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3月FOMCは0.25%の利上げを決定。声明文には曖昧で不確定な要素が加わった
3月22日(水)に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、0.25%の利上げが決定されました。シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行の破綻を受け、政策変更しないのではないかと一部で観測がありましたが、市場予想通り0.25%の引き上げとなりました。
声明文の一部が変更となっています。
前回のFOMC(2月1日)の声明文では次のように書いてあります。
The Committee anticipates that ongoing increases in the target range will be appropriate in order to attain a stance of monetary policy that is sufficiently restrictive to return inflation to 2 percent over time.
(委員会は、インフレ率を長期的に2%へ戻すための十分に制限的な金融政策
これが、今回のFOMC(3月22日)では以下の文章となりました。
The Committee anticipates that some additional policy firming may be appropriate in order to attain a stance of monetary policy that is sufficiently restrictive to return inflation to 2 percent over time.
(委員会は、インフレ率を長期的に2%に戻すために十分に制限的な金融政策スタンスを達成するために、いくつかの追加的な政策の引き締めが適切である可能性があることを予想している)
「Ongoing increases」が「some additional」に変更されたのですが、前者が複数回の利上げの継続性を強調し、しかも「will」と決定的な未来のように書かれていましたが、「some」となると「曖昧」な感じになり、さらに「may」を使っているので、「かもしれない…」という不確定な要素が加わりました。
ドットチャートでは、2023年利上げはあと1回。パウエル議長は金融システム混乱による信用収縮を認めた
同時に発表されたSEP(Summary of Economic Projection、経済予測の概要)におけるドットチャート(ドットプロット)では、2023年末のFF金利(※)が5.00-5.25%となっていたことから、利上げもあと1回、0.25%だけと認識され、米ドルが売られ、米ドル/円は発表前の132.60円前後から131円台前半へと1円以上下落しました。
(※編集部注:「FF金利」とは、フェデラルファンド金利のことで、FFレートとも呼ばれる。米国の政策金利)
(出所:FRB)
しかし、パウエル議長は3月8日(水)の議会証言では、利上げの加速(0.25%→0.50%)もあり得ること、ターミナルレート(今回の利上げの最終的な金利水準)を従来より引き上げる可能性にも言及していました。そこから2週間も経っていないのに、「利上げがあと1回かも…」というのは大きな変化です。
明らかに、シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行の破綻、UBSによるクレディスイス救済合併という金融システムの混乱が影響しています。
実際に、パウエル議長は会見において銀行システムの混乱による“credit tightening”(信用収縮)をある程度認めました。
インフレ対応が重要とはいえ、利上げすれば、各銀行は預金金利を引き上げなくてはなりませんし、市場から調達できる金利も上昇します。金融システムが不安定なのであれば、銀行が苦しくなるような政策を、なぜあえて採ったのか、疑問に感じます。
インフレは中長期的な政策目標である一方、金融システムを安定化させることは、待ったなしのスピードが問われる任務です。金融システム対応のため、しばらく引き締めを遅らせると声明文に書いて、1回ぐらい政策変更なしでも構わないのではないかとは思いました。
パウエル議長は会見において銀行システムの混乱による“credit tightening”(信用収縮)をある程度認めた (C)Bloomberg/Getty Images
イエレン財務長官の変な優しさで市場は混乱。金融システム不安はいずれ安定に向かうが元の世界には戻らない
FOMCの結果を受けて、米ドル/円は131円台前半へと下落しましたが、しばらくはそのレベルを維持していました。ところが、そこから米ドル/円のさらなる下落を招いた理由はイエレン米財務長官の米連邦議会上院での発言で、銀行が破綻した際に預金者を保護する預金保険について、現行25万ドル(約3300万円)となっている上限の引き上げは「検討していない」と言いました。
前日の3月21日(金)には、破綻したシリコンバレー銀行に適用した預金の全額保護を、他の金融機関にも適用する可能性を示唆しましたが、その発言を聞いて、25万ドル以上でも、預金が保護されると考えた預金者は多かったでしょう。
私も、どうやって全預金を保障するのか、その資金はどこにあるのかと考えました。しかし、イエレン米財務長官は、そうした市場の淡い期待を一瞬に消し去りました。
イエレン米財務長官は米連邦議会上院で、銀行が破綻した際に預金者を保護する預金保険について、現行25万ドル上限の引き上げは「検討していない」と発言した (C)Bloomberg/Getty Images
全額保護できないのであれば、最初からそう言えばいいのに、なぜあたかも全額保護されると誤解されるようなことを言ったのでしょうか?
イエレン米財務長官の、変な優しさが市場を混乱させています。米ドル/円は、その後、さらに1円下落しました。
25万ドルまでしか預金が保護されないのであれば、25万ドル以上の預金は、他の銀行に即座に移動するでしょう。昔と違い、今は、スマホ上から即座にできます。シリコンバレー銀行破綻のスピードに驚かされましたが、スマホ時代と旧来からの銀行システムは、何かあった場合、両立しない感じがします。
この金融システム不安ですが、いずれ何らかの措置がとられて安定に向かうものとは思いますが、元の世界に戻るのかと言われれば、そうはならないでしょう。米国経済には大きな暗雲が漂っています。
金融機関への規制はさらに強化へ。不動産価格の下げが心配な世の中がやってきそう
リーマンショックの際に、大きな金融機関が倒れたことで経済危機を招きました。そのようなことが起こらないようにするために規制強化されましたが、また銀行が2つ潰れました。同じようなことが起こらないようにするため、規制がさらに強化されるでしょう。
具体的にどうなるのかわかりませんが、自己資本比率等を引き上げることになるのであれば、当面融資は伸びなくなります。信用収縮です。
各銀行に当局からの検査も入るでしょう。そうなると、融資の審査もさらに厳しくなります。信用収縮は、経済成長を(当然ながら)抑制します。
リーマンショック後の規制強化は、主に巨大金融機関が対象で、中小金融機関はメインターゲットから外れていました。
そのため、このところの不動産業への融資の伸びは、多くの場合中小銀行が中心になりました。そこが制限されることになるので、さまざまな不動産の開発がストップすることになります。不動産価格もかなり高かったので、下落する可能性があります。
不動産を中心とした融資の厳格化が予想されるので、不動産価格は現状落ち着いていますが、下落圧力に晒される可能性があります。不動産価格が下落し、家賃が低下すれば、インフレ率は自然と落ち着いた数字が出てきます。
過度に不動産価格の影響を受けるのが、米国のCPI(消費者物価指数)の特徴なので、インフレ率もそのうち落ち着きます。
経済成長が鈍化し、インフレも落ち着き、むしろ不動産価格の下げが心配になる世の中がやってきそうな感じがします。好調に見える米国経済ですが、「波浪警報」が出ている感じでしょうか。
米ドル/円は125円がポイント。割ってくるとさらに円高が進むリスクあり
米金利の天井が見えてきました。インフレ率も今後鈍化し、成長率も低下します。米ドルの行方に関して言えば、「米ドル安」ということでしょう。
米金融システム不安というのは、まったく想定されていなかった事態です。私自身、驚きました。円安の相場観を持っていましたが、目先のリスクは円高方向となります。
米ドル/円は125円がポイントでしょう。125円を割ってくると、さらに円高が進むリスクが高まります。
(出所:TradingView)
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