FXトレードを行ううえで注意が必要なロンドンフィックス
「ロンドンフィックス(LONDON FIX)」とは、英国・ロンドン市場において、金融機関の対顧客向け外貨取引の基準レートを決める行為のことを指します。
ロンドンフィックスは、東京市場における「仲値」に相当するもので、別名「ロンドンフィキシング(LONDON FIXING)」と言われたり、「ロンフィク」と略されたりします。
ロンドンフィックスが行われるのは、ロンドン時間16時。これを日本時間に直すと、英国が夏時間の間は日本時間24時、英国が冬時間の間は日本時間1時です。
この時間に決められた為替レートが、その日の両替のレートや企業との取引レートとして使われることになります。
そのレート水準を巡ってさまざまな思惑が交錯し、値動きが激しくなりやすくなることから、ロンドンフィックスにかけての時間帯は、FXトレードを行ううえで注意が必要になるのです。
また、ロンドン市場では金などの貴金属の取引が活発とあって、金の現物取引のレートもロンドンフィックスで決まります。それに絡んだ為替取引も相場の変動要因のひとつとして挙げられます。
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ロンドンフィックスで動きやすい時期は月末、期末、年末
ロンドンフィックスは土日を除いて毎日あるのですが、ロンドンフィックスにかけて相場が特に動きやすい時期が存在します。それが月末、期末、年末です。
なぜかと言うと、投資信託や年金運用基金、ヘッジファンドといった機関投資家は、月末、期末、年末のロンドンフィックスで、「リバランス」に絡んだ大口取引などを持ち込むことがあるからです。
リバランスとは、ポートフォリオの調整のこと。たとえば、ある機関投資家の基本的なポートフォリオが仮に「米国株30%、欧州株20%、英国株10%、米国債券20%、欧州債券15%、英国債券5%」といったものだったとします。相場変動によってこの基本的な比率から大きなズレが生じた際、当初設定した基本的な比率に戻すのがリバランスです。
リバランスの際、株や債券を売買するにも自国外のものを売買するなら、為替の取引が必要になる場合があります。
そして、このようなリバランスに絡んだ取引が、月末、期末、年末のロンドンフィックスに集中しやすいというわけです。
また、月末、期末、年末は、輸出企業の決算などに絡んで、自国通貨の買い戻しがまとまった規模で出ることがあります。こちらもロンドンフィックスにかけて相場変動が大きくなる要因のひとつです。
さらに言えば、このようなリバランスなどの動きに対する思惑でトレードする投機筋が相場の動きを加速させたりすることもあるため、月末、期末、年末のロンドンフィックスにかけての時間帯は市場の注目を集めやすいのです。
動きやすいのはユーロ、英ポンド、米ドル。相場の方向性に傾向はない
そして、ロンドンフィックスにかけて動きやすい通貨も存在します。
英国と欧州は隣り合っていることから、ロンドンフィックスでは、ユーロや英ポンド絡みの取引が活発に行われます。
また、ロンドンフィックスでは金の現物取引のレートも決まると先ほど書きましたが、金の現物取引は米ドル建てで行われているため、それに絡んだ米ドルの取引も出たりします。
つまり、ロンドンフィックスにかけては、ユーロ、英ポンド、米ドルに関連した通貨ペアが動きやすい、ということになります。
それでは、どの通貨ペアがどの方向に動きやすいといった傾向はあるのでしょうか?
