ラガルドECB総裁は徹底的なハト派姿勢を転換。ユーロ/米ドルは1.1500ドル超えなら底入れか
先週(1月31日~)木曜日(2022年2月3日)に行われたECB(欧州中央銀行)理事会では、金融政策の現状維持を決めましたが、理事会後の会見において、ラガルド総裁はこれまでの徹底的なハト派姿勢を転換させました。
今後のインフレ動向によっては、年内利上げもありえる点を明確に否定せず(前回の会見では“Highly unlikely”『可能性は極めて低い』と言っていました)、次回(3月)のECB理事会で資産買い入れペースを再検討する可能性も示唆しました。
2月のECB理事会でラガルド総裁は、これまでの徹底的なハト派姿勢を転換させた (C)Visual China Group/Getty Images
2014年6月にドラギ前総裁の元でマイナス金利を導入して以来の、大きな方向転換に見えます。ユーロ圏のCPI(消費者物価指数)も5%に達し、これまで金融緩和路線を徹底してきたECB執行部も、ドイツなどの北の引き締め派の考えを容認せざるを得なくなったのでしょう。
多くの金融機関が、ECBの2022年後半の利上げを予想し始めました。ちなみにゴールドマンサックスは9月と12月に2回利上げと予想しています。2019年5月以来マイナス金利に沈んでいた独10年債利回りも、ついに0.25%まで上昇してきました。マイナス金利を嫌気してユーロの外に出ていた資金が、一定程度戻ってくる可能性があります。
(出所:TradingView)
ユーロ/米ドルは、その前の週に1.1121ドルの最安値を付けていましたが、1.1482ドルまで高騰しました。300pipsを超える上昇は、最近では珍しい。重要なカギとなる1.1500ドルを超えるかどうかに注目です。超えてくると、ユーロ/米ドルも底入れと言えそうです。
(出所:TradingView)
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インフレスパイラルを断ち切るにはガツンとした利上げが必要。でも、パウエルFRB議長は、そんな大胆なことはできない
欧州が引き締めに転じたのですが、米国もすごいことになってきました。ECB理事会の翌日(2月4日)発表となった1月の米雇用統計では、オミクロン株の影響で、統計上50万人以上失業者が増えると言われていましたが、実際には前月比46.7万人もの雇用増となり、しかも11月、12月の上方修正を考慮すると、優に100万人以上の雇用増と解釈できるものとなりました。
雇用者の数字以上に重要なのは、賃金の伸びです。「いくら賃金を高くしても雇えない!」と経営者が嘆く映像が日本のテレビでも流れるようになっていますが、前月比プラス0.7%の賃金上昇はかなりのものです。
単純にこれが1年間続くとプラス8.4%の上昇となりますが、ざっくり10%の賃金上昇が毎年続くような状況は、インフレがスパイラル的に上昇していく状況を想起させます。
「賃金上昇→物価上昇→賃金上昇→物価上昇」の、インフレスパイラルです。
これを断ち切るには、景気を意図的に後退させるような思い切った金融引き締めが必要と言えます。必要な利上げは、0.25%ずつ、年に5回とか、7回とかじゃなく、0.50%なり1.00%をガツンと利上げするしかないはずですが、パウエル議長にそんな大胆なことができるはずありません。
【参考記事】
●2022年の米国の利上げは完全に織り込まれ、むしろ追い越した感じも。次の焦点は、「他の中央銀行がどのように反応するか」(2月3日、志摩力男)
インフレスパイラルを断ち切るには、小出しではなくガツンとした利上げが必要になるが、パウエル議長にそんな大胆なことができるはずないという (C)Bloomberg/GettyImages
また、株式市場もそんな引き締めを望んでいません。0.25%ずつ5回でも嫌でしょう。よって、米国のインフレはなかなか収まらない可能性が高いと言えます。
金利は上昇していきます。その意味では、目先、米ドルは強いのでしょう。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 日足)
欧米が金融引き締めに進む中、日本は金融緩和政策を継続へ
欧州が金融政策の方針を転換し、米国はとんでもなく経済が強いことが確認され、今後かなりのペースで引き締めが行われます。そんな中、我が日本は金融緩和政策を継続します。
「悪い円安」という言葉がメディアでも語れるようになってきましたが、日銀は金融緩和の悪影響を敢然と否定します。
【参考コンテンツ】
●【2022年大予想!】米ドル/円は金融政策で120円か、購買力平価で85円?
