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西原宏一_メルマガ取材記事
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新英首相ボリス・ジョンソンってどんな人?
合意なき離脱を呼ぶ!? ナルシストの正体!

2019年07月30日(火)16:39公開 (2019年07月30日(火)16:39更新)
ザイFX!編集部

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■ボリス英首相誕生の布石

●風の流れを読むのが上手

 ボリスを見ていると、世論(風)の流れを読むのがうまいと感じる。

 国民は何を求めているのか? 国民の求めているものが、変わろうとしているのか? 国民の関心が高く、共感を得られることは何か?それを正確に把握する力がボリスには備わっている。あるいは、ボリスのブレーン(取り巻き)に、そういう人物がおり、正確なアドバイスをおくっているのかもしれない。

 風を読むことは、政治家としてすばらしい才能であるが、これが裏目に出ることもある。それは、その時々の「国民が欲しているであろう流れ」に乗って発言するため、一貫性がない、ということだ。だから私は、ボリスの言うことはあまり信用していない。

●Brexitは首相への階段

もっとも典型的な「ボリスの心変わり」はBrexitである。

 もともと残留支持であったボリスは、2012年にBBCテレビで、「英国にとって、もっとも重要であるのは、欧州単一市場である。もし、国民投票が本日行われるのであれば、残留に票を投じる」と語っている。

 翌年5月には、英テレグラフ紙の自身のコラムで、「もし英国がEUを離脱したとしたら、我々が直面していた問題はEUに加盟しているから起きているものではないと気付くはずだ。EUを離脱しても、我々の問題は解決しない」と書いている。

 問題は、国民投票が実施された2016年であった。

 同年1月には、テレグラフ紙のコラムで、「欧州単一市場は、英国の企業や消費者にとって、数々の恩恵を与えてくれている。つまり、英国がEUから離脱するということは、将来に対する不安が増えることを意味する。英国がEUのメンバーで居続けることは、欧州だけでなく世界全体にとっても、恩恵をこうむるということだ」と書いた記事を載せる予定であったが、直前に自分で差し押さえた。

 それから数日後の2月、当時のキャメロン首相に、「僕は離脱チームを引っ張っていく」と告げ、突然の心変わりにキャメロンさんは開いた口が塞がらなかったと言われている。

 このとき、ボリスのサポートをしていた議員が語ったことが的を得ている。「ボリスはBrexit国民投票という舞台に立って、主役の首相になることを決めた。手始めに離脱キャンペーンのリーダーになることを決心したが、離脱であろうが、残留であろうが、ボリスにとっては、首相になる道具でしかない」

ボリス氏の発言内容
ボリスの発言内容
2012年 欧州単一市場が大事。残留票を入れるつもりだ
2013年5月 EUを離脱しても、英国が抱える問題は解決せず
2016年1月 欧州単一市場は、英国に恩恵を与える。もし離脱
したら、将来の不安が増えることを意味している
2016年2月 離脱チームを引っ張る覚悟を表明

※筆者作成

●ポスト・キャメロンを狙って失敗

 ボリスの読みが当たり、国民投票の結果は離脱となった。

 離脱となれば、残留を支持していたキャメロン首相が辞任に追い込まれるのは確実であり、晴れて自分が首相になれる!と喜んだボリス。しかし、キャメロン氏の辞任後に行われた保守党党首選で起きたゴーブ元環境相・現ランカスター公領大臣の裏切り行為により、ボリスは党首選から降りることを決意。

 つまり、ボリスとしては2016年国民投票後に首相となるつもりが、思わぬ誤算により、2019年の今まで待たなければならなかったことになる。

■ボリスの3つのスピーチ

 7月23日(火)の党首就任、24日(水)の首相就任、そして25日(木)の議会初日、それぞれでスピーチを行なったボリス。発言内容が微妙に変わってきているのが気になる。

