■イエレン次期財務長官の公聴会は好感が持てる内容
イエレン次期財務長官の上院公聴会が、昨日(1月19日)行われました。
FRB(米連邦準備制度理事会)議長時代に何度も議会に臨んでいるイエレン氏は、非常に安定していました。リモートでの公聴会ということも優位に働いたでしょう。
【参考記事】
●株価と為替の関係はいつも同じではない。「リスクオフの円高」がなくなる日は近い(2020年2月19日、志摩力男)
イエレン次期財務長官は1月19日(火)にリモートで行われた上院公聴会で非常に安定していたと志摩氏は評価 (C)Bloomberg/Getty Images
あえて最初に、自らがブルックリンの下町で育ったことを語りました。
FRB議長時代は「ハト派」の印象が強く、マーケットにフレンドリーな議長でした。その意味では、お金持ちをよりお金持ちにすることをサポートしてきたとも言えますが、そうしたイメージを払拭したかったのでしょう。
トランプ時代と違い、社会のインバランスを是正する方向に政策を切り替えていく意向を滲ませました。
肝心の為替政策では、当初の予想通り、「米国は競争的な通貨切り下げを志向しない」と述べ、時には米ドル安を強く目指したトランプ政策と距離を置きました。
「為替レートは市場が決めるもの」と強調し、貿易相手国に対しても「通貨安誘導は決して容認できるものではない」と牽制しました。
経済学者らしい、市場重視の姿勢は好感が持てます。過剰な介入主義が働いていた、トランプ=安倍時代から離別することになりそうです。
【参考記事】
●米ドル押し目買い方針。ドル安を目指さないイエレン新財務長官の手腕にも注目!(1月19日、バカラ村)
●政治・経済両面で緊張感高まる欧州。ユーロ/米ドルは1.20ドル割れも十分あり得る(1月18日、西原宏一&大橋ひろこ)
■菅政権の為替介入は許されない、ということに…
公聴会の、米ドル円に対するインパクトは、目先ニュートラルでしょう。
しかし、仮に米ドル円が下落し、100円を割り込むような動きになった場合、菅政権は介入に動くかもしれないという観測が流れていますが、それは許されないということになります。
【参考記事】
●米追加経済対策に絡むサプライズ報道で米ドル反発。ユーロ/米ドルは戻り売りで(1月14日、西原宏一)
●菅新首相誕生! 官房長官時代に米ドル/円相場を支えた「為替管理」とは…?(2020年9月16日、志摩力男)
(出所:TradingView)
このところ米長期金利が反転し、米ドルの買い戻しが入っていましたが、これで投機筋にとっておもしろいのは、円高方向ということになったかもしれません。
■温厚なイエレン氏から強硬な対中発言
「おやっ」と思ったのは、中国に対する発言です。
共和党から民主党に変わっても、対中国政策が厳しいことには変わりがないとは見られていましたが、温厚なイエレン氏から強硬な対中発言が出てくると、ちょっとびっくりします。
「不当廉売や貿易障壁、不平等な補助金、知的財産権の侵害、技術移転の強要など、中国の不公正な慣行は米企業の力をそいでいる」、「政権横断で、あらゆる手段を講じて対抗する」と強い姿勢を見せました。
経済格差の是正や気候変動問題等に関する発言もありましたが、もっとも強調されたことは、議会に「大きな行動」が必要になると求めたことです。
■1.9兆ドルの追加経済対策が上院を通過するかは微妙
先日、バイデン氏は1.9兆ドルの追加経済対策を表明しましたが、これが上院を通過するかどうかは微妙なところです。
財政に大きな影響を及ぼすような法案は、60票の賛成が必要です。一応、上院の過半数を制した民主党ですが、60票となると共和党議員から10票の賛成が必要となります。これは、かなりハードルが高い。
よって、1.9兆ドルの追加景気支援策も半分ぐらいしか実現しないと思われます。市場が1.9兆ドルを織り込んでいるとすれば、がっかりでしょう。
【参考記事】
●政治・経済両面で緊張感高まる欧州。ユーロ/米ドルは1.20ドル割れも十分あり得る(1月18日、西原宏一&大橋ひろこ)
■1400ドルの給付実現で、ロビンフッダーはまた投機に走る
1.9兆ドルの中には、大変多くの政策が含まれますが、おそらくポイントは、1400ドルの個人給付が実現するかどうかでしょう。これが実現しなかった場合、米国株は少し調整するのかもしれません。
私が見聞きしている限りにおいては、多くの政策が実現せず、総額も1兆ドル程度になりそうですが、1400ドルの給付は実現するとの観測が有力ではあります。
そうであるならば、ロビンフッダー(※)は喜んで、また投機に走るのでしょう。
(※編集部注:ロビンフッダー(Robinhooder)とは、米国のロビンフッド証券が提供するスマホの株式取引アプリ「ロビンフッド」で売買を行う個人投資家のこと。1人あたりの投資額は少額ながら、新型コロナウイルスの影響で在宅を余儀なくされた若者を中心に爆発的な増加を見せており、株価を動かす要因とされている)
■米国株が2月に下落するかは、1400ドルの給付がカギに
米国株は、わりとはっきりした季節性があり、2月、そして5月、6月、8月、9月は過去70年ぐらいの平均をとるとゼロからマイナスに近いパフォーマンスです。よって、“Sell in May…(※)”の格言があります。
(※編集部注:株式の世界では、5月に株を売って9月の第2土曜日までは相場に戻ってくるなという「セル・イン・メイ(Sell in May, and go away; don't come back until St Leger day)」という格言が有名)
ここ最近でも、2月は2018年に4.28%下落、昨年(2020年)はコロナの影響があり、10.07%下落しました。
(出所:TradingView)
ただ、2月だから必ず下落するわけでもありません。昨年も2月の中旬には最高値を更新していましたから、コロナがなければ下落しなかったでしょう。
今回は、1400ドルの給付がどうなるのかがポイントになりそうです。
■米長期金利が2%に近づいてくると警戒
もう1つのリスクは、米長期金利です。
米長期金利は、昨年夏を底としてジリジリ上昇してきました。
今後ワクチンの接種が進み、気温が上昇してくると、経済は正常化していきます。おそらく、夏頃には景気は猛烈に良くなっていると思います。
ゴールドマン・サックスは、2021年の米経済は6.6%成長と、新興国かと思わせるぐらいの高成長を予想しています。
【参考記事】
●金融緩和し過ぎとの警戒感で、米ドルは少し反発か。中長期のドル安は変わらない(1月13日、志摩力男)
景気が良いということは、バリュー株には良いでしょう。しかし、金利が上昇すると、値がさのグロース株には効いてきます。このインパクトを警戒しなければなりません。
現状の1%を少し超えたぐらいであれば、あまり影響はないと思われますが、米長期金利の上昇がリスクアセットを落とすようになれば警戒でしょう。2%に近づいていくると、警戒だと思います。
(出所:TradingView)
個人的には、株価が調整するかどうか、それはニュートラルです。下がり始めれば対応するぐらいの心構えであり、あえて積極的に米国株をショートにするつもりはありません。
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