■ぶっきらぼうだった、パウエル議長の記者会見
6月16日(水)に発表されたFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果は驚きでした。
何が驚きか。まずは、金融引き締めについて「考えることを考えたこともない」とパウエル議長は言っていたのに、発表されたドットチャートは2023年末までに2回の利上げを示唆していました。市場関係者から見れば唐突です。
(出所:FRB)
会見においても、パウエル議長はどこかぶっきらぼうでした。テーパリング(※)に関しては、十分前もって事前に伝えると言っていましたが、今回の会合においては「(テーパリングについて)
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること))
FOMC後の会見で、どこかぶっきらぼうだったパウエル議長。パウエル議長に何が起こったのか…!? (C)Bloomberg/Getty Images News
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■パウエル議長を裏切った5人とは?
パウエル議長に何が起こったのか。最大の驚きは、ドットチャートの形状にあります。
パウエル議長、そしてクラリダ、クオールズ両副議長ら理事の人たち、NY連銀総裁のウイリアムズ氏ら7人は「執行部」と言われ、大概はまとまって行動します。
3月のドットチャートでも、2024年まで利上げなしで、7人は揃って行動していたことが見て取れます。ところが、今回はこの7人の塊がどこにもなかったのです。
【参考記事】
●FOMCは、テーパリングを周知するのか? ドットチャートこそが、最大のポイントになる(6月16日、志摩力男)
2024年まで利上げなしには5人います。パウエル議長は超緩和路線を諦めてないでしょう。よって、そこには必ずパウエル議長がいます。超金融緩和派のカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、デイリー・サンフランシスコ連銀総裁もいるでしょう。もしかするとローゼングレン・ボストン連銀総裁もいるかもしれません。
そうなると、パウエル議長に付いていった「身内」はたった1人ということになります(おそらく、次期FRB議長とウワサされるブレイナード理事)。
パウエル議長に付いていった身内はたった1人…。志摩さんは、おそらく次期FRB議長とウワサされるブレイナード理事と予想している (C)Bloomberg
残りの5人はどこにいったのか。パウエル議長にはついていけないと離反したのでしょう。5人も裏切り者がいるとなると、パウエル議長の今後のFOMC運営は大変な困難を伴うことになるでしょう。
■FOMCの結果を受けて、商品市場、米債市場は大荒れに
プラザ合意後の1986年2月、当時のボルカーFRB議長は政策変更に反対しましたが、ベーカー財務長官の意を受けた副議長のマーティン氏が利下げを主張、ホワイトハウスから送られた新しい理事2人が副議長側に付き、議長の反対にも関わらず、4対3で公定歩合引き下げが決まりました。これは「宮廷クーデター」と呼ばれる事件です。
猛烈なインフレを退治した名議長とされるボルカー氏ですが、この事件の後は完全に「レームダック」となり、自分の意に反する金融緩和策と米ドル下落を演出させられてしまったのです。
この「宮廷クーデター」ほどではないですが、ドットチャートの形状を見た瞬間に、この事件を思い出した人は多いでしょう。なにしろ、付いて行く部下が1人か2人しかいないのです。
パウエル議長が今後、FOMCをまとめていくことができるのか、注目です。そうでなければ、パウエル議長の会見を見ても、FOMCの総意は違うかもしれないからです。
FOMCの結果を受けて、商品市場、そして米債券市場は大荒れでした。金をはじめ、商品価格は大きく下げました。中国が、商品価格のインフレを抑えようと躍起になっていることもあるでしょう(国家備蓄まで放出しています)。
(出所:TradingView)
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■米債市場で長期金利が急変動したワケとは?
もっと驚いたのは米債券市場です。金融引締めにFRB(米連邦準備制度理事会)が動いたのに、米長期金利は急激に低下したからです。発表前は1.50%前後でした。発表直後こそ、1.60%水準へと上昇しましたが、すぐに低下を開始し、一時は1.35%前後まで低下、現状1.48%前後です。
(出所:TradingView)
長期金利がこれだけ動くのも珍しいのですが、何が背景にあるのでしょうか?
まずは、米長期債の市場がショートだったからです。インフレに対処して、FRBが行動するなど、考えもしてないからです。
それから、金利マーケットでは多くのプレーヤーは直接、その方向にかける取引(ダイレクショントレーディング)ではなく、金利カーブの変化を取りに行く取引(アービトラージトレーディング)ばかり行うのですが、スティープニング(長短金利差の拡大)にかけるポジションがアンワインド(反対売買)を迫られたからでしょう。
米国市場ではなく、アジア時間に金利が急低下したことからも、「ストップロス」が発動したことによる動きだと推察できます。
ただ、米長期金利の低下はFOMC前から始まっていました。今回は多くのFRB理事が高いCPI(消費者物価指数)を見て「ビビって」将来の利上げに傾いていったのでしょうが、金利のマーケットはそのずいぶん前から、インフレ率の上限を見切り、現状がピークと見て米長期債の購入に動いていたのでした。
この結果を見てからしか動けないFRB理事たちと、将来を予測して動くマーケット、この時間差が米長期金利の急変動を招いたのでしょう。
混乱しましたが、マーケットも落ち着くと思います。パウエル議長が言うように、現状のインフレ率がピークであり、ゆっくり来年(2021年)に向けて落ちていくのでしょう。
今回、本命である米株式市場がほとんど下落しなかったというのが印象的です。少々のことでは崩れないのでしょう。そうなれば、マーケットもそのうち「リスクオン」に回帰します。
(出所:TradingView)
しかし、インフレが想像以上に長引き、パウエル議長の意向とは裏腹に、急激な引き締めをせざるを得なくなった場合、マーケットは大混乱となります。2022年に向けて、パウエル議長再任問題もあり、目が離せなくなってきました。
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