超え、観光業の収益は350億ドルを超えるとのことです。
TURSABは、2019年についても楽観的な数字を示していて、最大で420億ドルの観光収益を予想しています。
トルコリラの下落でトルコ旅行の人気が上昇していて、ロシアやEU(欧州連合)諸国からの観光客が増えているとのことです。
また、2016年や2017年に比べ、今年(2018年)に入ってから大きなテロ事件が起きておらず、治安の改善も観光業の復活に大いに貢献しているようです。
■第3四半期GDPは予想下回るも、悪くない結果に
今週(12月10日~)発表されたもう1つ重要なマクロ指標は、第3四半期(Q3)のGDP成長率の速報値でした。第3四半期のGDP成長率はプラス1.6%となり、市場コンセンサスであるプラス2.2%を下回りました。
(出所:Bloomberg)
個人的には、もっと低い数字が出てもおかしくないと思っていましたので、この数字は悪くないと感じました。
第3四半期にトルコショックが起きたり、トルコ中銀の緊急利上げがあったりと、いろいろと悪いイベントが盛りだくさんだったことを考えると、この数字はそんなに悪くないと考えます。ちなみに、GDP成長率は、第1四半期がプラス7.4%、第2四半期がプラス5.2%でした。
【参考記事】
●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)
●トルコ中銀は、6.25%利上げで満額回答! トルコリラ/円が20円超えを目指すには…!?(9月14日、エミン・ユルマズ)
トルコリラはマクロ指標に大きな反応をせず、対円で21円台を維持しています。予想より悪いGDP成長率でも経常収支改善が市場に評価されていると考えています。
一方で、市場では、トルコ中銀が政策金利の引き下げを行うのではないかとの懸念が根強く残っていて、これがトルコリラのさらなる上昇の妨げになっています。
■経常収支改善と原油下落で、トルコリラは堅調維持
先週、12月5日(水)のコラムでも指摘しているとおり、個人的には利下げがないと予想しており、利下げよりもトルコ政府の景気刺激策の方を懸念しています。
年明けに、地方選挙向けの対策として一連の景気刺激策が打ち出される可能性があり、これらが間接的な金融緩和となりかねません。
【参考記事】
●懸念すべきは、トルコ政府の景気刺激策。価格高騰でトルコ「タマネギ騒動」勃発か!?(12月5日、エミン・ユルマズ)
足元の経常収支の改善と原油価格の下落を考慮し、トルコリラは引き続き堅調に推移すると予想しています。
【参考記事】
●原油が弱気継続ならトルコリラも上昇継続! でも、ハルクバンクの罰金次第で20円割れも(11月14日、エミン・ユルマズ)
●インフレ減速と原油下落はトルコに追い風! 21円台維持はハルクバンクへの罰金次第か(11月7日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 週足)
一方で、市場の利下げ懸念が払拭されない限り、トルコリラが対円で22円を超えることは難しいと考えます。現時点で22円を明確に超えるには、今ひとつ材料が足りない状況です。
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