黒田緩和修正ショックで円が急騰!
年末なので、来年(2023年)の予測を書くのが慣例である。
ところで、2022年12月20日(火)の相場は大波乱だった。いわゆる黒田緩和修正ショックで円の急騰がみられ、市場関係者の多くは急いで見通しを修正せざるを得なかったようだ。
(出所:TradingView)
ミスター円こと榊原元財務次官は、つい最近「160円~170円」といった来年(2023年)の米ドル/円の上値ターゲットを提示したばかりと思いきや、今度は180度大転換で、来年(2023年)の下値ターゲットは120円と言い始めた。
正誤はともかく、市場関係者のドテンぶりを示す好例になっており、市場センチメントの大転換を物語る。
もっとも、筆者も150円を超える米ドル/円の上値ターゲットを予想していた。しかし、それは今年(2022年)ではなく、来年(2023年)になってから達成されるものという「前提条件」があった。
言ってみれば、2022年中に一気に152円の節目寸前まで突っ込んだ円安の進行が、だいぶ行きすぎだったぶん、早期にピークアウトした可能性が高いというわけだ。
一番重要な16年半の周期で見ると2028年まで
米ドル安・円高の進行が想定される
早期ピークアウトの意味合いは、大きなサイクルを見ないとわかない。相場は一見してファンダメンタルズによって形成されるものだが、本質的には内部構造に規定されるものだと思う。
ファンダメンタルズの材料、厳密に言うとファンダメンタルズに関する解釈は、往々にしてトレンドやサイクルの後を追う形で発生するものとも言える。
米ドル/円の長期チャ―トをみればわかるように、ボトムからボトムを数えるサイクルで、一番重要なのは16年半の周期だ。
(作成:陳アソシエイツ)
2011年10月末の日銀の円売り介入が成功したのも、実にそのサイクルの底を狙ったと言われている。構造上のタイミングに合わせられなかった場合、同じ介入でも効果が弱く、また失敗した可能性(中央銀行の相場介入は7割が失敗に終わると言われる)さえあったかもしれない。
この16年半のサイクルを信じる場合は、やや大げさな話だが、1995年後半の時点ですでに、2011年後半ごろにもう1回円高の高波が来ると予想できたかもしれない。
このサイクルのままなら、2028年に我々は円安ではなく円高の節目をもう1回見ることになるだろうと想定できる。
なぜなら、今回のサイクルの起点は2011年年末だったから、今年(2022年)のピークアウトがあれば、すでに10年程度の円安の進行があったわけだ。
サイクルは上昇する周期と下落する周期の両方なしでは成立しないから、2028年まで米ドル安・円高の進行が想定される。
米ドルがピークアウトしたかどうかが最重要問題
目先、一番重要な問題は152円の節目寸前まで進んだ米ドル高をもって、10年程度の米ドル高の進行が終わったかどうかだ。
今となっては猫も杓子も米ドルのピークアウトを言うようになったが、つい2カ月前は皆が「円安パニック」になったことは、実に記憶に新しい。11月の逆CPIショックにしても、今回の黒田緩和修正パニックにしても、米ドルのピークアウトを認証する材料にすぎないから、米ドルがピークアウトしたかどうかは、サイクルの視点から検証しないといけない。
サイクルの数え方は、ボトムからボトムと数える以外、トップからトップと数えるのもごく普通である。米ドル/円の長期チャートに照らして考えると、1974年から平均8年程度のサイクルが存在することもおわかりいただけるかと思う。
(作成:陳アソシエイツ)
しかし、1998年~2007年のように、1年程度延長された実例もあって、完全にピッタリしたものではないことにも注意が必要だ。
延長する実例がある上、2015年6月高値から8年サイクルで考えると、本来2023年6月前後にもう1回高値がくるから、今の市場のセンチメントとまったく違う結果になる。この意味において、ミスター円の榊原さんが言う「2023年160円~170年」説にも納得できる節があった。
仮に2022年10月に政府・日銀の介入が再度成功し、米ドル/円のピークアウトをもたらしたとすれば、それもほかならぬ、サイクルが効いていたと解釈できる。なにしろ、少し前のサイクルが延長された分、今回、半年程度縮小され、約7年半のサイクルと数えられてもおかしくない。
米ドル高のサイクルがピークアウトした可能性は高いが、
