■アヤソフィアのモスク化は支持基盤強化につながらず
前回のコラムで書いたアヤソフィアは、今週(7月20日~)からモスクに変更されます。
【参考記事】
●トルコリラは犠牲祭前で底堅いが、アヤソフィアのモスク化は長期的にマイナス(7月15日、エミン・ユルマズ)
アヤソフィアの壁にある、キリスト教関連の人物などを描いたモザイク画をどうするか問題になっていましたが、礼拝中はカーテンで隠すそうです。また、礼拝の時間以外では観光客の入場も可能だということです。
エルドアン大統領は、7月24日(金)に行われる金曜日の礼拝に参加し、アヤソフィアをモスクとして正式にオープンする予定になっています。
エルドアン大統領は、7月24日(金)に行われる礼拝に参加し、アヤソフィアをモスクとして正式にオープンする予定になっている (C)Anadolu Agency/Getty Images
アヤソフィア問題については国内外から反発があったものの、エルドアン政権が懸念したような強い反発は見られませんでした。特に、トルコ国内の反応は鈍く、野党側もアヤソフィアのモスク化に反対していません。
トルコ国民は、パンデミックと景気後退に苦しめられていて、アヤソフィアどころではなかったようです。
与党としては、アヤソフィアのモスク化に強い反発があると想定し、それを使って支持基盤を固めたかったのではないかと思います。反発がここまで弱いのは、期待外れだったのでしょう。
トルコの最大野党CHP(共和人民党)は、与党が、今までさんざん使ってきた宗教対立を煽って支持基盤を固めるという戦略をよく理解しているので、アヤソフィアのモスク化にも反対せず、CHP所属のイマモールイスタンブール市長や、2018年の大統領選挙でエルドアン大統領と戦ったインジェ議員は金曜日の礼拝に参加したいと発言しています。
■トルコリラは、まるで固定相場制のような値動き
今週(7月20日~)のトルコリラですが、米ドル/トルコリラは6.83リラ水準で推移していて、対米ドルでは少し上昇しました。一方で、トルコリラ/円は15.60円水準と、先週(7月13日~)と変わらずの水準です。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
トルコリラは、まるで固定相場制に移行したような低ボラティリティが続いていますが、世界市場としても7月に入ってからボラティリティが下がっていて、コロナショックの最中に80を超えていた米国株のVIX指数は、20台前半まで下がってきました。
(出所:TradingView)
■もうひとつ、トルコとロシアの代理戦争が起きる危険性
トルコに話を戻すと、先週(7月20日~)から大きく動いたのは、コーカサス地方の地政学リスクです。
ともに旧ソ連諸国であるアルメニアとアゼルバイジャンの間に7月12日(日)から軍事衝突が起きていて、16人が死亡する大事件に発展しています。
この問題については、別の機会に詳しく書くつもりですが、簡単に要約すると、テュルク系民族であるアゼルバイジャンをトルコが支援し、アルメニアをロシアが支援しています。
両国はソ連崩壊後に領土問題で一度戦争をしましたが、近年は、特に事件は起きていませんでした。今回の軍事衝突の原因は不明ですが、最近のトルコとロシア関係の悪化が関係している可能性が高いと考えます。
旧ソ連諸国による軍事衝突はトルコとロシアの関係悪化が絡んでいる可能性も。写真は2018年9月に開催された、トルコ、ロシア、イランによる3カ国会談のときのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
つまり、シリアとリビアに加え、コーカサス地方でも、トルコとロシアの代理戦争が起きる危険性があります。この問題は現時点でトルコリラに影響を与えている可能性は低いですが、衝突軸がもうひとつ増えたことは、ネガティブな動きです。
【参考記事】
●リビア内戦がトルコとエジプトの戦争に!? 新観光政策の効果がリラの運命を決める!(6月24日、エミン・ユルマズ)
●トルコの実体経済は想像以上に悪そう…。トルコリラ/円はボックス相場を継続か?(6月17日、エミン・ユルマズ)
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