急激な米ドル/円反転には3つの要素があった
前回のコラムでは、日米金利差が縮小しつつある中、むしろ円安が進み、米証券大手ゴールドマンサックスが「謎の円安」と呼んでいる話をしました。しかし、その後米ドル/円は急落し、日米金利差を反映する方向に向かい始めました。
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⇒なぜ、米ドル/円と日米金利差は連動性を失ってしまったのか?米国は日本の為替介入を不快に思っている!米国経済減速の兆候が見られれば、対円以外で米ドル安が進む可能性あり(2024年7月10日)
(※筆者提供・TradingView)
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修正はなぜ起こったのか?
この急激な米ドル/円の反転には、3つの要素があったと思われます。
(1) 為替介入再開
(2) 米ドル高・円安を批難したトランプ氏
(3) 次の日銀政策決定会合(7月31日)での政策変更期待
7月11日(水)、米6月CPI(消費者物価指数)の数字が市場予想を下回りましたが、その瞬間、米ドル/円は大きく崩れました。当初は、CPIの結果を受けた反応かと思われましたが、それにしてはあまりにも値動きが大きい。即座に為替介入と理解されました。
為替介入に関しては、イエレン米財務長官が繰り返し「介入は稀(まれ)であるべき」と発言したことから、本邦通貨当局は介入に関して米国と齟齬があり、介入し難い状況になっているのではないかと推測されていました。
しかも、6月20日(木)に公表された米為替報告書において、日本は「監視リスト」に加えられました。これは条件が満たされれば機械的に決定されるリストなので、そこに意図はないはずですが、多くの市場参加者は、米国の意図があると考えました。
米国により介入が封印されているならば、円を売っても大丈夫。これが「謎の円安」の背景でした。
しかし、実際に介入に踏み切ったことで、介入封印観測は否定されました。
日経新聞がイエレン財務長官とのインタビュー記事を掲載しています。インタビューにおいて、長官自らの口から「円買い介入を実施した日本は状況が異なる」との発言があったことは重要です。
今後、さらなる介入があるかもしれないとなれば、上値をどんどん買っていく米ドル買い・円売りはしばらく控えられそうです。
イエレン氏「問題は通貨安誘導」 円買い介入は例外か
(出所:日経新聞)
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トランプ氏のインタビューに米ドル/円の状況を一変させる可能性があると感じた
次はトランプ大統領のブルームバーグ・ビジネスウィークのインタビュー記事でしょう。私は、この記事を読んだとき、米ドル/円を巡る状況は一変する可能性があると感じました。
【※関連動画はこちら!】
⇒【週刊!志摩力男】米ドルは米国の意思で動かせる!トランプは円安懸念でプラザ合意を自らの手で成し遂げたいのか!?(2024年7月23日号)
「ご存知のように、我々には通貨問題があります。通貨です。私が大統領だったとき、習主席や安倍晋三 ―彼は素晴らしい人だった―と非常に強く激しく戦いました」
「そう、我々には大きな通貨の問題がある、というのは、ドル高円安、人民元があまりにも酷いからです」
長いインタビューの冒頭において、いきなり米ドル高・円安、中国人民元安の問題を持ち出しました。
トランプ氏の発言はときに不正確で、曖昧です。現役の大統領であったときも、発言がコロコロ変わり、トレーダー泣かせでした。
トランプ時代(2017~2020年)の米ドル/円の変動率が極めて低かったのは、大統領の発言で市場の方向が変わり、市場参加者が疲弊したからでした(そうならないように期待していますが)。
今回のインタビューにおいても、中国に対し関税を50%に引き上げると言っていますが、以前は60%と言っていました(60%なんて聞いたことない、とも言っています)。
しかし、細かいところはともかく、トランプ氏にとって貿易問題は超重要であり、関税引き上げを交渉の武器として、中国、日本、その他の国々に対して難題を吹っ掛ける意向であることは間違いないでしょう。もし大統領になれば最後の4年間です。実現したい政策はすべて実現しようとするでしょう。
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日米金利差が大きく開く現状でどうやって円高に誘導するのか?
