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西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

英ポンドの行方に注目!残された時間はあと「3日」!?
英国で年金の破綻リスクが再燃、問題が沈静化しない
限り、英30年債利回りの上昇と英ポンドの下落は続く

2022年10月12日(水)15:17公開 (2022年10月12日(水)15:17更新)
西原宏一

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「君たちに残されているのは3日だ!」ベイリーBOE総裁のコメントに相場は大揺れ

 みなさん、こんにちは。

 今週(10月10日~)の注目は13日発表の米国CPI(消費者物価指数)。ビッグイベントを控えて今週の米株は大きな動きはなく、12日の米国株は底堅く推移していました。

 ところが、日本時間12日未明、突然、米国株が急落。

 その時点では米国の金融市場には、米国株が急落するようなニュースはなく、マーケットは一時騒然となりました。

S&P500・1時間足
S&P500・1時間足

(出所:TradingView

 しかし直後、株急落のきっかけがBOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])のベイリー総裁のコメントであることが判明。株安、英ポンド安が続き、12日のNY市場は引けています。

 株安の要因となったBOEのベイリー総裁のコメントは下記の通り。

 BOEのベイリー総裁は、市場での介入は計画通り週末までに停止すると述べ、維持できないポジションは手じまうよう投資家に呼びかけた。「関係するファンドや企業に私が伝えたいメッセージは、残されているのは3日だということだ」とワシントンで開かれたイベントで発言。「金融安定の本質として、介入は一時的なものだ。長引かせるものではない」と述べた。
(出所:Bloomberg)

BOEは英国債市場を守るため、介入を延長するとの期待もあったのですが、ベイリー総裁は「残されているのは3日だ」と警告

 これにより英30年国債の利回りは一気に4.80%まで急騰し、再び5.00%台に急接近。

 10月5日(水)に1.1495ドルまで急反発していた英ポンド/米ドルもあっという間に、1.1000ドルを割り込んでいます。

 英30年国債利回りの急騰が、英ポンド安のみならず、米国株、そして日本株の急落も誘引する展開になっています。

 ではなぜ、英30年国債利回りの急騰がリスクオフを誘引するのか、確認してみましょう。

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英国債利回りの急騰で英国年金危機が再来、株安、ポンド安に警戒

 昨年(2021年)までは世界中で低金利だったので、英国に関わらず年金は魅力的な利回りを構築することに苦労していました。

 ここで登場するのが、「金利スワップ」というデリバティブ商品です。

 しかし、この商品は金利が上昇すると、大幅に評価損が出ます。

 BOEがこうした商品にレバレッジをかけていたかどうかは定かではありませんが、レバレッジをかけている状態で金利が急騰すれば、当然評価損も急増します(いろいろな報道によれば5~7倍程度のレバレッジをかけていたようですが)。

 下の図は英30年国債利回りの日足のチャートです。

英30年国債利回り・日足
英30年国債利回り・日足

(出所:TradingView

 9月28日(水)に英30年国債利回りは5.00%台に突入し、英国年金が破綻するのではという報道が駆け巡り、英ポンド/米ドルも1.0350ドルまで急落しました。

 その後BOEが救済に入り、英30年国債利回りも一時3.62%まで反落。

 英30年国債利回りの急落を横目に、英ポンド/米ドルも1.1495ドルまで急騰。

英ポンド/米ドル・日足
英ポンド/米ドル・日足

(出所:TradingView

 BOEの救済で英国年金危機が沈静化した状態だったわけです。

 ところがベイリー総裁が「君たちに残されているのは3日だ!」と言い放ったことで、英30年国債利回りは 一気に4.80%まで急騰しました。

 これでは、英国の年金が保有している金利スワップには再び巨大な評価損が発生していると想定され、英国年金の破綻リスクが再燃しているといえます。

 これでは、米国株や英ポンドの急落も誘引してしまいます。

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英ポンドの下落は続く! イングランド銀行が英国債の無制限購入で市場に介入しても、トラスショックによる英ポンド安や株安、不安定な債券市場の流れは変わらず!(2022年9月26日、西原宏一)

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米ドル/円だけではなく、英ポンドの行方に注目!

 マーケットでは「あと3日!」」と警告された英国の年金がどう対応するのかが注目されています。

 しかし年金が担保としているのも英国債。

 マージンコールのために英国債を売ると自分たちの担保価値が下がることになります。

 う~~ん、この状況はやはりBOEが救済せざるを得ないと思うのですが、ベイリー総裁はあと「3日!」と明言。

 加えて、ベイリー総裁は「維持できないポジションは手じまうよう投資家に呼びかけた」ともコメントしており、本当に週末介入を停止し、マーケットが混乱するのではないかと、マーケットはちょっとしたパニックになっています。

この問題が再燃している限りは、英30年国債利回りの上昇と英ポンド/米ドルの下落は続くということになります。

 当コラムで注目しているユーロ/スイスフランは今週もじり安の展開。一方、ベイリーコメントでユーロ/英ポンドは反発しています。

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 結果、英ポンド/スイスフランが急落しており、個人的にはこの通貨ペアが続落する可能性が高いと思っていますが、一般的には、英ポンド/米ドルがパリティ(1英ポンド=1.00ドル)に向かうのではないかということで、再び注目が集まっています。

英ポンド/スイスフラン・日足
英ポンド/スイスフラン・日足

(出所:TradingView

BOEは一転して「債券買い入れ」に出る可能性も! 

 一点注意したいのが、BOEはなかなか老獪な事。

 ベイリー総裁があと3日とコメントしたにも関わらず、当日のフィナンシャル・タイムズは、BOEが債券買い入れ延長の可能性があると報道をしています。

英中銀「債券買い入れ延長もあり得る」と銀行関係者に示唆
イングランド銀行(英中央銀行)は、市場の状況から必要と判断すれば、緊急の債券買い入れプログラムを14日より先まで延長する可能性があると市中銀行に内々に伝えた。協議について説明を受けた関係者3人からの情報を引用し、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が報じた。

 年金基金のために資金運用を行う年金負債対応投資(LDI)の担当者の動向を中銀当局は注視し、マージンコール(追加の担保・保証金請求)に顧客が応じることを可能にする十分な現金の準備を増強できたかどうかを見極めようとしているという。

 銀行関係者の1人がFT紙に語ったところでは、中銀は買い入れを延長するかどうか13日か14日に決定する。英ポンドの対米ドル相場は上昇し、一時0.8%高の1ポンド=1.1057ドルを付けた。
(出所:Bloomberg)

 このように老獪なBOEは、一転して「債券買い入れ」に出る可能性もあるため、要注意です。

 東京市場では、米ドル/円が146円台に反発し、政府・日銀の介入が話題になっていますが、グローバルでは圧倒的に英30年債利回りと英ポンドの行方に注目が集まっています。米ドル/円のみならず、英ポンド/米ドル、英ポンド/円、ユーロ/英ポンド、英ポンド/スイスフランの行方に注目です。


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