平成が幕を閉じ、令和元年を迎えた2019年も、気がつけば残すところ、あとわずか。
年末恒例、ザイFX!ならではの視点から振り返る2019年を、3つの記事に分けてお届けしていきます。初回は【相場編】の記事です。2019年はどんなマーケットだったのか、さっそく振り返っていきましょう。
■大暴落の不穏な幕開け
2019年の出来事としてまず思い起こされるのは、1月3日(木)のマーケットで起こった、米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の暴落ではないでしょうか。
日本がまだ三が日の正月休みモードで、通常でも取引が薄い朝方の時間帯という要因も重なり、米ドル/円はわずか数分で3円以上も暴落(※)。もう少し前の時間からだと、下落幅は5円弱にも達するという、パニック的な動きに見舞われました。
(※これ以降も含め、本記事内に掲載している為替レートの水準は、すべてBloombergより取得した主にEBS(電子ブローキングシステム)の値となり、FX会社のレートとは異なる場合があります。また、本記事公開時点で、まだ2019年は終わっていないため、記事中の通貨ペアの高値・安値を含む2019年の動きは、すべて12月13日(金)までの値動きをもとに執筆しています)
【参考記事】
●フラッシュ・クラッシュで米ドル/円が暴落! 株の下落を伴えば、100円割れの可能性も!?(1月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
●フラッシュクラッシュのロスカット等未収金は過去3番目の規模! 25%がくりっく365から発生
※『フラッシュ・クラッシュで米ドル/円が暴落! 株の下落を伴えば、100円割れの可能性も!?』より
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)
主要なクロス円も同じような動きとなり、多くのFXトレーダーにとって、肝を冷やすお正月休みの出来事となったのではないでしょうか。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 週足)
ただし、あとになって「フラッシュ・クラッシュ(瞬間的な暴落)」と呼ばれるようになったことからもわかるとおり、各通貨ペアの下げは一時的なものにとどまりました。上の週足チャートを見ても一目瞭然、米ドル/円もクロス円もローソク足が長い下ヒゲとなって、そのまま下落を続けるというような動きではなくなっています。
【参考記事】
●米ドル/円暴落は「上海ショック」と似ている!? 円高リスク緩和。目先は110円台へ反発か(1月8日、バカラ村)
ザイFX!では、この米ドル/円やクロス円の暴落を引き起こした犯人は、トルコリラ/円だったのではないか?と、推測する記事も公開しました。
【参考記事】
●フラッシュ・クラッシュの真犯人はトルコリラ!? クラッシュ時もスプレッドが優秀なFX会社は?
このような波乱の幕開けとなった2019年、テレビ東京の人気経済番組「Newsモーニングサテライト(モーサテ)」でコメンテーターを務める、経済産業研究所理事長の中島厚志氏は、条件つきながら1ドル=82円まで円高が進む可能性を指摘。一方、かつて「伝説のディーラー」として名を馳せた藤巻健史氏は、ザイFX!の取材に応えて、1ドル=何十億円や何兆円という円の大暴落が、いつ来てもおかしくないとの見解を披露していました。
【参考記事】
●モーサテ御意見番・中島厚志氏に聞く(1) 驚きの「1ドル=82円」予想の真相とは?
●モーサテ御意見番・中島厚志氏に聞く(2) 米ドル/円を動かすのは金利差ではない!?
●伝説のディーラー・藤巻健史氏に聞く(1) 東京五輪前にハイパーインフレで円大暴落!?
●伝説のディーラー・藤巻健史氏に聞く(2) 日銀破綻を経て日本の財政は再建される!
■トレーダー泣かせの1年に…!?
では、日本のFXトレーダーがもっとも多く取引する米ドル/円は、2019年にどれぐらい動いたのか?
