■50年ほど前まで、為替は固定相場制だった
我々は毎日、各国の為替を誰でも簡単に売買できますが、50年ほど前までは固定相場制でした。1ドル=360円だった時代を覚えている方もいらっしゃるでしょう。
米ドルだけが金と交換できる通貨であり(1オンス=35ドル)、各国通貨は米ドルとの交換レートを固定化することで、擬似的に金との交換を維持しました。これをブレトンウッズ体制と呼びます。
第2次世界大戦後、米国の国力は他を圧倒していました。世界中の3分の2である、2万トンという巨額の金を米国が保有していたので、実現できた体制です。
【参考記事】
●固定相場制(ペッグ制)が招いた悲劇!? 香港ドルなどの取扱い停止はなぜ増えた?
●76.25円=ドル円の史上最安値はウソ!?(2) 日本でハイパーインフレが起きた理由
ところが、自然なことでもありますが、日本や欧州諸国が戦後復興を果たすと、米国の競争力には陰りが出てきました。国際収支が赤字に転じたのです。
しかも、ベトナム戦争で巨額の戦費を使い、ブレトンウッズ体制には次第にほころびが出てきました。
■フランスの突然の要求の後、為替は変動相場制に移行
しかし、ここで事件が起きます。
さまざまな手段でかき集めた30億ドルを、フランスが突然、金と交換するよう要求してきたのです。
30億ドルというと、今ではさほど大きな金額には聞こえませんが、当時35ドルという金価格は、2020年12月上旬現在の1850ドル前後の50分の1程です。
それを考慮して、当時の30億ドルを2020年12月上旬現在に換算すると1585億ドル、16兆円ぐらいでしょうか。
金の重さで考えると約2660トン。現在、1年に産出する金は3500トンほどでしょうから、年間産出量の4分の3という巨額なものになります。
たまらずニクソン米大統領は、1971年8月15日(日)、突然、「金・米ドル交換停止」を発表しました。
その4カ月後の12月、1ドルは360円から308円となり、その後、変動相場制に移行しました。
2万トンあった米国の金準備は、米ドルとの交換の要求に応えて減少し、8133.5トンとなりましたが、その後は動いていません。
それにしても、同盟国の米国が困っている時に背中から刺すような行為をするというのは、どうなのかと思います。フランスにしかできないでしょう。
ただ、そのおかげで、我々は現在、為替をトレードできるわけなので、感謝すべきか非難すべきか、悩ましいところです。
■マクロン大統領は、行動だけはド・ゴールのコピーキャット
同じようなことが、ブレグジット(英国のEU(欧州連合)離脱)の最終局面でも起こっています。
【参考記事】
●ブレグジット=英国のEU離脱とは? 欧州連合離脱の経緯、離脱までの過程を解説
私も以前、10月21日(水)の当コラムで、フランスのマクロン大統領がブレグジット交渉を台無しにしてしまう可能性に言及しました。
【参考記事】
●米ドル下落、株価上昇、金利上昇という「バイデントレード」に必要な条件とは?(10月21日、志摩力男)
欧州は、長い歴史の間に何度も戦火を交え、時には同盟するなど、さまざまな経緯があります。
それゆえ、お互いに慣れているともいえますが、英国がかつてのEEC(欧州経済共同体、EUの前身)に加盟する際にも、いろいろありました。
英国は1961年、そして1967年と2回、フランスのド・ゴール大統領によってECC加盟を阻止されています。
最終的には、1973年にEEC加盟は実現しますが、フランスはそのために国民投票までしました。
ド・ゴール大統領を敬愛するマクロン大統領は、行動だけはド・ゴールのコピーキャットです。
■マクロン大統領の横やりで合意点は大きく後退
英国各紙の報道によると、先週月曜日(2020年11月30日)、フォンデアライエン欧州委員長の腹心である、ステファニー・リオ氏が派遣され、EUのバルニエ首席交渉官の隣に座り、英国とEUの通商交渉をリードするようになったようです。
そのため、状況が大きく変化しました。英国も同意できそうなところまで、合意点が近づいたようです。
しかし、そこにマクロン大統領の横やりが入りました。バルニエ氏の交渉は、あまりにも英国に譲歩しすぎていると。
漁業権、そして公平な競争条件という2つの大きなポイントにおいて、合意点は大きく後退し、とても英国側が受け入れられるものではなくなったようです。
ジョンソン英首相も怒り心頭でしょう。またも、「合意なき離脱」に言及する瀬戸際外交に戻りました。
■12月31日の移行期限に向けて、本当に最終局面
結局は、こうしたことは、合意に至る「儀式」みたいなものなのかもしれません。
「合意なき離脱」がもたらす経済的なダメージは惨憺たるもので、はかり難い。
しかしながら、この合意点を決めるのはEU側です。EU側に主導権があります。
英国が飲める内容にするのか、それとも飲めないものにして、「合意なき離脱」を誘発するのか、それはマクロン大統領とフォンデアライエン欧州委員長、そして、フォンデアライエン氏を自身の政権下で国防相に起用していたメルケル独首相の力関係次第とも言えます。
12月9日(水)に、ジョンソン英首相とフォンデアライエン欧州委員長が会って会談します。12月10日(木)、12月11日(金)にEU首脳会議があります。12月31日(木)のブレグジット移行期限に向けて、本当に最終局面になってきました。
【参考記事】
●移行期間終了迫るブレグジット協議に注目! 合意なければ、英ポンド/円は131円へ下落!?(12月8日、バカラ村)
●今週は、米ドル高が進む可能性もありそう。EUサミットやECB理事会は見逃せない(12月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
■合意があれば、英ポンド/米ドルは1.40ドルが目標
英国とEUに合意があれば、英ポンドは買われると思います。対ドルで1.40ドルが目標になります。
(出所:TradingView)
ただ、マーケットは合意を前提にロングになっているので、あまり伸びない可能性もあります。
IMM(国際通貨先物市場)のポジションを見ると、12月1日(火)時点で英ポンド/米ドルはショートになっています。
しかし、多くの欧米投資銀行系から伝わってくる情報では、ロングに傾いているようです。
(詳しくはこちら → IMM/経済指標・政策金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
■合意なき離脱となれば、英ポンド/米ドルは1.20ドル方向
万が一、「合意なき離脱」となれば、その時はその時で、英ポンドは大きく売られることになると思います。
それは、ある意味、想定外なので、反応は、この場合の方が大きいでしょう。対ドルで1.20ドル方向となるでしょう。
(出所:TradingView)
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