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田向宏行
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ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!?


ドルはどこまで下がるのか? (9)

2008年05月09日(金)17:12公開 (2008年05月09日(金)17:12更新)
ザイFX!編集部

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 (前回「ドルはどこまで下がるのか? (8)」からのつづき)

 「ドル安=原油高」の本当の理由は何なのか? そこへ話を進める前に、産油国でいかにドルという通貨の存在感が薄れてきたかということについて、広瀬さんは歴史的な変遷を語ってくれた。

 「昔は世界の原油の所有権の少なからぬ部分が米国の石油会社をはじめとする、いわゆる『セブン・シスターズ』と呼ばれる巨大企業に支配されていました」
埋蔵された原油の所有権の変遷

 確かに上のグラフを見ると、1970年には、原油の所有権は実にその94%が西側石油会社にあったとわかる(原油の確認埋蔵量に対する割合)。そして、この西側石油会社の大半は米国企業だったという(ロイヤル・ダッチ・シェルだけが欧州)。

 「昔は油田の所有権は米国企業にあり、生産や精製する際のノウハウも米国企業が提供、発生する費用もドル建てで、産油国の最大のお得意さんも米国という構図になっていました。

 この状況なら、原油がドル建てで取引されるのはいたって当然のことであり、そこに違和感はなかったわけです」

 しかし、そうした状況は変化してきた。上のグラフで1970年には94%を占めていた西側石油会社は1979年には45%、2006年には6%と激減している。

 その裏で何が起こったのか? 原油所有権の国有化である。確認埋蔵量に対するその割合は1970年に6%に過ぎなかったものが、2006年には83%まで拡大している。

 「イラン革命などにより、油田の国有化がどんどん進んだんですね。その結果、今では世界の原油埋蔵量のうち、8割以上が『別にドルで取引しなくても構わない』持ち主に帰属しています」

 一方、原油の消費にも大きな変化が訪れた。
 「最近ではエマージング諸国の原油消費量がどんどん増えています。つまり、原油の顧客はドル以外の通貨へ拡散してきているわけです。

 結局、原油の所有権を持つオーナーの側でも、原油を消費する顧客の側でも、ドルに関係のない当事者の割合が増えているのです。

 こうなると、『そろそろ止めたいよね、ドル建てで取引するのは』と産油国が思うのも無理はありません」


■俗説のムードに乗ったさまざまな投機筋が原油高を演出

 現在、原油価格は1バレル=120ドルを突破するまでに高騰する一方、ドルはひと頃より持ち直しているものの、主要通貨に対して大きく下がってきた。

 さてそれでは、なぜ「ドル安=原油高」になるのか? それについて、今流れている俗説は「中東の売り手が、原油を売った代金による購買力を一定に維持するためには、ドル建てで表示されている原油価格を自らつり上げている」ということだった(「ドルはどこまで下がるのか? (8)」参照)。

 けれど、広瀬さんは原油価格をつり上げているのは中東の資金だけとは限らないという。そういう俗説のムードに乗った中東系とは限らないさまざまな投機的資金が原油価格をつり上げているというのだ。これが「ドル安=原油高」の本当の理由だと広瀬さんは語る。

 そして、そうなってしまった背景には米国の金融政策があるという。

 「商品市場を駆け巡る投機資金は無視できない存在です。そのエネルギーが大きくなったことには米国の金融政策が影響していると思います。

 米国は2001年暮れから2004年秋までという長い期間、政策金利を1%台の低い数字に抑えてきました。それを引き上げた途端にサブプライム問題が起こってしまい、また昔に逆戻りして、あわてて政策金利をグンと引き下げました。

 こういった金融政策は『くせ』になるとインフレの芽をしっかり植えつけてしまいます。つまり、長年の不健全な金利政策、財政政策の継続が、現在の商品相場における投機エネルギーの蓄積に一役買ってきたと言えるのです。

 さらに、もっと長い期間で見れば、1980年頃から一貫して米国の政策金利は下がっていますから、『20年以上のエネルギーがたまっている』というふうにも言えると思います。そういう長期での金利コストの減少トレンドは『借りた者勝ち』というメンタリティーを定着させるのです」

 1980年代には10%以上になったこともある米国の政策金利。それがいまや2%なのだから、レバレッジをかけて行うような——つまり、お金を借りて行うような——投機的な取引はずいぶんやりやすくなってしまったということなのだろう。

「ドルはどこまで下がるのか? (10)」へつづく)

(ザイFX!編集部・井口稔)

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