■前回の記者会見で、パウエル議長がついた軽いウソとは?
毎回、FOMC(米連邦公開市場委員会)後に、パウエル議長は記者会見をします(毎回は大変だなと思います)。
実は前回の記者会見で、冒頭から核心を突く質問が、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の気鋭のFED(米連邦準備制度)ウォッチャーである、ポール・ケーナン氏からありました。
PAUL KIERNAN. “Hi, Chairman Powell. (略)Is it time to start talking about talking about tapering yet? Have you and your colleagues had any conversations to this effect? Thanks”
「こんにちは、パウエル議長。そろそろテーパリングに関する議論をし始めても良い頃ではないでしょうか? そのような話をあなたの仲間と話しましたか? ありがとうございます。」
CHAIR POWELL. “Thank you. So, no, it is not time yet. We’ve said that we would let the public know when it is time to have that conversation, and we said we’d do that well in advance of any actual decision to taper our asset purchases, and we will do so.”(略)
「ありがとうございます。いや、まだその時ではありません。私たちは、そのような議論をする時期になったら、人々にお知らせすると言ってきましたし、私たちは、実際にテーパリングの決定をする十分前にお知らせすると言ってきました。ですから、その通りにするでしょう。」
いきなりの質問にパウエル議長も焦ったのかもしれませんが、テーパリング(※)の議論を始める時期ではない、また、十分前にそのことについて知らせるというのもウソではありませんが、「仲間と議論したか」という質問にはウソを言っています。なぜなら、議事録には何人かの理事がテーパリングの時期について発言したと書いてあるからです。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
FOMC後、パウエルFRB議長の記者会見が行われる。前回、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記者から、いきなりテーパリングに関する質問があったが、今回は?(C)Bloomberg/Getty Images News
A number of participants suggested that if the economy continued to make rapid progress toward the Committee’s goals, it might be appropriate at some point in upcoming meetings to begin discussing a plan for adjusting the pace of asset purchases.
「何人かの参加者から、米経済が委員会の目標に向かって急速に前進し続けるならば、今後行われる会合のある時点において、資産購入のペースを調整するための計画の議論を始めることが適切ではないかという意見が出ました」
しかし、この程度のウソは許されるのでしょう。また、FOMC議事録も単なる議事録ではありません。あとから発表される議事録に、少しだけ匙加減(微調整)が加えられているというのは、一部では常識です。それだけ、テーパリングをスムーズに行うことができるかどうかは、非常に重要だからです。
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■テーパリングをスムーズに周知させることがポイント
2013年に、テーパーリングに関して当時のバーナンキ議長が言及したとき、金融市場が少し荒れました。そのことを「テーパタントラム」(※)と言いましたが、その時の混乱もバーナンキ議長がオバマ大統領に再選されなかった理由のひとつとは言われています。
(※編集部注:「テーパタントラム」とは、量的金融緩和の縮小に対して金融市場が混乱を起こすこと)
2013年に、テーパーリングに関して当時のバーナンキ議長が言及したとき、金融市場では「テーパ―タントラム」が起こった。写真は当時FRB議長だった、バーナンキ氏 (C)Bloomberg/Getty Images News
本日27時(2021年6月17日午前3時)にFOMCの結果が発表されます。注目ポイントは、テーパリングをできるだけスムーズに人々に周知させるかです。
よって、声明文に変化はないでしょうが、会見では議事録にあった文言、「今後行われる会合のある時点において、資産購入のペースを調整するための計画の議論を始めることが適切」をパウエル議長も語ることになると思います。
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■ドットチャートに、どのくらい動きがあるか注目
次のポイントはドットチャートです。
議事録において “a number of”(何人か)の理事が今後のある時点でテーパリングについて議論し始めるのが適切と発言しましたが、これが何人なのか正確にはわかりません。
議事録には、“a couple of” “a few” “several” “some” “various” “many”と言った言葉で大体の人数を示唆していますが、実はある程度の定義があります。
FOMCに参加するのは現在19名の理事です。そして“a couple of”は「2人」、“a few”は「3~4人」、“several”は「4~5人」、“some”は「6~7人」のようですが、”a number of”ははっきりした定義を聞いていません。
おそらく、3~10人ぐらいのどこかになるのでしょうが、それが何人なのか、本日のFOMCでわかることになると思います。
ドットチャートで注目すべきは2023年です。3月の経済見通しサマリーでは、11人が利上げなしを選択していますが、3人以上、上にシフトすると、2023年末までに利上げが始まることになり、前回までの2024年まで利上げなしから変化します。
【参考記事】
●「コロナバブル」の終焉は近い…?豪ドルの調整入りが引き金になるか(3月24日、志摩力男)
成長見通し、インフレ率の見通し、それぞれ重要ですが、ドットチャートこそがポイントだと思います。ここが、今回のFOMC最大の焦点でしょう。
(出所:FRB)
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