■WHOは緊急事態宣言もマーケットは冷静
中国新型肺炎が広がりを見せるなか、WHO(世界保健機関)はついに緊急事態を宣言した。
一方、貿易や渡航を制限する必要はないとWHOは繰り返し強調。記事執筆時点で、マーケットも冷静にその決定を受け止めているように見える。
米国株をはじめ、為替など金融市場は保ち合いに留まり、パニック的な反応がないばかりか、米国株の底堅さが改めて認識されるほど落ち着いている。
【参考記事】
●中国の新型肺炎では株高・円安のトレンドは変わらない! 押し目買いの好機到来!(1月24日、陳満咲杜)
「WHOの見解には中国政府の工作が効いた」といった陰謀論も浮上してきたが、中国政府がWHOに圧力をかけたことに異議はないものの、WHOの言い分が間違っているとも思わない。
なにしろ、世界のサプライチェーンにおける中国の役割を考えれば、仮にWHOが貿易制限を言い出しても意味はないと思われるからだ。
工業生産活動は、今や中国なしでは世界が動かないと言っても過言ではないから、それがWHOの決定に左右されるはずはない。
だから、米国が中国への渡航中止勧告(警戒レベル最高、事実上の禁止)を出しても、マーケットは冷静に受け止めている。
■新型肺炎のマーケットに対する影響はもうピークか
新型肺炎の蔓延はこれからピークに向かっていくと思われるが、認識された危険度に収まるなら、大きなパニックにはならないだろう。
マーケットはいつも将来のことを予測し、また、その予測を織り込む形で価格を形成しているから、危機や危険そのものではなく、その度合いが認識された範囲に収まるかどうかを重要な物差しとして測るべきであろう。
この意味では、肺炎自体のピークはこれからだが、マーケットに対する影響はもうピークを過ぎたか、近々ピークを越えていくと思う。
■押し目買いの最高のチャンスがくる可能性が高い
記事執筆時点で米ドル/円は109円前後を保ち、日経平均は2万3000円台を維持している。
結論を言うのがまだ早いと思いつつ、あえて言うなら、筆者は今回の中国新型肺炎がもたらしたリスクオフの動きはこの程度で収まるのではないかと見ている。
また、やや不謹慎な言い方をすれば、今回の肺炎の件自体は災難というほかあるまいが、逆に危機の文字どおり、危は機となり、出遅れたロング筋に参入の好機を提供してくれているのではないかと思う。
こうした見方との整合性という意味合いにおいて、米ドル/円も日経平均も現時点で押し目買いの好機に恵まれるか、近々最高のチャンスがやってくる可能性が高いとみる。
■イラン危機時の安値に迫れない米ドル/円は依然強気
米ドル/円に関して、テクニカル上の視点から以下の2点を取り上げてみたい。
まず、昨日(1月30日)の安値(108.58円前後)が200日移動平均線以上に留まったこと。
次に、新型肺炎の危機が広がるなかで、1月8日安値(107.64円前後)にほど遠かったことだ。

(出所:TradingView)
1月8日(水)といえば、イラン危機時だったから、今回との比較の意味合いにおいて絶好な対象となる。要するに、本質はいっしょである。
1月8日(水)のイラン危機発生で米ドル/円は安値トライしたものの、一転して当日は高く引け、日足において強気「リバーサル」や「アウトサイド」のサインを点灯したことは本コラムで既述のとおり。
【参考記事】
●イラン戦争の心配はイランかった!? 出た~! 米ドル/円に調整完了のサイン!(1月10日、陳満咲杜)
その延長線上で目下の危機を考えれば、よりわかりやすいと思うが、今回の危機があっても1月8日安値に迫れないなら、同日の強気サインがなお有効ということだ。それが意味することは、米ドル/円の昨年(2019年)8月安値(104.45円前後)を起点としたメイントレンド、すなわち上昇波がなお継続される、ということに尽きる。

(出所:TradingView)
イラン危機にしても、今回の新型肺炎にしても、材料面の危機度は視点によってまったく違ってくるが、市場参加者の予測や思惑の集大成と言えるマーケットの値動きのほうが正しいはずなので、メイントレンドはかえって証左されたと思う。
■いったん動いたら10円程度では済まない?
もっとも、本コラムで指摘したように、米ドル/円は今年(2020年)、動いてくれるはずだ。
【参考記事】
●2020年は相場が動く! ドル/円は1月中にも111円へ。でも円高ならターゲットは90円!?(1月17日、陳満咲杜)
なぜなら、一昨年(2018年)の10円程度の変動幅に続き、昨年(2019年)の8円程度の変動幅は史上最低記録なので、3年連続で低い変動幅に留まるよりも、今年(2020年)はその反動で動いてくれる可能性が大きいと考えるからだ。
【参考記事】
●ザイFX!で2019年を振り返ろう!(1)大暴落後は動かない、動かない、動かない
●平成2年=バブル崩壊。令和2年は? 動かなかった米ドル/円、2020年は動くか?
ゆえに、円安にしても、円高にしても、いったん動いたら、その変動幅は10円程度では済まないだろう。
となると、仮に1月8日安値の107.64円前後が今年(2020年)の安値であれば、例年の変動幅の中間値である15円程度で考えると、円安方向に行くなら今年(2020年)、120円の大台乗せが達成可能だろう。
半面、仮に1月17日高値の110.30円前後をもってすでにピークアウトを果たしたのであれば、95円ぐらいになるだろう。
■いろいろな危機が浮上しても円高は限定的だった
そもそも、2015年高値から2019年年初のフラッシュ・クラッシュまでだいぶ時間(158週間)をかけて大型トライアングル状の保ち合いを形成してきたから、本来、昨年(2019年)1月安値からすでに大幅なトレンドの進行があってもおかしくなかった。
しかし、周知のように、米中貿易戦争や英EU(欧州連合)離脱問題などリスク要素の浮上で再度波乱となり、結果的に保ち合いは延長された。

が、やはり限度があるから、今年(2020年)はその反動でトレンドを推進してくれるかとみる。
そして、なにより重要なのは、いろいろな危機が浮上してきたが、結果的に円高の方向にもって行かれなかったということだ。これが肝心なことであり、円安予測の根幹ともいえる。
要するに、相場の内部構造が円高ではなく、円安を示しているから、何かあっても円高が制限され、逆にいったん危機が収まると、これから円安の方向に大きくシフトしていくと推測される。
■円高にいくなら、90円ぐらいを覚悟しなければ…
さらに、一般論として円高は大きなリスクオフを伴うから、何らかのショッキングな材料の浮上で急速な円高が進む場合は、リスクオンの円安よりそのスピードが速い上、往々にして「オーバーシュート」の現象が起こる習性がある。
となると、やはり例年の変動幅の中間値である15円程度ではなく、動くとされる20円以上の値幅を達成する可能性が高いから、円高方向にいくなら、90円ぐらいを覚悟しなければならないだろう。
一部銀行系アナリストたちの100円程度の円高予想はとっても「甘い」と感じる所以である。相場における甘い見通しは往々にして正しくない、といった個人的な経験則もある。
■米国株も日本株もブル基調。米ドル/円も近々高値更新か
最後に、米ドル/円に比べ、米国株や日経平均のほうが今回の新型肺炎の件で「得している」とみる。
米国株も日本株もブル基調に変調なし、米ドル/円はなおレンジの範囲内に止まっているが、近々再度の高値更新を果たすだろう。
日常生活においては、新型肺炎のリスクに気をつけたいが、マーケットにおいて杞憂は要らない。市況はいかに。
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