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ブレグジット=英国のEU離脱とは?
欧州連合離脱の経緯、離脱までの過程を解説

2020年08月26日(水)13:00公開 (2020年08月26日(水)13:00更新)
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ブレグジット(Brexit)とは、英国(イギリス)のEU(欧州連合)離脱を意味する言葉。2020年1月末に、EUから離脱した英国の英語表記「Britain」と、出口や退出などを意味する「exit」をかけ合わせた造語です。

 もともとは、ギリシャ危機によってギリシャがEUを離脱する可能性が取り沙汰されたとき、ギリシャ(Greece)のEU離脱を意味するGrexit(グレグジット)という造語が作られていて、ブレグジットはそれをもじった形で生み出された言葉として知られています。

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■元々、英国とEUの結びつきは弱かった!?

 英国は1973年に、EUの前身であるEC(欧州共同体)に加盟しました。

 しかしながら、1999年に電子的決済通貨として導入され、2002年から紙幣の流通が始まった欧州単一通貨ユーロ(EUR)を導入するユーロ圏に英国は入らず、自国通貨の英ポンド(GBP)を使用し続けてきた歴史があります。ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど、他の欧州主要国はすべてEUに加盟すると同時にユーロも使用しています。その一方、英国はEUには入っているけれども、ユーロは使用していない状態になっていたわけで、元々、英国とEUの結びつきにはやや弱い面があったと言えるでしょう。

 英国が英ポンドを使用し続けた背景には、英ポンドがかつては基軸通貨として使われていたという自負があったようです。さらにユーロ発足前の1990年に、ERM(欧州為替相場メカニズム)と呼ばれる域内の通貨間の為替レートを固定する制度に加わったことで、1992年にポンド危機が発生したという苦い経験も、英国がユーロを導入しなかった大きな理由としてよく取り上げられます。

【参考記事】
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 また、もともとECへの加盟前後から、英国にはECへの加盟に懐疑的な政党などが存在していたことも知られていました。

 そして、2000年代に入ると、域内の自由な移動を保障したEU法によって大量の移民が英国に流入してきたこと、2010年代以降のギリシャ危機に端を発した欧州債務危機などによって、債務危機に陥った南欧各国を支援するための財政的な負担が増加したこと、さらに、EUの拡大にともなって英国のEU内での発言力が低下したことなども背景に、EUに加盟していることで生じるデメリットの部分を、声高に主張する欧州懐疑派が英国で次第に台頭してきます。

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■残留できると思っていたが、まさかの結果に!

 こうした中、ナイジェル・ファラージ氏が党首を務める、欧州懐疑主義のUKIP(イギリス独立党)が人気を集めていた2013年、英国の恒久的なEU加盟を支持する保守党のデビッド・キャメロン首相は、2015年5月の英総選挙で保守党が勝利すれば、EUからの離脱の是非を問う英国国民投票を実施すると約束しました。

ナイジェル・ファラージ氏

写真は欧州懐疑主義政党として知られるUKIPの党首だったナイジェル・ファラージ氏 (C)Leon Neal/Getty Images

 キャメロン首相が国民投票の実施を公約にしたのは、確かに欧州懐疑主義政党の人気は高まっていたものの、大多数の英国民がEU残留を望んでいるとされていたことが背景にあります。英国国民投票を実施したとしても、EU離脱支持票がEU残留支持票を上回ることはないと高をくくっていたのでしょう。そのうえで、EUに対して移民流入の制限などを含む改革を求めるとし、欧州懐疑派の懐柔も目論んだのです。

 そして、2015年5月の英総選挙では、保守党が過半数の議席を獲得して勝利。世論調査でEU残留支持が過半数に達するなか、キャメロン首相は国民投票が実施できるようにするための法案を議会で可決させ、2016年6月23日に英国国民投票を実施することを決定します。

 しかしながら、残留派が有利と思われていた英国国民投票では、投票終了直後までは残留派が優勢と伝わっていたものの、最終的にはご存知のとおり、離脱派が残留派を上回るという、驚きの結果となりました。