●7月23日(火)党首就任スピーチ

 この日のスピーチのタイトルは、「DUDE(米国英語で友達という意味や呼びかけに使われる)」。それぞれの意味は、以下のとおりだ。

Deliver
Brexitを10月31日(木)までに国民に届ける

Unite
Brexitで分裂している英国連合王国をひとつにまとめる

Defeat
労働党コービン党首をボコボコにする

Energise
英国を元気にする

 ビートルズのヒット曲「Hey Jude」になぞらて、翌日の新聞一面では、「Hey Dude! Don't make it bad」というタイトルが付けられていた。

スピーチの中で、ボリスが対欧州に対し、やさしい言葉を投げたのを聞いて私は驚いた。と言うのも、党首選決選キャンペーン中ずっと、「何があろうが10月31日(木)までに離脱する。そのためなら、議会を一時休会にすることも辞さない」と息巻いていたボリスが、このスピーチではEUに対し、友好関係を維持したいというメッセージを送っていたからだ。これを受けて英ポンドは買われていた。

<ボリスの党首就任スピーチの内容>

「And today, at this pivotal moment in our history, we again have to reconcile two sets of instincts, two nobles sets of instincts, between the deep desire for friendship and free trade and mutual support in security and defence between Britain and our European partners, and the simultaneous desire - equally deep and heartfelt - for democratic self government in this country.

●7月24日(水)首相就任スピーチ

 前日の党首就任スピーチとは一転し、欧州に対して厳しい発言を発したのが、この日のスピーチである。

 内容をまとめると、以下のとおりだ。

・ 英国議会は10月31日(木)にEUから離脱する。「もし」でも、「しかし」でもない事実だ
・ 英国とEUとの間では、新しいBrexit合意を取り付ける
・ バックストップ案は破棄。首相である自分が全責任を取る
・ できれば、条件付きで離脱したい
・EUがこれ以上の交渉を拒否するリスクが、まったくないわけではない
・交渉ができなけければ、無理やりにでも離脱に追い込まれるかもしれない
・ 万が一のため、合意なき離脱の準備は必要だ

 このスピーチを聞いていて非常に違和感を感じた。というのは、英国が合意なき離脱をするのは、自分たちの都合であると思われていたが、突如として「EU側の協力が得られないから、自分たちは犠牲者?」という論調に変わっていたからである。

●7月25日(木)議会での最初のスピーチ

 議会の首相席に座ったボリスは開口一番に、Brexitについてのスピーチを行なった。

英国議会のウェブサイト(ボリスの首相就任演説)

(出所:英国議会ウェブサイト)

 そこでは、「いかなる状況になろうが、10月31日(木)に英国がEUから離脱するため、政府は一丸となりがんばる。私は今でも、条件付きの離脱が可能であると信じている。メイ首相のBrexit案は議会で3回続けて否決された。私はもう一度、はっきり言おう。バックストップ案が含まれる離脱案は、受け入れられない。

 この問題については、貿易交渉と並行して解決したい。我々は全力で解決に向けて努力する。だから、EUも同じだけの努力をしてほしい。もし、それが無理となれば、英国は合意なき離脱を選ばざるを得ない」と語った。

 通常、新しい首相や大統領が就任すると、最初の100日間を「ハネムーンピリオド」と呼ぶ。米国のトランプ大統領の時も、フランスのマクロン大統領の時もそうであった。

 たが、ボリスの場合、10月31日(木)が首相就任日から数えて99日目にあたり、100日間のハネムーンピリオドを経験できない。普通であれば、ハネムーンピリオドで起きた問題や発言は、報道機関もわりと大目に見てくれるが、ボリスの場合は、そうはいかないようだ。

■Brexit強硬派内閣誕生

 ボリスにはいろいろ驚かされているが、組閣メンバーを見た瞬間、私は凍りついた。トップ3と言われる財務相・外務相・内務相の人事に、かなり驚きの部分があったからだ。

 財務相は、元ドイツ銀行のディーラーで数字に強いジャビッド元内務相。この人選には、特に異論はない。

 次に、外務相兼筆頭国務大臣(副首相)となったのが、ラーブ元Brexit相。この人は、合意なき離脱を断行するため、議会の一時休会を認める人物である。そんな人物が副首相とは、この先が心配される。

 そして、トドメは、内相に任命されたパテル元国際開発副大臣。この方は女性であるが、死刑制度賛成という立場であり、国民の間でも「本当に大丈夫か?」という声が出てきている。

