■2つの大きなイベントを前に膠着する為替市場
このところの為替市場は膠着しています。2つの大きなイベントを前にしているからです。
1つは、米大統領選挙。もう1つは、最後の大詰めを迎えたブレグジット(英国のEU(欧州連合)離脱)後の通商交渉です。
【参考記事】
●米大統領選とは? 制度のしくみや特徴、米ドルなどの為替相場や株価への影響を解説
●ブレグジット=英国のEU離脱とは? 欧州連合離脱の経緯、離脱までの過程を解説
あまりにも大きなイベントのため、マーケットとしては、どうしても待ちの姿勢にならざるを得ません。
またそれは、結果が判明次第、大きく動く可能性を秘めているということでしょう。
■ワクチン開発は米大統領選に間に合わなかった
大統領選挙の方は、バイデン氏が優位に戦いを進めています。
米大統領選挙が11月3日(火)に迫るなか、バイデン氏が優位に戦いを進めている (C)Scott Olson/Getty Images News
ここに来てコロナ感染者数が急激に増えているのは、トランプ大統領にとって非常に不利。
ワクチン開発が進み、おそらく年内にも正式に承認される安全なワクチンが開発されそうですが、それが大統領選挙に間に合わなかったというのは、トランプ氏にとって不運だったとしか言いようがありません。
新型コロナウイルスの出現がもう半年早かったとしたら、ワクチンによってコロナが収束に向かう状況で、大統領選挙を迎えていたでしょう。
まだトランプ大統領敗戦と決まったわけではないですが、なんともこれは、天の巡り合わせとしか言いようがありません。
ワクチン開発が大統領選挙に間に合わなかったというのは、トランプ氏にとって不運だったとしか言いようがないと志摩氏は解説 (C)Chip Somodevilla/Getty Images News
■バイデントレードは上下両院が民主党になるのが絶対条件
11月3日(火)の大統領選挙と上院選挙の結果が出てくるまでわかりませんが、民主党が大統領、上院、下院を押さえる「トリプルブルー」が期待されています。
【参考記事】
●注目はブレグジット交渉! FTAの協議合意なら英ポンド/米ドルは1.34ドル台到達か(10月13日、バカラ村)
●勝負は米大統領選挙! 無理する場面ではないが、米ドル/円の106円台は売りか(10月12日、西原宏一&大橋ひろこ)
●米大統領選、トリプルブルーなら増税を掲げるバイデン氏勝利でも株高・円安に!(10月8日、西原宏一)
●米大統領選で「増税」掲げるバイデン氏が当選しても、中長期では株価にポジティブか(10月8日、志摩力男)
決して、一部のマスコミ等が民主党びいきだから、というわけではないと思います。米国の政治システムでは議会の力が強く、上院と下院の政党が揃わないと何も進まないからです。
現在、議会で頓挫している追加の経済対策について、共和党が5000億ドル、トランプ大統領が1.8兆ドル、民主党が2.2兆ドルを主張しているように、実はトランプ大統領の方が、共和党よりも民主党に近い。
【参考記事】
●米大統領選、形勢逆転の可能性も浮上か。バイデン次男がオクトーバー・サプライズ!?(10月19日、西原宏一&大橋ひろこ)
●米大統領選挙後のマーケットの動きを予想。カギとなる財政支出は、上院選の結果次第か(10月14日、志摩力男)
財政支出を拡大させるためには、大統領はトランプ氏でもバイデン氏でも、どちらでも構わず、むしろ上院が民主党にならないと「大盤振る舞い」にならないのです。
つまり、今回の選挙は、実は大統領選挙以上に、上院選挙の帰趨が今後のマーケットのカギを握っていると言えます。
米ドル下落、株価上昇、金利上昇という「バイデントレード」は、上下両院が民主党というのが絶対条件です。
■わがままなマクロン仏大統領がブレグジットを台なしに!?
