■離脱日前後までのタイムライン
10月31日(木)の離脱日前後の重要なイベントは、以下のとおりである。ここでは、解散総選挙は実施しないという前提で作成している。
9月3日(火)に夏休みが明け、議会が再開するが、秋の党大会シーズン到来ということで、すぐに休会となる。さすがに、これだけ日程的にキツイと10月31日(木)に合意なき離脱となるリスクを覚悟せざるを得ない。
※筆者作成
■ここからのマーケットはどうなる?
ここにきて、英ポンドが下げ足を速めている。
●英ポンド/米ドルのパリティー予想
ある米系銀行は、先週(7月22日~)、このような予想を発表した。
「The pound has come under intense selling pressure since Prime Minister May withdrew from her party leadership position, leaving markets with increased concern that the U.K. may be heading towards a harder Brexit, Should this scenario materialize, pound-dollar could fall into the $1.00-$1.10 range.」
日本語にすると、「メイ首相の辞任発表以来、英ポンドは継続して売られている。これは次期政権下では、よりハードなBrexitとなることへの懸念の表れであろう。もし、シナリオどおりとなれば、英ポンドは対米ドルで、1.00~1.10くらいまで下落する可能性がある」というものである。
この予想が発表された時の英ポンド/米ドルは、1.24台。予想どおり、1.10台まで英ポンドが下落すれば、11%の英ポンド安。パリティ(1.00)となれば19%安となる。
2016年の国民投票後の英ポンド安は18%。あの英ポンド安で、英国のインフレ率(CPI=消費者物価指数)は0%台から一気に3%を越えた。
(出所:Bloomberg)
もし、合意なき離脱で英ポンドがパリティになった場合、19%の英ポンド安により、英国のインフレ率は果たして何%になるのだろうか?
景気悪化のリセッション入りと英ポンド安によるインフレ率上昇。スタグフレーション間違いなしのシナリオとなるが、それでも英中銀は利下げを断行できるのだろうか?
●ある欧州系銀行の予想
以下は、欧州系銀行がまとめたBrexitシナリオ別の予想である。参考までに掲載しておきたい。
シナリオ | 可能性 | 交渉期間 延長 |
予想 | |
解散総選挙 | 合意なき離脱が議会で否決→内閣不信任案→解散総選挙 | 40% | あり (3カ月) |
ユーロ/英ポンド 0.95ポンド 英ポンド/米ドル 1.18ドル |
Brexit案刷新 | 解散総選挙を避けるため新Brexit案で離脱 | 25% | あり |
ユーロ/英ポンド 0.85ポンド 英ポンド/米ドル 1.34ドル |
合意なき離脱 | 交渉期間延長失敗、あるいは、とにかく離脱 | 20% | なし |
ユーロ/英ポンド 1.00ポンド 英ポンド/米ドル 1.10ドル |
2度目の 国民投票 |
総選挙の代わりに実施 | 10% | あり (6カ月以上) |
ユーロ/英ポンド 0.82ポンド 英ポンド/米ドル 1.40ドル |
50条を破棄 | Brexitをなかったことに | 5% | なし |
ユーロ/英ポンド 0.78ポンド 英ポンド/米ドル 1.47ドル |
※筆者作成
●私の独断シナリオ
これは今後の英中銀の動きを考えながら、私が独断で作成したチャートである。上記の欧州系銀行の予想とはだいぶ違い、合意なき離脱予想が高いのが特徴かもしれない。
シナリオ | 可能性 | 英中銀 | 英ポンド |
10/31 合意なき離脱 |
40% | 政策金利 50bpカット QE策 再スタート |
↓↓ |
期間延長後 総選挙 |
35% | 政策金利 25bpカット |
初動は↓ その後は 結果次第 |
10/31 条件付き離脱 |
15% | 政策金利 据え置き |
初動は↓ その後は 不明 |
2度目の 国民投票 |
10% | 残留となれば 政策金利 引き上げ |
↑ |
※筆者作成
今後のボリス政権からの発表内容により、ここに書いた可能性の数字は大きく変化することは言うまでもないが、これらの数字が、現在、ロンドンに住んでいる私の肌感覚であると思っていただきたい。
●ここからの英ポンドの相場予想
最後に、ここからの英ポンドについて書いて終わりにしよう。
ボリス内閣誕生により、いつ、どのタイミングで、どんなヘッドラインが出てくるかわからず、今後も引き続きヘッドライン・ドリブンのマーケットとなることが予想される。
ここでは、3枚のチャートをご紹介する。
最初は、英国中銀が毎日発表しているポンド実効レート。下落チャネルの下限に到着。ここからは、75.40台を通る薄い緑色の点線でサポートされない限り、最安値更新も視野に入ってくる。
(出所:BOE)
次は、ユーロ/英ポンドの週足チャートである。
(出所:Bloomberg)
レジスタンスが0.9030-40を通っている。英ポンド実効レートが75.40台でサポートされれば、ユーロ/英ポンドも、このレジスタンスで、いったんは調整が入るかもしれない。
最後は英ポンド/米ドルの週足に、200週SMA(※)を入れたチャートである。
(※編集部注:「SMA」とは単純移動平均線のこと)
(出所:Bloomberg)
ここでは値動きだけでなく、200週SMAからの乖離に注目してほしい。今週(7月29日~)は黒い丸で示したサポート付近での推移となっている。実効レートも、ユーロ/英ポンドも、英ポンド/米ドルも、それぞれがサポート近くまで来ている。週足のため、確定までには時間がかかるが、これ以上悪い材料が出なければ、いったんは調整が入ってもおかしくないレベルということになる。
特に英中銀関係者にとっては、これ以上の英ポンド安はインフレ率に影響を与えるため、口先介入らしき発言には十分注意が必要である。
最終的に、合意なき離脱が避けられない状況になれば、一層の英ポンド安は避けられないだろう。それがどのタイミングで出るのか? 誰にもわからないのが歯がゆい。
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