まあ、事実、日本のインフレ率はまだプラス2%に達していません。黒田総裁は2013年の就任後、インフレ率プラス2%を実現すると大胆な金融緩和政策に打って出ましたが、当初2年以内と言っていた約束が9年も果たされていません。
ところが、携帯電話料金の影響を除くと、インフレ率プラス2%を実現するチャンスが今ここにあります。黒田総裁としては、このチャンスを逃さず、確実にインフレ率2%を実現したい……そう思っているでしょう。
【参考記事】
●岸田政権は、米ドル/円が110円を下回ることを望んでいる? マーケットを揺らした、ロイターの観測記事を書かせたのは誰か?(1月26日、志摩力男)
●米ドル/円は、128円が2022年のターゲットか。トランプラリーの高値118.67円を超えると、大きな上昇波が見込まれる展開に!(1月6日、志摩力男)
2月3日(木)に和歌山で講演した若田部日銀副総裁は「高圧経済論(High Pressure Economy)」を提唱していました。
イエレン米財務長官がFRB議長時代に使っていた理論ですが、高インフレ率を一定期間容認することで経済を意図的に加熱させ、それで賃金を上昇させ格差問題まで解決させようという理論です。
しかし、イエレン財務長官はインフレを予測できなかったことで非難されています。今回のインフレに関しては、どう見ても、以前からインフレを警告していたサマーズ元財務長官が言っていたことが正しく、イエレンさんは間違っていました。
【参考記事】
●【FOMCの焦点と為替市場の見通し】引き締めへの明確なシフトで、最終的には米ドル高。特に、円に対してはじり高か(2021年12月15日、志摩力男)
「高圧経済論」はイエレン米財務長官がFRB議長時代に使っていた理論。しかし、今、イエレン財務長官はインフレを予測できなかったことで非難されている (C) Bloomberg/Getty Images
このタイミングで「高圧経済」という言葉を出して、意図的に景気もインフレ率も高めに吹っ飛ばすという政策を提唱する若田部日銀副総裁は勇気があるなとは思いますが、歓迎する人は少ないでしょう。
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米ドル/円は120円挑戦も十分あり得る。ユーロ/円は140円を超える可能性もあるか
岸田政権も、インフレ率が上昇することは歓迎しないでしょう。ガソリン価格の高騰を補填するかどうか、それが政治イシューにもなっています。7月の参議院選挙前に、さらに円安となり、インフレが問題となれば、岸田政権も動くでしょう。
ですが、黒田日銀総裁と安倍政権下で任命されたリフレ派委員は断固として金融緩和政策維持にこだわるでしょう。2%超のインフレ率を続けることで、人々のデフレ意識が払拭され、「複雑で粘着的な適合的期待形成のメカニズム」が打破されるのだと。
また、岸田首相の意向はあっても、安倍元首相は金融緩和の継続が望ましいと思っています。事実上の権力が、まだ安倍元首相にあるならば、緩和政策が続くことになります。
言えるのは、世界が引き締めに動く中、日本は断固として金融緩和を続けるということでしょう。この政策の違いは明確で、インフレは日本にもやってきそうです。
【参考記事】
●米ドル/円はトランプラリー高値118.68円が意識される展開へ。日本に突然インフレが襲ってきたら、その時、円はどう動く?(2021年10月13日、志摩力男)
米ドル/円は引き続き上昇トレンド内にあり、上記の認識が海外勢にも広まれば、120円挑戦も十分ありえます。
(出所:TradingView)
そして、欧州が引き締めに方向転換した今、ユーロ/円も今後上昇していくでしょう。目先は昨年(2021年)高値134.12円、そして2018年高値137.50円ですが、140円超の円安も十分ありえるでしょう。
(出所:TradingView)
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