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 多くがEU残留を見込んでいた金融市場には激震が走り、為替市場では英ポンドが暴落

英ポンド/米ドル 月足
英ポンド/米ドル 月足チャート

(出所:TradingView

英ポンド/円 月足
英ポンド/円 月足チャート

(出所:TradingView

 株も暴落し、リスクオフの円全面高で米ドル/円も大きく下落するなど、マーケットは大荒れの展開となりました。

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■離脱交渉開始とボリス政権誕生までの道のり

 英国国民投票で離脱派が勝利したことを受けてキャメロン首相が辞任すると、テリーザ・メイ氏が保守党の新党首となり、英首相になりました。メイ首相は元々、EU残留支持だったのに、EUとの離脱交渉に臨むこととなったのです。

 英国国民投票からおよそ9カ月後の2017年3月末、メイ首相はEUからの離脱を通告するリスボン条約(EU条約)第50条を発動し、英国とEUが離脱協定について交渉を行う2年間(2019年3月末まで)の交渉期間がスタートします。

テリーザ・メイ氏

キャメロン氏のあとを継いで英国の首相になったテリーザ・メイ氏。元々はEU残留支持だったが、英国国民投票の結果を受けて2017年3月末に離脱の通告を行い、EUとの離脱交渉へ臨むことに (C)Matt Cardy/Getty Images News

 メイ首相は自身の政治的地盤を強固なものとするため、2017年6月に総選挙を実施します。しかし、この総選挙は裏目に出てしまい、保守党は議席を減らして単独で過半数の議席を獲得することができず、メイ首相は閣外協力を取りつけて第2次内閣を発足させます。この時点からすでに、メイ首相の政治的な求心力低下が指摘されるようになってきました。

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 その後、メイ首相はたび重なるEU側との交渉会合で、EU離脱後の経済的なショックをやわらげるための移行期間を2020年末まで設けることに合意するなど、一定の譲歩をしながら交渉を進めていきますが、こうした姿勢が強硬離脱派の反発を招くことにもなり、保守党内にも亀裂が生じてきます。

 メイ首相は党内の結束を呼び掛け、2018年11月の臨時閣議で離脱協定の草案を承認させますが、その内容に反対した主要閣僚らの相次ぐ辞任によって離脱協定案の議会採決は延期され、保守党内の強硬離脱派によって、メイ首相に対する不信任投票が実施されます。

 不信任投票では信任が上回り、メイ首相は党首に留まることになりましたが、2019年1月に行われた議会採決において、離脱協定案は大差で否決されます。否決の大きな要因は「バックストップ」に関する部分にあったと言われています。

 これは、英国が離脱後の移行期間中にEUと通商協定で合意できなかった場合、アイルランドの国境を開放しておく措置のこと。離脱によって、陸地でつながっている英国領の北アイルランドと、アイルランドの間に通関が復活することで、かつてのように北アイルランドとアイルランドで紛争が再燃したり、通関手続きが煩雑になることを回避するため、当面は英国が実質的にEU関税同盟の中にとどまるというものです。しかし、その内容に反対した保守党内の強硬離脱派が、大量に造反したのでした。

 その後、野党労働党による内閣不信任案が否決され、再びメイ首相の続投が決まりますが、その後も英議会との協議は難航します。離脱協定の修正案も議会で承認されず、当初の離脱期限である2019年3月末を迎えるなか、メイ首相はEUに対して離脱期限の延期を申請。最終的に2019年10月末まで延期することでEU側と合意したものの、メイ首相は離脱交渉の行き詰まりを理由に、2019年6月に党首を辞任しました。

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 そして、メイ首相の辞任を受けて行われた保守党党首選で勝利し、7月24日から新首相に就任したのが、EU懐疑派で強硬なEU離脱を支持するボリス・ジョンソン氏です。