一方の、英国とEUの通商交渉は混沌としてきています。
最低限のFTA(自由貿易協定)が11月上旬ぐらいに締結されて、12月末のブレグジット移行期限をスムーズに通過する、その場合、割安な英ポンドは買われる、というのがメインシナリオです。
しかし、FTAが締結できなければ、あらゆることが大混乱となり、英ポンドは売られます。
【参考記事】
●英ポンドは、どう動く!? ブレグジット移行期間終了に向けた予想シナリオとは?(9月23日、志摩力男)
ポイントはだいぶ絞られ、漁業権と政府補助金、この2つが大きな問題です。
ここに来て、英国側は数々の妥協案を出してきました。
物議を醸した「国内市場法案」を、事実上、骨抜きにする案を提示。漁業権と政府補助金についても妥協案を出し、これでEU側の反応を待つ――。
きっと何らかの譲歩をしてくれる…と、期待したと思います。
【参考記事】
●ブレグジット関連に振り回され英ポンド急落! 目先はいったん落ち着き、修正の動きか(9月18日、今井雅人)
ところが、EU側は、ほとんど譲歩してきません。
政府補助金の問題については、これを利用してダンピング(※)される恐れがあるので、この点では英国は、主権が制限されたとしてもEU側の主張を飲まないといけないでしょう。そうでなければ、FTAは成立しません。
(※編集部注:ダンピングとは、正常価格より不当に安い価格で商品やサービスを提供すること)
しかし、漁業権に関しては、EU側、ハッキリ言えばマクロン仏大統領の意見はわがままです。
英国の排他的経済水域(EEZ)で、EU側が操業することを永遠に認めさせようとしています。それはさすがに、英国は飲めない。
漁業権は、金額的には小さな問題です。
EU側の誰か、おそらくメルケル独首相あたりがマクロン仏大統領を説得して、いつか妥協してくるものと思っていましたが、その雰囲気は今のところありません。
マクロン仏大統領が、ブレグジットを台なしにするのか。もしかしたら、その可能性は、あるのかもしれません。
■合意なき離脱の確率は、2割よりもっと高いのかも
合意なき離脱は、英国にもEU側にも打撃とは言われていますが、突き詰めて考えれば、英国には大打撃ですが、EUサイドはそれほどでもありません。
むしろ、英国にある工場、会社、産業が大挙して欧州大陸に移動してくるので、中長期的には得です。
大きなマーケットを持つということは、それだけで絶対的に優位なのです。
マクロン仏大統領からすると、FTA実現のため、英国が妥協し、英国の海域でEU側が操業する権利を勝ち取ってもよし、英国が「合意なき離脱」を選択し、勝手に没落してもよし、どっちに転んでも得しかありません。
ブレグジット実現でバラ色の未来があると喧伝してきたジョンソン英首相、大きな試練にさらされています。
もう少しEU側が妥協してくると思っていたのかもしれませんが、ゲームの主導権はEU側にあり、英国の立場はまったくもって弱い状況です。
双方が大人として振る舞い、最低限度のFTAが実現する確率8割、合意なき離脱の確率2割と考えていましたが、合意なき離脱の確率はもっと高いのかもしれません。
なぜなら、それはジョンソン首相が選択できるものではなく、実はマクロン仏大統領次第になっているからです。
【参考記事】
●英ポンドは、どう動く!? ブレグジット移行期間終了に向けた予想シナリオとは?(9月23日、志摩力男)
ブレグジット実現でバラ色の未来があると喧伝してきたジョンソン英首相。ゲームの主導権はEU側にあり、英国の立場はまったくもって弱く、合意なき離脱の確率2割よりもっと高いのかもしれない、と志摩氏は指摘 (C)Justin Sullivan/Getty Images
とはいえ、おそらく、最終的にはEU側も大人の対応を行い、最低限度のFTAが実現するものとは思います。その時、英ポンドは上昇するでしょう。
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