ウクライナ情勢緊迫化。なぜ、ロシア軍はウクライナの周囲を取り囲んだのか?
ウクライナ情勢が緊迫しています。
十数万人規模のロシア軍がウクライナを取り囲み、いつでも戦闘できる態勢です。ロシアは軍事大国。戦争をすれば、ウクライナはあっという間に制圧下に置かれます。
しかし、なぜロシア軍はウクライナを取り囲んでいるのでしょうか。
写真はウクライナの首都キエフの街並み。なぜロシア軍はウクライナを取り囲んでいるのだろうか?(C)Leonid Andronov/AdobeStock
プーチン大統領は、「東西ドイツ統合の際、NATO(北大西洋条約機構)を東方に拡大しないとの約束があった」、「だからドイツ統合を認めたのだが、その約束を西側は果たしていない」と言っています。
ウクライナがNATOに加盟すると、モスクワと目と鼻の先にNATO軍のミサイルが置かれることになり、それはロシアの存立を脅かす。それ故、ウクライナはNATOに加盟しないこと、NATOをこれ以上東方に拡大しないことを「文書」で確約しろと…。
ただ、それは原理原則に反することなので、NATO側は受け入れられない。そこでロシア側がどう出るか。プーチン大統領であれば、ウクライナ占領もやりかねない……ということで、非常に緊張した状態になっています。
ロシアがウクライナに侵攻しメリットはあるのか? NATO軍との戦闘になるシナリオなら、ロシアの存立が脅かされる事態も
しかし、ウクライナを占領してロシアに何の得があるのか。プーチン大統領は昨年(2021年)「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性」と名付けた論文を発表しました。
「ウクライナの真の主権は、まさにロシアとのパートナー関係の中でこそ可能になる」――。ロシアと一体であるなら、同朋を傷つけるようなことをして良いことなどないでしょう。戦闘になれば、数万人の犠牲者が出て、ウクライナとロシアの離反は決定的になります。
軍事的にウクライナを制圧することは可能ですが、それを維持する体力がロシアに果たしてあるのか――。冷戦時のロシア(当時はソ連)のGDPは米国を上回るかもしれないと言われた時期があり、1960年代は1ドル=0.9ルーブルと、ルーブルの価値の方が米ドルを上回っていました。
冷戦終了後の混乱もありましたが、本稿執筆時点(2022年2月16日)で1米ドル=75ルーブルぐらい、そしてロシアのGDPは約1.48兆米ドルと推定されていますが、これは韓国(約1.63兆米ドル)より小さく、米国24兆ドル(FRED、2021年Q4)と比べるべくもなく、経済的には取るに足らない「小国」です。
(出所:TradingView)
もしロシアがウクライナに侵攻した場合、最終的にはNATO軍との戦闘になり、ロシアの存立が脅かされ、政変が起きてプーチン大統領自身も危なくなる、そういうことになるのはよくわかっているでしょう。
よって、ロシアがウクライナに侵攻し、墓穴を掘る事はほぼないはずです(完全には否定しませんが、10~20%程度の低確率でしょう)。
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米国が煽ることでマーケットは戦闘状態に。今は、ちょっとした「リスクオン」、「リスクオフ」で揺れる
ところが、マーケットではあたかも侵攻が始まったかのように動いています。
サリバン米大統領補佐官が2月11日(金)、「明日にでもロシア軍の攻撃があるかもしれない」、「空爆」、「米国民は48時間以内にウクライナから出国を」と会見したからです。
ロシアから攻めることはないだろうと考えていましたが、米国が煽ることで事実上マーケットでは戦闘状態になる。こうした展開は想定していませんでした。今は、ちょっとしたヘッドラインで「リスクオン」、「リスクオフ」と揺れています。
ロシアがウクライナを占領したりすることはないでしょうが、緊張状態があることで得する人もいます。プーチン大統領は「強い指導者」を演じ、最近下がっている支持率を上げることができます。
バイデン米大統領も、アフガニスタンでの失態を挽回するチャンスと考えているでしょう。ロシアが攻撃してくれた方が、都合がいい。そして事情はジョンソン英首相も同じです。戦闘状態になり、ロシアに対して強硬に対応すれば、支持率はきっと上がります。
ウクライナ情勢が緊張すれば原油価格は上昇。結果的にロシア経済は好調に。適当なところで、プーチン大統領は引く見方も?
また、ウクライナが緊張すれば原油価格は上がります。ロシア経済は事実上、原油価格次第。原油価格が上昇すれば、経済は好調になります。
(出所:TradingView)
そしてこうしている間にも、欧州に天然ガスを売って儲けています。あまり緊張を高めて、欧州の天然ガス調達先が変わったりすれば打撃を受けるのはロシア。よって、適当なところで、プーチン大統領は引くはずです。
このところの交渉を見てもわかります。ロシアは米国に対しては強硬に、そしてフランス、特に(一番のお得意先である)ドイツに対しては親密に対応します。ショルツ独首相と会談しましたが、彼に花を持たせて、適当に緊張をほぐすのではないでしょうか。
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ウクライナ情勢で一時的に買われた円は売られる。米ドル/円やユーロ/円は、近いうちに上昇相場へ戻る
ウクライナの緊張は、完全に消えることもないでしょう。あったほうが米英露三者共に得をします。原油価格が下がれば、また緊張度が上がるかもしれません。しかし、決定的な戦闘などはないと想定します。
もし、ウクライナの緊張がそのうち緩和するのであれば、マーケットは本来あるべき方向に戻るのではないでしょうか。
米国の金利が上昇し、欧州も金融政策を変えてきました。しかし、日本は2月14日(金)に「指値オペ」(※)をして長期金利の上昇を抑えたように、金融政策変更までまだ距離があります。
(※編集部注:「指値オペ」とは、特定の利回りで国債を買い入れること)
リスクオフで一時的に買われた円ですが、マーケットが正常化すれば売られることになるでしょう。米ドル/円は買われ、ユーロ/円も買われる、そうしたマーケットが近いうちに戻るのではないかと思います。
【参考記事】
●米ドル/円は上昇トレンドの中にあり、120円を挑戦する展開もありえる。ユーロ/円も、140円を超える円安になる可能性(2月10日、志摩力男)
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
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