というのも、東京市場の仲値の時間である日本時間10時頃(※)にかけては、輸入企業などが決済用の資金を調達する目的で米ドル買い注文を持ち込むことが多く、米ドル/円が基本的には上昇しやすい傾向があるからです。
(※厳密には金融機関の米ドル/円の仲値は日本時間9時55分に決まり、その後、10時ちょうど頃にレートが公表されるしくみとなっている)
ロンドンフィックスにかけても、仲値のように相場の方向性に基本的な傾向があるのかというと、それはないという結論になります。上がるか、下がるかはそのときの状況次第なのです。
相場の方向性に基本的な傾向と言えるものはないものの、ロンドンフィックスは月末、期末、年末が特に動きやすく、英ポンド、ユーロ、米ドルに関連した通貨ペアが動きやすいという特徴はある、というわけです。
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やる? やらない? 観測や動きやすさを利用したロンドンフィックストレード
月末、期末、年末が近づいてくると、為替ニュースなどで、ロンドンフィックスに関する市場の観測が流れてくることがあります。
たとえば、「月末のロンドンフィックスはまとまった米ドル売りが出る」とか、「期末のロンドンフィックスはユーロ買いが進む」といった、相場の方向性に関する観測です。
実際にロンドンフィックスを迎えてみると、観測どおりに相場が動くこともあるのですが、「米ドル売り」の観測に反して「米ドル買い」が強まったり、行ったり来たりして方向性が出なかったりすることも…。
東京市場の仲値にかけては、米ドル/円が原則的に上昇しやすく、それを狙って米ドル/円の買いポジションを持つ「仲値トレード」は、認知度が高いFXトレードの手法のひとつです。
【参考記事】
●「仲値トレード」って本当に儲かるの?(1) 実は巷で言われているような法則はない!?
●「仲値トレード」って本当に儲かるの?(2) 相場観一切無視で勝率7割超の手法発見!?
●ゴトー日の金曜日の仲値トレードは儲かる! 茨城大・鈴木智也研究室が検証し学会発表
ロンドンフィックスにおいても、相場の方向性に関する観測や、相場の動きやすさを利用した「ロンドンフィックストレード」が考えられそうです。
そうはいっても、相場が動きやすいけれど、どの方向に動くのかわからないのがロンドンフィックス。危ない橋は渡らない、という選択肢もあると思います。
そこも踏まえたうえで考えられる、ロンドンフィックストレードの例を4つ挙げてみます。
ロンドンフィックストレードの例
(1) ロンドンフィックスは荒れるし、どの方向に動くかわからないので、トレードは避ける
(2) ロンドンフィックスの観測に乗ってトレードしてみる。ただ、観測を信じすぎるのも危ないので、短期トレードで
(3) ロンドンフィックスへ向けた値動きを見て、その流れに乗ってトレードしてみる
(4) ロンドンフィックスへ向けた値動きが過剰に思えたら、ロンドンフィックス後に逆張りでエントリーしてみる
2022年5月31日(火)のロンドンフィックスはどうなった?
ここで実際に、月末の2022年5月31日(火)の動きを見てみましょう。
この日はロンドンフィックスにかけて米ドル/円の買い、ユーロ/米ドルの買いの観測が広がっていたのですが、まず米ドル/円の15分足チャートを見てみると、以下のようになりました。

(出所:TradingView)
米ドル/円は米長期金利の上昇や好調な米経済指標の発表が相次いだことで、ロンドンフィックス前から上昇。ロンドンフィックスでの米ドル/円の買い観測が広がっていたことで、先取り的な動きも出たのかもしれません。その後、ロンドンフィックスにかけては、それまでの上昇の反動からか失速しました。
今回の場合、先ほど挙げたロンドンフィックストレードの例が使えるか微妙ですが、ロンドンフィックス前の期間で考えれば、(2)や(4)が使えたことになります。ロンドンフィックスでの米ドル/円の買い観測などを背景に、先取り的な動きが出ていましたから、(2)のやり方で、その勢いに乗れていれば、利益が出たことになります。また、ロンドンフィックス前の上昇は勢いがよく、値動きも過剰にも思えますから、(4)のように逆張りでエントリーするという選択肢もあったでしょう。
続いて、ユーロ/米ドルの15分足チャートは以下のとおりです。

(出所:TradingView)
ユーロ/米ドルはロンドンフィックス前から下落。米長期金利の上昇や強い米経済指標を受けたユーロ売り・米ドル買いが進みました。ただ、ロンドンフィックスにかけては、事前の観測どおりに買いが入り、反発したという流れでした。
