■前代未聞の議会閉会
7月24日(水)に保守党の党首就任演説で語ったとおり、ボリスは離脱の形、方法よりも、10月31日(木)の離脱期限を重視する姿勢に、今でも一切の変化がない。

7月24日(水)、首相官邸に到着したボリス首相(左)。ボリス首相が10月31日(木)の離脱期限を尊重する姿勢は、この時から今もずっと変わっていないようだ (C)WPA Pool/Getty Images News
そして、10月31日(木)という期日にこだわるあまり、とうとう前代未聞の5週間にも及ぶ議会閉会を引き起こしてしまったのである。前日にコービン党首が議会閉会の噂について話したので、ボリスはあわてて見切り発車の形で、閉会の事実を発表したように思えた。
● 首相信任4週間後の「議会閉会」発表
議会再開を約1週間後に控えた8月28日(水)に事件は起きた。私はBBCニュースで知ったが、英国議会の公式Twitterでも発表された。
The Prime Minister has asked the Queen to suspend (prorogue) Parliament in the 2nd sitting week of September.
— Commons Library (@commonslibrary) August 28, 2019
How does #proroguing Parliament work? And what are the consequences? Our recent briefing explains what you need to know https://t.co/fFilJGQUCy #prorogation
要約すると、「首相はエリザベス女王に対し、9月第2週目から議会を閉会するよう、要請した」というものだ。これだけ長期に及ぶ閉会について、コックス検事総長は違法行為ではないと擁護している。
私もはじめて知ったが、新国会がスタートする時に実施されるエリザベス女王の施政方針演説直前に、必ず議会は閉会するそうだ。しかし、それはせいぜい3~4営業日程度であり、今回のような5週間という長期に渡る閉会は、戦後最長ということである。
当然であるが、休会ではなく閉会となるため、ブレグジットに関する議会での審議をはじめとする一切の活動が停止する。ただでさえ時間が足りず困っているのに、わざわざこのタイミングで5週間もの閉会とは…驚きを越えて、呆れて言葉を失った。

※筆者作成
■ボリス劇場の幕開け
翌日に議会再開を控えた9月2日(月)、次の事件が起きた。
●野党連合、緊急審議(SO24)要請の噂
コービン党首を筆頭とした野党連合に、保守党残留支持議員と、同じく保守党の合意なき離脱反対議員たちが、緊急審議(SO24)か内閣不信任案動議を議会初日に提出し、ボリスをボコボコにすると発表したからだ。
保守党元財務相のハモンド氏は、「2017年総選挙における保守党マニフェストは、【スムーズで秩序ある離脱】であり、EUとの関係も【密接で特別な関係】を続けると約束している。それに反し、ボリスは合意なき離脱を議会閉会を強制してまでも実行に移そうとしているが、それこそが保守党の本筋から外れることである」と語り、宣戦布告。
蜂の巣を突いたような報道合戦が英国中で繰り広げられた。
●ボリスの反撃
この宣戦布告を黙って見過ごすボリスではない。
間髪を入れず、「党議拘束(Whip)に反した保守党議員はすべて、保守党から強制的に離党させることを約束する」と発表した。
メイ前首相時代に、党議拘束に反した投票をしたボリス本人が、このような発表をしたのが笑えた。
そして、同時にボリスは、同日夕方から緊急閣議招集を呼びかけた。緊急ということは、ブレグジット前に解散総選挙を実施するのではないか? またしても、報道陣はどよめいた。BBCは早速、「今後、72時間以内に、解散総選挙の決定があるかもしれない」と報道したのである。
この閣議終了と同時に、ボリスは首相官邸前からスピーチを行い、「何がなんでも、どうしてでも、10月31日(木)に英国はEUを離脱する。EUに対し、交渉期間の再延長など絶対に要請しない。総選挙などやらずに、離脱に向けて動こう」と語った。
ボリスが頭で考えていることと、口に出す言葉には一貫性がないことは誰もが知るところだ。ボリスの思惑などお構いなしに、10月15日(火)投票日で総選挙実施という話が英国中に溢れかえり、英ポンド/米ドルが1.20ドル割れを試す展開となるには、そう時間はかからなかった。

(出所:TradingView)
■議会の主導権を奪った野党連合
議会は初日から、めまぐるしい展開となった。
●緊急審議(SO24)
議会再開早々、SO24と呼ばれる緊急審議(Emergency Debate、別名: SO24 Standing Order No.24 議事規則24号)を保守党レトウィン卿が提出した。
これは、緊急を要すると判断された場合にのみ許される「緊急審議」制度であり、議員が議長に申請し、認められた場合に限って月曜日から木曜日の議会中で、「3分間だけ要点をまとめて話すこと」が許される。
もし議長が、その内容が本当に緊急性を要すると判断した場合に限り、法案として審議するに値するかを、議会で決定する。そして、通常はその翌日に緊急審議が行なわれる場合が多い。
●レトウィン卿の緊急審議内容
気になる緊急審議の内容であるが、こちらがその一部である。

(出所:英下院)
簡単に説明すると、野党連合と保守党反対派の超党派による反対組は、何としてでも10月31日(木)の合意なき離脱を避けたいので、それを可能とする法案を提出したい。しかし、議会は通常、政府がコントロールするものだ。そうなると、反対組の法案など審議するチャンスは巡ってこない。
そこで、一時的に政府から議会の主導権を奪って野党が自由に時間を使えるようにし、その時間の中で法案提出、審議、採決にもつれ込ませようとしたのだ。
●緊急審議に対する採決
レトウィン卿の緊急審議要請に対し、議会で採決が実施された。結果は、賛成328VS反対301となり、27票差で可決。これで、翌日の議会では、3時間に及び、一時的に政府の主導権が失われることが決定した。
ボリス、初めての敗北――。
■21名の保守党議員、強制離党(除名)処分発表
緊急審議に対する採決で、賛成票を投じた保守党造反議員21名に対し、ボリスは強制離党(除名)処分にすると発表。これら21名の議員のほとんどが閣僚経験者であり、その中にはウィンストン・チャーチル元首相のお孫さんも含まれた。
チャーチル氏を尊敬して保守党議員となった議員たちの不満は爆発した。スコットランド保守党のデービッドソン党首は、辞任を発表している。
のちのち、この決定は、自分の家族にまで影響を及ぼすことになるとは、ボリス自身も考えなかったのであろう。
●ボリス政権、マイナス43議席のWorking Majority
前日まで311人であった保守党議員数。しかし、21名の除名処分を受け、これが290議席へ減少。それに加え、1名が自民党へ造反し、保守党議席数は289にまで減った。
この議席数であれば、保守党は法案成立に必要な議席の過半数(Working Majority)に43議席足りない計算となる。さすがに、これで政策運営は不可能であるため、ボリスは、どうしてでも解散総選挙実施をたくらむはずである。
前日の緊急審議実施が可決したことを受け…
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