●残忍な間引き内閣

 英インディペンデント紙が、「Brutal Cull=残忍な間引き」というタイトルの記事を載せている。ここでの間引きとは、「ボリスは、メイ政権29名の閣僚のうち、18人を解雇し、自分についてきてくれる右寄りの人物を内閣に集めた」という意味である。

 決選投票でいっしょに戦ったハント元外相に対しては、防衛長官の職を提示したボリス。ハント元外相としては、防衛長官という降格人事は承諾できず、その申し出を断り、辞任した。

●裏切り者をあえて選択

 過去、一度も聞いた記憶がないランカスター公領大臣職。その役職に、2016年の党首選でボリスを裏切ったゴーブ元環境相が抜擢された。

 2016年の党首選以降、ボリスとゴーブ氏の不仲は有名であるが、最近になり和解したと言われている。ボリスにとっては、気心が知れ、悪だくみ好き同士の関係は、なかなか絶てないのかもしれない。

 ランカスター公領大臣という役職は、言い換えれば、首相の小間使い的な立場で、首相が立場上、あるいは時間的にできないことを命じ、根回しをお願いするための役職らしい。

●もう一人の問題児

 今回の組閣メンバー発表時に、英国メディアの間でどよめきが起きたのが、首相のチーフアドバイザーが発表された時だった。

チーフアドバイザー​は2016年国民投票で離脱チームのキャンペーン長を務めたカミングス氏、別名:キャンペーンの天才。ただし、この人物を取り巻く悪いウワサには事欠かない。

ボリスジョンソンやマークスペンサーとともに、部屋の隅にドミニク・カミングス氏の姿

ロンドンの中心部ダウニング街にある首相官邸に到着したボリス首相。松崎氏の指摘どおり、服装はパリッとしている。握手を交わしているのは英内閣官房長官などを歴任してきたマーク・セドウィル氏、写真左はボリス政権で下院議長と国務長官に任命されたマーク・スペンサー氏。そして、写真右奥の隅っこに、なぜかTシャツ姿でぼんやりと映っているのが、「キャンペーンの天才」の異名をとる問題児、ドミニク・カミングス氏! (C)WPA Pool/Getty Images News

 「EUに拠出金を支払う必要がなくなるので、毎週3億5000万ポンドが英国の医療制度(NHS)に使用可能となる」というキャッチを、ロンドンの赤い2階建てバスの側面に書き込み、国民投票キャンペーン期間中、バスを引き連れて離脱派は全国をまわった。この戦略を考えたのが、他ならぬカミングス氏である。

 そして、国民投票が終わってから、「あのキャッチは、100%正確ではなかったかもしれない」と暴露。

 それ以外にも、Facebookとデータ分析専門会社ケンブリッジ・アナリティカ社による個人データ収集と使用の疑いやロシアのフェイク・ニュースとの関わりが、国民投票結果に影響した可能性があるとして、英国議会で証言をするよう命じられた。

 しかし、議会証言をすっぽかし、議会侮辱に認定された悪評高い人物だ。

 この人に関しては、ロシアという単語がよく出てくるが、大学卒業後、ロシアで就職したこともあり、ロシアとのコネクション疑惑が常につきまとう。このような限りなく黒に近い人物がボリスの主席アドバイザーとして首相官邸に入って行く姿を見ると、保守党のBrexit支持議員でさえ、びっくりしたそうだ。

 同氏の好き嫌いはいったん置いておき、この人物の任命により、ボリスは解散総選挙を早める可能性があると、英インディペンデント紙は指摘している。保守党議員の反感を買うことを覚悟で「キャンペーンの天才」を選んだことは、解散総選挙を念頭におき、選挙キャンペーンを任せようという魂胆があるということであろう。

 しかし、議会では、これだけの危険人物が首相の主席アドバイザーとなれば、機密情報の漏えいリスクがあるため、同氏の権限制限に対し、議会で採決が行なわれる可能性があるとも言われている。

 首相就任翌日(7月25日)、ボリスはユンケル欧州委員会委員長や…

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