FOMC通過後、米長短金利が再反落。米ドル/円も130円に迫る
FOMC(米連邦公開市場委員会)通過後も米ドル全体が売られてきた。まるでパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の話(2023年年内利下げなし)を嘲笑するように、年内2、3回の利下げを織り込むほどにまで米長短金利が再反落してきた。
米金利の動向に、敏感に反応してきたのが米ドル/円であった。目先、いったん130円の節目手前まで迫り、主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)もそろって反落。円が買われる展開が見られた。主要クロス円のうち、豪ドル/円の2023年年初来安値更新、また昨年(2022年)12月20日(火)安値の割り込みがあって、円がこれから急騰していくのでは、という懸念が高まった模様だ。
(出所:TradingView)
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さらに、株式市場の反落と相俟って、目先の円高傾向をリスクオフのサインと解釈する声も聞こえてきた。しかし、リスクオフの円高云々というのは、もう「時代遅れ」のロジックなので、こういった見方が勘違いだと指摘せざるを得ない。
言ってみれば、コロナショック以来、円はもはやリスク回避先でなくなった、という事実がさんざん証明されてきたので、今さら古いロジックを持ち出しても仕方がない。
さらに、リスクオフの局面にあるという判断自体も、単に市場センチメントに流された側面が大きく、現時点の判断として客観性を持たないと思う。
「金利の反落=リスクオフ」というのは飛躍しすぎたロジック
まず、金利の見通しについて結論を申し上げる。
一般論として、金利の見通しはころころ変わり、一貫性をもって予測できる集団や個人はいない。というのも、FRBのメンバーでさえ簡易に将来を見通せないから、金利が反落してきたからと言って、それを根拠にリスクオフ云々というのは飛躍しすぎたロジックだと思う。
なにしろ、あの有名なFOMCのドットチャートの、2024年推定FFレートに関する予想は、FOMCメンバーでさえ3.25%から5.5%と非常にばらつきがあり、ましてやウォール街の面々となると、その予測はとても「信用」できるものではない。
次に、年内2、3回の利下げを織り込むまでに、目先、米長短金利が揃って反落してきたが、利下げは、いわゆる景気のハードランディングを予想した上の結果と解釈される一方、利下げ自体がむしろ相場の下支えとなる。株式市場をはじめ、金融相場にとってマイナスな要素ばかりではないはずだ。いや、むしろポジティブな材料と解釈されるべきではないかと思う。
したがって、目先の円高傾向は、リスクオフ云々よりも単純に米金利に敏感、また米金利の動向と連動した結果だと思う。
2008年金融危機を超える米金利の急落は、行きすぎ
米ドル/円は、米金利の動向に、より敏感に動いてきたが、ユーロ/米ドルは、昨日(3月23日)、むしろいったん頭打ちのサインを点灯した。結果的にユーロ/円の反落をもたらし、円高の傾向を強めただけの話だ。
(出所:TradingView)
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ゆえに、肝心なのは米金利動向である。ここで再度強調しておきたいが、大事なのは「米金利の動向」であって「米金利の見通し」ではないことだ。そして、米金利動向について「断言」すると、目先、かなり下落しすぎだと思う。
要するに、FRB議長が2023年年内利下げを否定しているにもかかわらず、市場参加者がFRBの「間違い」に賭けている状態だ。
その賭け自体の正誤はともかく、米2年国債利回りの急落ぶりから考えて、やはり深刻な行きすぎであることを指摘できる。
米短期金利(米2年物国債利回り)は、直近の5.08%の高値から、なんと11営業日で145bpも急落してきて、いったん3.63%の安値を付けた。
(出所:TradingView)
このような急落ぶりは、あの2008年リーマンショック超えはもちろん、なんと1987年10月16日(金)~11月2日(月)以来の出来事らしい。ちなみに、1987年10月19日(月)は歴史上有名なブラックマンデーの大暴落があった日だ。そこまで遡らないと前例がないほど、今回の米金利の動向は異常である。
その背景にあるのは、やはりシリコンバレー銀行などの銀行の破綻や、クレディ・スイスの経営危機事件がマーケットの心理を大きく悪化させたことだろう。
2008年リーマンショックの前年にあったサブプライム問題の発生を例として、これから大きな危機の発生を予測する向きも多いが、将来のことは誰もわからない。今言えるのはただ1つ、現時点で金融危機が発生していないにもかかわらず、米金利の急落ぶりが2008年金融危機を超えたこと自体、行きすぎのほかあるまい。
米金利は、そろそろ落ち着きを取り戻す
米ドル/円は再度、底打ちを果たして反発してくるだろう
前回のコラムでも強調したように、シリコンバレー銀行でもクレディ・スイスでも、破綻や合併されたことは個別の問題であり、金融システムの問題ではない。
【※関連記事はこちら!】
⇒リスクオフの円高は続かず、売られすぎたユーロ/円の切り返しが期待できそう。クレディ・スイスやシリコンバレー銀行に、金融危機を引き起こすほどの力はない!(2023年3月17日、陳満咲杜)
2008年以降、世界金融当局は教訓をもとに金融システムを強化してきたから、昔のように個別銀行の倒産で世界金融システムへ波及することは容易ではない。さらに、今回、米国やスイス金融当局が迅速に対応してくれているから、リスクオフのセンチメント自体が行きすぎである。
行きすぎなので、ここから修復してくることも確かだ。米10年国債利回りも、2年国債利回りも再度低下してきているが、週明け(3月20日)形成した安値を再度下回ることは想定しにくい。
ゆえに、再度反落してきた米金利は、そろそろ落ち着きを取り戻し、リンクしたように、米ドル/円は再度底打ちを果たして反発してこよう。リスクオフの円高は大げさで、長続きはしないとみる。
(出所:TradingView)
豪ドル/円の2023年年初来安値更新が目先確認されているように、クロス円の状況が厳しい。しかし、年初来安値の更新があったからこそ、ここから大きく下値余地を拡大できるかどうかが重要になってくる。
換言すれば、安値更新でもベア(下落)トレンドを大きく推進できなければ、むしろ「出尽くし」となり、円全体の反騰がそろそろピークを迎えよう。市況はいかに。
15:00執筆
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