■年始早々、シリア問題が大きな話題に
トルコでは年始早々、またシリア問題が大きな話題になっています。
トランプ大統領が、米軍をシリアから撤退させる決断をしたことは、シリア問題を非常に複雑化させました。
【参考記事】
●トランプ大統領が米軍のシリア撤退表明! 2019年のトルコリラは地政学リスクが鍵に(2018年12月26日、エミン・ユルマズ)
米軍撤退は、トルコにとって外交勝利にも見えましたが、一方で米外務省とペンタゴンは、この突然の判断の後処理に走っています。
■テンション高めの会談で溝は埋まらず…
ボルトン補佐官は、今週(1月7日~)トルコを訪問し、エルドアン大統領の特別補佐役であるイブラヒム・カルン氏と会談しました。
トルコメディアによると、2時間に及んだ会談でも両国の溝は埋まらず、テンションも非常に高かったようです。
会談後に予定されていたエルドアン大統領とボルトン補佐官の写真撮影も中止され、ボルトン補佐官は、そのまま空港に向かいましたので、トルコメディアのウワサは正しいと考えます。
エルドアン大統領は、その後(1月8日)、与党AKP(公正発展党)の議員に対して演説を行い、「ボルトンは重要な間違いを犯している。我々にとって、ISIS(イラク・シリア・イスラム国)とYPG(クルド人民防衛隊)やPKK(クルディスタン労働者党)の違いはない」と話しました。
ボルトン補佐官は重要な間違いを犯していると話したエルドン大統領。米国とトルコの溝が埋まらないワケとは? (C)Anadolu Agency/Getty Images
■米国とトルコが対立するワケとは?
米国とトルコの対立は、どこからくるのでしょうか。それは、エルドアン大統領が言っている、YPGとPKKのことです。
YPGは北シリアのクルド勢力です。一方で、PKKはクルディスタン労働者党のことで、長年、トルコ軍と戦ってきた分離独立テロ組織のことです。
PKKは米国でもテロ組織に認定されていますが、YPGはテロ組織に認定されていません。トルコは、PKKとYPGは実質、同じ組織だと主張しています。しかし、米国はYPGとPKKを区別しているだけなく、ISISとの戦いでYPGと同盟関係を組んで、軍事機器、資金の支援をずっと行ってきました。
エルドアン政権とブランソン牧師の件で対立していた期間も長く、米軍がシリアでクルド勢力を頼らざるを得なかったのは事実です。
【参考記事】
●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(2018年8月15日、エミン・ユルマズ)
写真はトルコに長期間拘束されていたときのブランソン牧師(中央)。エミンさんは、米軍はシリアでクルド勢力に頼らざるを得なかったのも事実だという (C)Anadolu Agency/Getty Images
しかも、シリアにいる大国は米国だけではありません。シリアにおけるロシアの存在力は、米国の数倍以上です。
米軍の撤退ニュースを受けて、YPGはアサド政権、つまりロシアに助けを求めました。トルコがもし、シリアに侵入したら米国だけではなく、ロシアやイランとも対立することになります。
これは、軍事的にも政治的にも大きなリスクです。
ロシアは、アサド政権がシリアの北部をクルド人から奪還すれば、トルコが心配することがなくなると主張しています。個人的にもエルドアン政権は米国との合意なしにシリアに侵入することがあっても、ロシアとの合意なしにシリアに侵入することはまずあり得ないと思います。
■年初から乱高下したトルコリラ/円は、再び売りが優勢に
トルコリラの方ですが、2019年1月3日(木)のフラッシュ・クラッシュで大きく下がる場面もありましたが、その後、すぐに対円で20円台を回復しました。
しかし、米国とトルコのテンションの高まりを受け、トルコリラは足元で再び売られています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
もう1つのトルコリラ売り要因は、42ドルまで下がっていた原油が上昇に転じ、原油価格がWTIで50ドルを回復したことです。
(出所:Bloomberg)
個人的には、原油価格が70ドルまで戻る可能性は低く、しばらくの間、45~55ドルのレンジに落ち着く可能性が高いと考えます。
原油はこの価格帯で推移すれば、新興国通貨にも大きな影響を与えないと予想しています。
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