■インフレ減速はトルコリラに追い風
11月5日(月)に、トルコの10月CPI(消費者物価指数)が発表されました。10月は、前月比で2.67%増となり、9月の6.30%増に比べてインフレが減速しました。
(出所:Bloomberg)
この数字は私の予想範囲内ですが、トルコ政府は、もっと低い数字を期待していたようです。10月の結果を受け、CPIは前年比で25.24%となりました。
(出所:Bloomberg)
今回、もっともポジテイブなデータは、PPI(生産者物価指数)に見られました。PPIの上昇は、9月の10.88%増から0.91%増に縮小しています。
(出所:Bloomberg)
これは、11月のCPIにも期待をもたせる結果です。
トルコ中銀は10月31日(水)に、今年度末のCPIの予想を13.4%から23.5%に引き上げたばかりなので、インフレの大きな下落は期待できないものの、年後半のインフレ上昇の勢いが止まるだけでも、トルコリラにとっては大きな追い風だと考えます。
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■トルコリラ/円はトルコショックから約3割上昇
トルコリラは、今週(11月5日~)も上昇トレンドを継続させ、対円で21円を超えてきました。8月のトルコリラショックの底値から約3割も通貨が上昇したことになります。
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トルコリラ上昇の背景には、ファンダメンタルズの改善とトルコの外交・政治的なポジションの改善、両方の理由があると考えています。
【参考記事】
●なぜ、トルコリラは上昇しているのか…!? 原油価格とトルコリラは逆相関関係にある(10月31日、エミン・ユルマズ)
まず、ファンダメンタルズの方ですが、足元でトルコの経常赤字は縮小傾向にあります。
トルコリラの下落によって、トルコの輸入総額は減少しました。これには、輸入商品の価格上昇に伴い、消費が急激に減ったという…実は、あまり喜べない背景もありますが、一方で、原油価格の下落という、トルコ経済にとって真にポジティブな動きもあります。
トルコの経常赤字の中身は、ほとんど原油であることから原油価格の下落はトルコリラに大きな追い風になっているのです。
(出所:Bloomberg)
■ブランソン牧師解放などで米国、ドイツとの関係改善も
外交・政治的な面ですが、ブランソン牧師の解放が米国との関係改善につながり、トランプ政権はトルコへの制裁措置を解除しました。
【参考記事】
●ブランソン牧師釈放。経済制裁解除も近い!?トルコリラ/円は20円超えに向けて上昇中!(10月17日、エミン・ユルマズ)
米国に帰国後、ホワイトハウスでトランプ大統領と会談するブランソン牧師 (C)Mark Wilson/Getty Images
間もなく開始されるイランへの原油制裁からも、トルコを一時的に免除することが決まっています。イランへの原油制裁から免除されている8カ国にトルコが入っていることは、米国との関係が改善している明らかな証拠だと考えます。
また、エルドアン政権は、ドイツとも関係改善を図っていて、これも市場にポジテイブに評価されています。
【参考記事】
●エルドアン大統領のドイツ訪問は好材料! 米国人牧師釈放ならトルコリラ/円20円超え(10月3日、エミン・ユルマズ)
メルケル首相と握手するエルドアン大統領。エミンさんは、ドイツとの関係改善を図るエルドアン政権について、市場にポジティブに評価されているとの見方を示している (C)Bloomberg/Getty Images
ドイツの経済エネルギー省のペーター・アルトマイヤー大臣は、10月25日(木)~29日(月)まで、ドイツ産業界トップ企業の関係者、約80名といっしょにトルコを訪問しました。
移民問題に悩まされているドイツ政府は、トルコ経済の破綻が移民問題を悪化させると懸念しています。そのため、トルコへの経済支援は、ドイツの国家安全保障のためにも必要だと考えているようです。
■トルコリラ/円21円台維持は、ハルクバンクの罰金次第か
これらの動きを受け、トルコリラの堅調なトレンドは継続すると考えています。しかし、トルコにとって、すべてがバラ色というわけではありません。
トルコ国営銀行のハルクバンクの裁判の結果は、まだ出ていません。ハルクバンクは、米国が2012年にイランに対して行った経済制裁を回避し、マネーロンダリングを行ったなどの容疑に問われていて、米国当局から大きな罰金が課されるとの懸念があります。
ブランソン牧師の解放にあたって、トルコと米国の交渉の際に、トルコ政府がハルクバンクを交渉カードの1つにするケースもありました。
ブランソン牧師解放の代わりに、米国はどこまで譲歩したのか、もしくは、まったく譲歩しなかったか、現時点では不明です。
ハルクバンクの罰金の大きさによって、トルコリラ/円が21円台を維持できるかどうかも決まると考えます。罰金が1兆円以下に収まる場合、為替にさほど影響はなく、1兆円以上の場合は、トルコリラ売りの要因になると予想しています。
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