とはいえ、日米金利差が大きく開く現状で、どうやって米ドル安・円高に誘導するのでしょう? 「そのための手段がない」とはよく言われます。
ドイツ証券では米ドルの押し下げは実現困難と言っています(7月26日モーニングサテライト)
(1)貿易赤字を解消するためには、単純計算で米ドルが4割程度目減りする必要
(2)為替介入で米ドルを押し下げるには数兆ドル規模の資金が必要
(3)資本規制を行う場合は、米国債で70bp以上の価格下落の可能性
しかしながら、これまでの為替市場の歴史を振り返ってみればわかりますが、大概米ドルは米国の意向に沿って動いてきました。
代表的なのは1985年のプラザ合意ですが、その時、数兆ドルも為替介入したわけではありません。「合意文書」だけで米ドルは急落を開始しました。市場参加者の認識が変われば、その方向にドルは動きます。
当時のFRB(米連邦準備制度理事会)は積極的に利下げしました。現在のFRBも、現状のインフレが落ち着けば利下げすることが可能となります。そして、目的は米ドルを押し下げることであり、貿易収支を改善させることではありません。
ただし、トランプ氏が大統領選に当選しなければまったく意味のない議論です。バイデン大統領は選挙戦からの撤退し、新たにカマラ・ハリス氏が民主党の代表候補となりそうです。世論調査では、ハリス氏の支持率はトランプ氏に肉薄しているようです。
選挙は水ものなので、結果が出るまではわかりません。それでも、個人的にはトランプ氏が大統領選挙に当選すると思います。ペンシルベニア、オハイオ、ミシガンといった選挙の帰趨を決定する接戦州において、カマラ・ハリス氏が支持率を大きく伸ばすとは考え難いからです。
何より、暗殺未遂事件において、写真家Evan Vucci氏が撮影した「奇跡の一枚」は決定的でした。この写真を見て、「神の意思」のようなものを感じた米国の有権者は多いでしょう。
Republican presidential candidate former President Donald Trump raises his fist as he is rushed off stage after an assassination attempt during a campaign rally in Butler, Pa. @apnews pic.twitter.com/VoAYqRC4QV
— Evan Vucci (@evanvucci) July 14, 2024
今週の日銀会合で0.25%利上げなら米ドル/円はさらに下落へ
最後は、日銀の金融政策です。河野デジタル担当大臣、茂木幹事長が日銀に利上げを迫ったという報道は、一定の影響があったと思われます。
米国が9月にも利下げに踏み切ると市場は織り込んでいます。そこに、日銀が利上げすれば、日米金融政策がクロスオーバーするポイントにきたという印象を市場に与えるでしょう。それは当然、円高・米ドル安材料となります。
しかし、日銀が7月31日(水)に利上げできるのかどうか、このところの報道各社の観測記事は曖昧です。決定的な情報がないのでしょう。個人消費の弱さが、一部の審議員に引き締めを躊躇させていると思われます。
個人的な意見としては、個人消費の減速は、通貨安(円安)を主因とするインフレから来ています。利上げすることで円高に向かえば、個人消費をサポートするはずです。金利収入が増えることも、預金者の利益になります。
7月31日(水)に行われる日銀政策決定会合は、いつにも増して重要です。
国債購入減額については、その方針がしっかり示されるはずです。2年で3兆円程度の減額となるのではないかと思われます。2年間でその規模ですから、毎回の決定会合における減額規模はたいしたことはないのではないかと思われます。
政策金利に関しては、0.25%への利上げがあれば、米ドル/円相場はさらに下落することになりそうです。利上げがなければ、米ドル/円はリバウンドすることになると思いますが、160円を簡単に回復するということもないでしょう。少し重くなると思います。
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米ドル/円が下落した場合のサポートラインはどこか?
米ドル/円が下げたとき、どこがサポートになるのか。
多くの人が重要と考えるのは、152円前後でしょう。2022年の高値は151.94円、2023年は151.91円でした。5月の為替介入時の安値は151.85円でした。この、152円の少し下はサポートになりやすい。実際、7月25日(木)の安値は151.94円でした。
200日移動平均線が151.59円にきています。
安値127.22円と140.25円をつないだサポート(トレンド)ラインが148.50円前後のところに来ます。このサポートラインを下抜けすると、調整はやや深いものになるでしょう。そのときは、週足一目均衡表の雲が140.77~145.50円前後にくるので、その辺りがサポートゾーンになりそうです。
日銀の決定次第で、調整の幅も違ってくるでしょうが、現状では下げたとしても、サポートライン148.50円前後のところ、もしくは、週足一目均衡表の雲の上限145.50円辺りまでではないかと想定しています。
(※筆者提供・TradingView)
豪ドル/円は上抜けに失敗。目先は98円台が下値のメドとなるか
前回のコラムで、豪ドル/円は過去30年続いた55-110円程度のレンジを上抜けする可能性に言及しましたが、上抜けは完全に失敗しました。
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豪ドル/円もドル円同様のサポートラインがあり、2022年高値は98.60円、2023年高値は98.59円でした。98.60円辺りが強いサポートとなりそうです。そして、2020年コロナ後の安値から引いたサポートラインは98円前後にあります。
さらに調整が深くなる可能性もありますが、まずは、98円台のどこかでは止まるのかなと想定しています。
そして、98円のサポートラインを割った場合は、新しい相場になります。簡単に110円を突破していくことにはならないのでしょう。
(※筆者提供・TradingView)
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