米デフォルトがあっても米ドルは買われる!
米債務上限問題は、あくまで米政府と議会の闘争
相場は理外の理。米デフォルト懸念が強まると、米ドルは売られるのではなく、むしろ買われてきた。後講釈としていくらでも理由付けはできるが、根本的なところは、米デフォルト自体が「テクニカル」上の問題であって、本質的な問題として認識されていないのではないだろうか。
アルゼンチンのような本格的なデフォルトが、米国において発生するはずがない――このような認識は共有されている。米債務上限問題はあくまで米政府と議会の闘争であって、最後には妥協するのも暗黙の了解である。
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米デフォルト危機で米国債売りがあり、米金利の上昇と連動した米ドル買いがあると解釈される一方、デフォルトがあれば米ドル不足となって、かえって米ドルが買われるという見通しで、米ドル買いにつながったとする説もある。
ここで重要心なのは、米デフォルトがあっても米ドルは買われる、という皮肉な結果を受け入れるのが、実はごく自然なことであるということだ。
なにしろ、米ドルは基軸通貨だから、本格的なリスクオフがあれば売られるのではなく、買われるものだ。
その上、米利上げ休止観測の後退も、目先米ドル買いを促す。一部の予言者が言う「日銀が早期に政策を修正する」という可能性は、植田総裁に否定されたわけで、日米金利差も目先米ドル買いのほうへ効いている。
日本株の急伸により「株高・円安」が進展。
懐疑論者も追随せざるを得ない状況に…
さらに、日本株の急伸があって、株高・円安の「セット」が観察されており、このような市況の進展に、懐疑論者の多くが「密かに」追随せざるを得なくなってきたのも大きな要素だと思う。
言ってみれば、米リセッション懸念で随分前からウォール街の有力投資銀行の面々は、「株式市場の反発が続かない」とか、「ハイテク株(特に半導体セクター)の反騰は一時的な現象だ」などと悲観的な見方を示してきたから、機関投資家の多くはロングポジションを積み上げていなかった。もちろん、日本株などは二の次なので、米株より先に抜け出すこともなかろうと、見下されてきた。
しかし、バフェット氏の来日もあって日本株が見直され、日経平均が急騰し、日本株から急変が起こった。それは、実は悲観的な見方を持つ機関投資家の多くが、高値で買わざるを得なかったからだ。
(出所:TradingView)
それは「持たざるリスク」のほかあるまい。見通しはどうであれ、上がっていく株を持たないリスクのほうが大きく、それに耐えられるファンドマネージャーは少ないはずだ。なにしろ、厳しい運用競争に晒されるプロの世界では、成績が随一の判断基準なので、言い訳は通用しないからだ。
同じように、米株にも異変が生じた。昨晩(5月25日)半導体大手のエヌビディアの最新の売上高見通しが、もっとも強気なアナリストの予測を超えたため、なんと一晩で25%も上昇。1兆ドルの時価総額に近づいた。ナスダックも最近3週間で最大の上昇幅を記録した。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
もちろん、米ICE(インターコンチネンタル取引所)半導体指数も急伸し、ウォール街の主流アナリストを狼狽させた。
ここまでくると、見方を問わず、積み上げてきたショートポジションの解消を急ぎ、その上で買わざるを得ない。だから、いわゆる「不況の株高」が見られたというわけだ。
米デフォルト懸念はもはや「ブラックスワン」ではない。
だから仮に発生してもサプライズではない
とはいえ、筆者は「不況の株高」と見ていないから、あくまで悲観論者の理屈に沿った便利な言い方をしているだけで、誤解しないでもらいたい。
というのも、米GDPの数字は、実質的になお低い水準にあるものの、最新の予想数値が上方修正された。また、日本の名目GDP(第1四半期)は570.1兆円に達し、事実上、過去最高を更新した。リセッション云々の観測は、あくまでエコノミストたちの予測なので、鵜呑みにすべきではない。
そして、目下、もっとも注目される米デフォルト懸念は、市場参加者全員が警戒しているだけに、もはや「ブラックスワン」ではないことだけは明らかだ。
米リセッションにしても、米デフォルトにしても、随分警戒してきただけに、仮に発生してもサプライズではないから、相場の動揺も言われるほど大きくないと思う。
市場参加者がどれぐらい警戒してきたかと言うと、一番の好例はあのキャシー・ウッド女史の旗艦ETF(ARKK)が、5600億ドルの巨大な上昇となる前にエヌビディア株を売却していたという報道だと思う。
ウッド女史はウォール街で筋金入りの米株楽観論者で、かつて「成長株の女王」ともてはやされた。彼女でさえ、目先一番ホットな株を持つことに耐えられなくなったことは、このところの市場センチメントがいかに緊張感に支配されていたのかを物語る。
目先は反動でしばらくリスクオン局面。
円売りもリスクオンの一環としてフォローしてくべき!
だからこそ、目先はその反動でしばらくリスクオンの局面にある。リスクオンなので、「買われすぎ」の日本株も安易に反落せず、近々また高値更新していくだろう。
そして出遅れている米株、特に半導体セクターやナスダック市場の上昇は、これからついて来ると想定しやすいから、株高の円安、というような連動したトレンドを再確認しておきたい。
リスクオンの象徴としては、金(ゴールド)の反落も挙げられる。前回のコラムで述べたように、金は歴史的な天井を付けた可能性がある。
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(出所:TradingView)
なにしろ、米リセッションに米デフォルト、そして米ドル離れに中露政府の金購入など、金にとってプラスな材料が満ちていたにもかかわらず、金は史上最高値を更新できなかったから、これからさらなる下落を果たすだろう。
もちろん、円売りもリスクオンの一環としてフォローしてくべきだ。主要クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)は、もたもたしているように見えるが、上値トライや上昇モメンタムの加速はこれからだと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
少なくとも夏場まで円売りのトレンドは変わらず、しばらく逆張りは禁物だと思う。市況はいかに。
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