今回の場合、先ほど挙げたロンドンフィックストレードの例でいうと、(2)が使えたことになります。ロンドンフィックスでのユーロ/米ドルの買い観測に乗って買えていれば、値上がり益を狙えていました。
いずれにしても、ロンドンフィックストレードは、ロンドンフィックスの前後という短時間での勝負となるため、デイトレやスキャルピングにある程度慣れたトレーダー向きと言えるでしょう。
もちろん、短期取引が苦手だったり、ロンドンフィックスは荒れて、どの方向に動くかわからないからイヤ!という方は、(1)のようにトレードは避けるという手もあるわけです。
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ロンドンフィックスの時間に近いNYオプションカット
本記事では冒頭から、FXトレードを行ううえで重要な時間のひとつとして、ロンドンフィックスの時間である日本時間24時(英国が冬時間なら1時)を取り上げてきました。
実は、ロンドンフィックスの時間の近くには、米国経済指標の発表時間や米国株式市場の取引開始時間などが集中しており、これもロンドンフィックスにかけて相場が動きやすい要因なのですが、ロンドンフィックスの時間の近くで、特に重要なのが「NYオプションカット」の時間です。
NYオプションカットというのは、ザックリ説明すると、通貨オプションの権利行使期限のこと。
大規模な通貨オプションが存在すると、そのオプションが設定されている水準を巡って、オプションの買い手と売り手の攻防が続き、その水準に為替レートが収れんしやすくなるという傾向があります。
けれど、オプションが権利行使期限を迎えると、オプションの水準をめぐる攻防もなくなるため、相場が変動しやすくなるのです。
そんなNYオプションカットの時間は、NY時間10時。これを日本時間に直すと、米国が夏時間の間は日本時間23時、米国が冬時間の間は日本時間24時となります。
ロンドンフィックスとNYオプションカットの時間が重なることも
つまり、英国と米国が夏時間の間は、NYオプションカットが日本時間23時、ロンドンフィックスが日本時間24時と続き、英国と米国が冬時間の間は、NYオプションカットが日本時間24時、ロンドンフィックスが日本時間1時と続くことになります。
ここで、英国と米国の夏時間と冬時間の期間を確認しておくと、以下のとおりです。
英国の夏時間:3月最終日曜日から10月最終日曜日
米国の夏時間:3月第2日曜日から11月第1日曜日
英国の冬時間:10月最終日曜日から3月最終日曜日
米国の冬時間:11月第1日曜日から3月第2日曜日
上のように、英国と米国の夏時間と冬時間は微妙にずれており、英国は米国より夏時間が短く、冬時間は長く設定されています。そのため、英国が冬時間で、米国が夏時間の期間が以下の2期間、存在することになるのです。
英国が冬時間で、米国が夏時間の期間(1):3月第2日曜日から3月最終日曜日
英国が冬時間で、米国が夏時間の期間(2):10月最終日曜日から11月第1日曜日
上の2期間は、ロンドンフィックスとNYオプションカットが日本時間24時で重なるため、FXトレードを行ううえではかなり複雑な時間となります。
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まとめ
ここまで、ロンドンフィックスについて紹介してきました。
日本時間24時(英国が冬時間なら1時)のロンドンフィックスでは、月末、期末、年末が特に動きやすく、ユーロ、英ポンド、米ドルに関連した通貨ペアが動きやすくなります。
東京市場の仲値のように、相場の方向性にいつも同じ傾向があるわけではありませんが、為替ニュースなどで、相場の方向性に関する観測が流れることもあり、そういった観測や動きやすさを利用した「ロンドンフィックストレード」を仕掛けてみてもよさそうです。
また、日本時間23時(米国が夏時間なら24時)のNYオプションカットはロンドンフィックスの時間に近く、FXトレードを行ううえで重要な時間として意識されます。
ロンドンフィックス関連のリンク集
当サイトのロンドンフィックスに関連する記事を以下にまとめましたので、興味のある方は、ぜひ、ご覧ください。
【ロンドンフィックスに関連するリンク集】
●欧米の半期末、ロンドンフィックスに要注意! ロングがたまっているユーロ/ドルを戻り売り(2021年6月28日、西原宏一&大橋ひろこ)
●元ゴールドマン・サックス 志摩力男氏に聞く(2) 乱高下した英ポンドで利益を出せたワケは?(2020年3月1日)
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