ボリス・ジョンソン氏

辞任したメイ首相に代わって新首相に就任したボリス・ジョンソン氏 (C)Justin Sullivan/Getty Images

 ジョンソン氏は、2016年の英国国民投票時に離脱キャンペーンを大々的に展開し、英国国民投票で離脱派が勝利したことで、キャメロン首相の後釜になると期待されていた人物です。しかし、2016年の党首選に出馬せず、メイ政権下で外務大臣に任命されたものの、メイ首相の穏健な離脱方針に反発して外務大臣を辞任していました。

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■四面楚歌からの逆転劇。英総選挙圧勝で離脱に合意

離脱期限となる2019年10月末に、何が何でも離脱すると公言したジョンソン首相は、強硬な離脱に反対する保守党議員を党から追放したり、離脱に関する審議ができないよう、9月上旬から約5週間にわたって議会を閉会(のちに英最高裁判所に違法と判断され、9月25日に再開)するなど、次々と行動を起こします。議会によって否決されたものの、この間、2度にわたって総選挙実施を提案する動議も提出しました。

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 2019年10月17日、ついに英政府と欧州委員会は、新たな離脱条件を定めた協定案で合意します。しかし、英議会によって協定案の採決が先送りされ、この時点で10月末の離脱はほぼ不可能となります。そして、ジョンソン首相は取り決めにもとづく措置として、EUに最大3カ月の離脱期限延期を申請することを余儀なくされ、その結果、離脱期限が最長で2020年1月末まで延期されました。

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 ジョンソン首相は事態の打開に向け、議会へ協定案の承認を得るための関連法案を提出したり、早期の総選挙実施を求める動議を提出しますが、ことごとく否決されて身動きの取れない状態に。こうした中、これまで何度も否決されてきた総選挙の実施を求める動議が10月末に可決され、12月12日に英総選挙の実施が決まりました。

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英総選挙では、予想を上回り、保守党が過半数を大きく超える議席を獲得して圧勝。為替市場では英ポンドが急騰し、リスクオンで円が売られました。

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英ポンド/米ドル 週足
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英ポンド/円 週足
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 この結果、離脱協定案が議会で承認され、英国は2020年1月末をもって、正式にEUからの離脱を果たしました。

 この時点で、英国はEUの加盟国ではなくなりましたが、2020年12月31日までの移行期間中は英国にもEU法が適用されるため、英国はEU加盟国とみなされます。そのため、移行期間中はEUが域外の国と締結している通商協定やEPA(経済連携協定)などの対外的な取り決めを英国はそのまま適用できますが、移行期間終了後はEU加盟国とはみなされないため、それまでに英国は他国と独自の協定を締結させる必要があります。

 2020年6月末までに双方の合意があれば、最長で2年間の移行期間延長が認められていましたが、英国が移行期間の延長申請を行わなかったため、2020年12月31日までに、EUをはじめとする諸外国と英国が包括的なFTA(自由貿易協定)などを締結できるかどうかが注目されています。とくに英国とEUのFTA交渉は注目を集めており、その成否によって、英ポンド相場が大きく動くことも考えられます。

■「ハードブレグジット」と「ソフトブレグジット」

 ブレグジットには、「ハードブレグジット」「ソフトブレグジット」という派生語もあります。

ハードブレグジットとは、急増するEU域内からの移民流入阻止を最優先とし、無関税の恩恵が受けられるEU単一市場から完全に撤退する、強硬な(hard)離脱方法のことを言います。

 対するソフトブレグジットとは、一定割合の移民流入を許容する代わりに、EU単一市場へのアクセスを確保して通商面のメリットを残す、穏健な(soft)ブレグジットを指す言葉です。

 この2つは、英国国民投票によってブレグジットが決定したあとの、当初、2年間とされた英国とEUが行う離脱交渉期間中に使われるようになった言葉です。

 また、「合意なき離脱」という言葉もあります。ハードブレグジットと同義語として使われているケースもありますが、合意なき離脱は離脱交渉が合意に至らず、何の取り決めもないまま英国がEUを離脱することを意味するもので、離脱交渉の難航が伝わってきた2018年の夏あたりから使われるようになった言葉として知られています。

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