結論を言うと、2019年の米ドル/円は、高値から安値までの値幅がわずか7.94円。年間の変動幅は、変動相場制に移行して以来の最小を記録し、年初のレートを基準にした変動率も、7.24%にとどまりました。
※2019年12月13日(金)までのデータ
(出所:Bloomberg)
以下は、直近20年間の年間変動幅などのデータを一覧にしたものです。
※Bloombergから取得した主にEBS(電子仲介システム)のデータをもとにザイFX!が作成
※2019年は12月13日(金)までのデータ
昨年(2018年)の9.99円が、2000年以降でもっとも狭い年間変動幅だったのですが、2019年はそれよりもさらに2円以上も値幅が狭まっています。年末に向けてよほど大きな動きがない限り、このまま高値も安値も更新することなく、2年連続で「動かなかった年」の記録を更新することになりそうです。
大きなトレンドを狙った取引を得意とするトレーダーにとって、チャンスが非常に乏しかった年だったと言えそうですね。
【参考記事】
●リーマン・ショックにアベノミクス相場! プレイバック、平成30年間の米ドル/円相場
■米ドルもユーロも動かなかった…
米ドル/円が動かなかったのは、米ドルの値動きが乏しかったという理由もあります。
米ドルの全体的な強さを見る上で参考になる、ICE(インターコンチネンタル取引所)が発表しているドルインデックスの、2019年の年間変動幅はわずか4.638ポイント。直近10年(2010年~)で、最小となりました。
※2019年12月のローソク足は12月13日(金)までのデータ
(出所:Bloomberg)
ドルインデックスの構成比率でもっとも高い割合を占めるユーロを見ても、ユーロ/米ドルの年間変動幅は700pipsに満たず、こちらも直近10年でダントツの小動きでした。
※2019年12月のローソク足は12月13日(金)までのデータ
(出所:Bloomberg)
外国為替市場で取引高トップ2を独占するユーロ/米ドルと米ドル/円の値動きが、これほどまでに少なかったのですから、日本のFXトレーダーに限らず、世界中の市場参加者にとって、2019年は受難の年だったと言えるかもしれません。
■米中貿易摩擦は一段とヒートアップ
では、これほどまでに動かなかったのだから、為替相場に影響を与えそうなテーマがまったくなかったのかといえば、そんなことはありませんでした。
2019年の2大テーマといえば、間違いなく、米中の貿易摩擦問題と、ブレグジット(英国のEU(欧州連合)離脱)になるでしょう。
米中の貿易摩擦問題については、難航する協議にしびれを切らしたトランプ大統領が、5月に追加関税第3弾の関税率引き上げなどを実施すると、昨年(2018年)から続く応酬合戦が、ますますエスカレート。
【参考記事】
●ザイFX!で2018年を振り返ろう!(1)米ドル一強! その時トルコショックが起きた
●米の対中関税「第4弾」発動へ!? 報復合戦に為替報告書も警戒。米ドル/円は戻り売りで(5月13日、西原宏一&大橋ひろこ)
2019年は米中の応酬が一段とヒートアップ。米国の対中関税措置は、ついに第4弾の発動にまで発展した。写真は2019年6月の大阪G20時のもの (C)Visual China Group/Getty Images
6月に一時停戦と交渉再開で意見が一致したのも束の間、8月には追加関税第4弾の開始が発表され、さらに、対米ドルで中国人民元安が進んだことを受け、米財務省が中国を「為替操作国」に認定すると、中国も応戦する泥沼の展開となりました。
【参考記事】
●リスクオフの円高はナンセンス! 中国中央TVの映画は米中首脳会談実施のサイン!?(6月21日、陳満咲杜)
●米中当局間で展開されるライアーゲーム!? ドル/円は中期的に101円台へ向けて続落か(8月29日、西原宏一)
●深夜にトランプ砲炸裂! 直前に公開した為替ディーラーの予見が当たり過ぎて神ってた
●米国が中国を為替操作国に認定! あの為替ディーラーの予見がまたまた当たってビビる
※2019年12月のローソク足は12月13日(金)までのデータ
(出所:Bloomberg)
8月には米国債市場で10年債利回りと2年債利回りに「逆イールド」現象が発生して、米国の景気後退懸念からリスクオフ的な動きが広がる場面もありました。
【参考記事】
●米国債に逆イールド発生で米景気後退か? NYダウは800ドル安! 米ドル/円は…!?(8月15日、西原宏一)
●株価を暴落させた逆イールドとは? 逆イールドは景気後退の予兆って本当?
■年末にようやく第1段階の合意が!
こうした中、米ドル/円は8月下旬に今年の安値をつけます。ただ、そこからは、第4弾のうち、関税発動が先送りされた製品に追加関税が適用されるかどうかのカギを握る、「第1段階の合意」の有無に市場の焦点が移り、関連報道に一喜一憂しながらも、一定の合意に達するとの期待から、下値を切り上げる動きとなりました。
※2019年12月13日(金)までのデータ
(出所:Bloomberg)
そして、事態が進展しなければ、関税措置が発動される予定だった12月15日(日)の直前に、米中が第4弾の先送りされていた部分に対する関税発動見送りを含む第1段階の貿易取引に合意。泥沼化していた報復合戦の終えんに一筋の光明が差し込むような形で、2019年が終わりを迎えようとしています。
このように、米ドル/円は…
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