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志摩力男の「マーケットの常識を疑え!」

菅新首相誕生! 官房長官時代に米ドル/円
相場を支えた「為替管理」とは…?

2020年09月16日(水)18:25公開 (2020年09月16日(水)18:25更新)
志摩力男

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■菅新首相誕生! 米ドル/円があっさり戻したワケは?

 自らの体調不良を理由に安倍前首相が辞任し、本日(9月16日)、国会の指名を経て菅新首相が誕生しました。

 任期半ばの辞任であり、安倍前首相は本当に無念であったと思いますが、菅新首相に期待したいと思います。

菅首相写真

9月16日(水)、国会の指名を経て菅新首相が誕生した (C)Getty Images News

8月28日(金)に安倍首相の辞任表明が報道されたとき、米ドル/円相場は106.95円から105.20円へと1円75銭も円高が進みました

 超金融緩和から円安・株高を演出した「アベノミクス」が終了すると考えられたからです。

【参考記事】
アベノミクスさようなら。安倍首相辞任の意向で日経平均急落! 米ドル/円急落!
豪ドル/米ドルを押し目買い! 米ドル安は続く。「菅首相」誕生なら市場の反応は?(8月31日、西原宏一&大橋ひろこ)

 しかし、その翌営業日(8月31日)から、米ドル/円は、あっさり円安方向に戻しました。安倍首相の後継が、菅官房長官と報じられたからです。

米ドル/円 4時間足
米ドル/円 4時間足チャート

(出所:TradingView

■菅前官房長官こそが「為替管理」をしていた当事者だった

 菅前官房長官が安倍後継だと、なぜ、米ドル/円は戻すのか。

 それは、菅前官房長官こそが「為替管理」をしていた、その当事者であることが、市場関係者の間では常識だったからです。

 2016年12月27日(火)の日経新聞「展望2017」という記事で、菅前官房長官は、次のように答えています。

為替、危機管理怠らず 内閣官房長官 菅義偉氏

──経済・金融政策で力を入れるものは。

「日本企業が見通しを立てられるような環境にすることがものすごく大事だ。私の重要な危機管理の一つに為替がある。財務省、金融庁、日銀による3者会合を開かせている。日本企業が間違いなく国内で経済活動できるような環境をつくる」

「為替に関しては(トランプ相場で)黙って(円安に)なったと言われるが、私たちが為替の危機管理をちゃんとやっているからだ。今まで日本は翻弄されてきた」

──具体的にどんな対応がとれますか。

「そこは色々と。私たちの為替への意識は強く、中途半端な決断ではない」

出所:日本経済新聞

 これまで円高となり、株価が下がると、財務省・日銀・金融庁による「3者会合」がよく開かれていました。3者会合は、何か権限のある集まりではなく、基本的には単なる意見交換会です。

 しかしその後、不思議なことに米ドル/円相場は反転し、株価も戻すことがよくありました。

 日経新聞「展望2017」では、「そこは色々と」と答えていましたが、菅前官房長官がどのようなマジックを使って米ドル/円相場を支えていたのか、知りたいものです。

【参考記事】
短期で米ドル/円の押し目買いもいいかも! 104円台ミドルのブレイクに今回も失敗…(8月3日、西原宏一&大橋ひろこ)

■アベノミクスはGPIFのポートフォリオ変更で円安を仕掛けた

 アベノミクスは、超金融緩和による円安をテコにデフレを止め、株価を持ち上げる政策でしたが、金融政策を緩和的にしただけで簡単に円安になるわけでもありませんし、円安の状況を維持できるわけでもありません。

そこには、仕掛けがありました

 それは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオを変更し、巨額の外貨買いが生まれるしくみを作ったことです。

 アベノミクス開始前、2012年度のGPIFポートフォリオは、国内債券約62%、国内株式約15%、外国債券約10%、外国株式約12%という構成でした。

 それが2013年度は、国内債券約55%、国内株式約16%、外国債券約11%、外国株式約16%と、少しリスク資産・海外資産にシフト。

 2014年度には大幅に構成を変更して、国内債券約40%、国内株式約22%、外国債券約13%、外国株式約21%としたのでした。

2012年度と2014年度を比べると、海外比率が約13%上昇していますが、2012年度の運用資産が約120兆円なので、約16兆円が海外にシフトしたことになります。

 これは実弾なので、相場には当然、影響があります

 今では、2020年3月に外国債券の比率を15%から25%へと変更したことで、ますます外貨比率が増え、それに伴い外貨買いが進んでいます

 現状、基本ポートフォリオの構成は、国内債券25%、国内株式25%、外国債券25%、外国株式25%と、ほぼ半分は海外となっています。

■GPIFのポートフォリオ変更も限界が近いか

 しかし、裏でアベノミクスを支えたGPIFのポートフォリオシフトも、これ以上、外貨の比率を上げることは難しいでしょう。

 2020年3月に外国債券を15%から25%に増やしたことで、現状の運用資産である約165兆円から単純計算すれば、約16.5兆円の外貨買い・円売りが生じることになります。

 ただ、2019年度のポートフォリオ構成を見ると、すでに外国債券比率が約22%となっているので、実は約3%、5兆円の外債購入でポートフォリオシフトは完成します。

 GPIFによる売買は、財務省が発表する「対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)」を見ればわかるので、それを見てみましょう。

 今年(2020年)の1月に約2兆円、2月に約2.2兆円、外国債券を買いました。3、4月で約9000億円売却し、6月には約1兆円買い、7月に約1.7兆円、8月に約1.8兆円買っています。

 つまり、今年(2020年)はすでに、8兆円分の外債を購入しています。ということは、すでに外債ポートフォリオは25%以上になっているはずです。

 外国株式の上昇が目覚ましいので、おそらくポートフォリオ全体が膨らんでいることから、外債購入の枠は大きくなっているでしょう。

 また、ポートフォリオ運用も±6%の変動が認められています。31%まで外債比率を高めると、まだ7-8兆円は外債購入できますが、かなり買い余力はなくなっています

■菅新首相誕生は、ラスボス登場感がある

 安倍前首相は、月刊誌「Hanada」9月号におけるインタビューにおいて、菅前官房長官を有力な後継者の1人と言いましたが、「ただ、菅総理には菅官房長官がいないという問題があります」と答えていました。

菅前官房長官こそが「為替管理」の要であったとすれば、菅新首相誕生は裏の実力者が表に出てきた、ラスボス登場感があります

 しかし、安倍前首相が指摘したように、菅新首相には菅官房長官がいません。多忙な新首相が、3者会合開催の司令まで気が回るのでしょうか。

■バイデン氏が新大統領となれば、日米関係も大きく変わる

 11月には、米大統領選挙が控えています。

 一時はバイデン候補圧勝の雰囲気がありましたが、このところの情勢は流動的で、トランプ氏、バイデン氏、どちらが勝つか、まったくわからなくなってきました

【参考記事】
IMMでロングだからこそ、ユーロ/米ドルはロングでOK! 金調整時もほとんど下落せず(8月19日、志摩力男)

仮にバイデン氏が新大統領となれば、トランプ大統領、安倍前首相が作ってきた日米関係も大きく変わります

当然、米ドル/円相場にも変化が出てくるものと思われます

 米ドル/円相場は膠着が続いていましたが、動きをせき止めていたしくみも変わるでしょう。相場変動に注意(期待)したいところです。

バイデン氏写真

仮にバイデン氏が新大統領となれば、トランプ大統領、安倍前首相が作ってきた日米関係も大きく変わり、米ドル/円相場にも変化が出てくるものと思われると志摩氏は指摘 (C)Scott Olson/Getty Images News


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