急激な円高になるとは限らない
その上、すでに指摘したように、昨年(2021年)年初から約50円の上昇幅を達成、その値幅は2011年安値~2015年高値までの上昇幅とほぼ同じなので、今年(2022年)の高値をもって8年サイクルのピークアウトを果たしたのであれば、大して違和感はない。
(出所:TradingView)
黒田緩和修正ショックがあったから、市場関係者の多くは来年(2023年)の円高予想のターゲットについて上値修正を急いでいると聞くが、筆者はそうではない。
雑誌ザイから為替予想のアンケートを取られたのは同ショックの前だったこともあって、一応2023年の円高進行を予想していたものの、円の上値を126円程度と記していた。要するに、確かに米ドル高のサイクルがピークアウトしたと思うものの、急激な円高になるとは限らないということだ。黒田緩和ショックがあっても、このような見方を大きく修正する必要はないと思う。
確かに相場は今回の黒田緩和ショックに大きく反応したが、それはほかならぬ、米ドルのピークアウトの後を追う形での認証なので、行きすぎた側面が大きい。
今回は別に政策金利の調整ではなく、単に長期金利の許容変動幅の上限を上方修正しただけだ。「事実上の利上げ」と緩和修正の方向へ解釈されているが、おもしろいことに、2018年7月や2021年3月に日銀が同じ長期金利の変動幅拡大を決定した際、市場関係者たちはそれを「緩和拡大」と解釈。今回と180度違っていた。
つまるところ、材料はどうであれ、どの方向にも解釈できるから、あまり突っ込まないほうがいい。
では、サイクルの視点からみると、来年(2023年)の市況はどうなるだろうか。一番重要な視点はサイクルの「位相」にあるかもしれない。
2011年安値を起点とした今回のサイクルは、強気サイクルとなるはずで、戦後一貫して経験されてきた弱気サイクルの「位相」と違うことをまず強調しておきたい。
なにしろ、典型的な弱気サイクルは上昇周期や上昇幅に比べ、下落周期が長く、下落値幅も大きいという「位相」がある。ボトムからボトムと数える16年半サイクルで考えると、2011年安値までの2個のサイクルは典型的な弱気サイクルと見なせる。
(作成:陳アソシエイツ)
しかし、今回は違っている。米ドルのピークアウトが今年(2022年)確認されたとしても、この10年程度の上昇で76円超の値幅を達成している。これから仮に6年程度の反落期間があっても、上昇幅を帳消しするような激しい円高の進行は、とても考えられない。
(出所:TradingView)
むしろ、急激な米ドル高の進行があったからこそ、このサイクルの「位相」は強気サイクルの典型で、2028年に緩やかな米ドルの反落、すなわち緩やかな円高傾向が想定される。
デフレ時代への逆戻りなしには過激な円高もあり得ない
ファンダメンタルズの視点では、2011年までの円高はほかならぬ典型的な「デフレの円高」だった。日本はすでにインフレ時代に入っており、デフレ時代への逆戻りなしには過激な円高もあり得ないから、行きすぎた円高の再来は杞憂である。
また、より重要なのは日米金利差である。長期金利にしても、短期金利にしても、金利差の視点からみれば、黒田緩和修正ショック自体が行きすぎであり、2023年に米ドル/円の130円の大台割れが確実視されているとはいえ、米ドル安・円高の進行自体が「スピード違反」の疑いがある。
来年(2023年)、日銀政策の再修正があっても、今回と同じく政策の微調整に留まる公算が大きい。しかも、そもそも緩和政策自体を否定できず、むしろ維持していく「苦肉の策」とも解釈されるから、日米金利差が安易に縮小されない限り、急激な円高は想定できない。
その上、米国はなお利上げ途中だ。来年(2023年)利上げ停止があっても、利下げに転じるとは限らない。にも関わらず、相場はすでに来年(2023年)の米利下げの可能性を織り込んでいる分、米ドル安・円高の余地を過大評価しがちだと思う。
筆者は2023年の円高傾向自体を否定しないが、あくまで米ドル高に対する修正の一環とみなし、また黒田緩和修正ショックがあったから若干(2、3円程度)円高の上値余地を上方修正できると思うが、総じて緩やかな基調を保てると思う。市況はいかに。
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