■円の実質実効為替レートにトレンドが出ていない理由は?
先ほど述べたように、名目実効為替レートを各国の物価上昇率で調整したものが実質実効為替レートだ。佐々木さんが「長期的な為替相場の決定要因としてもっとも重要」と話す物価上昇率の影響を消してしまっているのが実質実効為替レートなのである。
決定的に重要なものの影響が消し去られたチャートは果たしてどうなっているのか?

(出所:JPモルガン・チェース銀行)
上のチャートを見ると、結構大きく上下に動いている。ただ、トレンドはどうだろうか? トレンドは出ていないのではないだろうか。「大きく上下しながらも、トレンドは出ておらず横ばい」というのが円の実質実効為替レートのチャートなのだ。
円の名目実効為替レートを見れば、グングン右肩上がりとなっており、長期的に円高が進んできたことがよくわかった。
そこから物価上昇率の影響を消し去った円の実質実効レートのチャートを見ると、トレンドは横ばいになってしまったのだ。
これを見れば、佐々木さんが説く「為替相場にとって長期的には物価上昇率が重要」という話がよくわかるのではないだろうか。
■「実質米ドル/円チャート」を特別に作成!
物価上昇率の影響を除去した「実質」のチャートは実効為替レートについてはよく見かける。しかし、よくわからないのだが、米ドル/円では「実質」のチャートを見かけない。
けれど、日米の物価上昇率の差の影響を除去した「実質米ドル/円チャート」があれば、長期的な為替相場は物価上昇率の差で決まるという話がさらによくわかるのではないか。
こう考えた記者は、今回特別に佐々木さんにお願いして、「実質米ドル/円チャート」を作ってもらった。
それが以下のチャートだ。

(出所:JPモルガン・チェース銀行)
これはデータの制約上、1990年代からのチャートになっているが、確かに上下動はしているものの、トレンドは出ておらず、横ばいのチャートに見える。
物価上昇率の影響を除去すれば、米ドル/円相場に一方的なトレンドは出ていないのだ。
ここで、「実質米ドル/円チャート」に「名目米ドル/円チャート」(つまり、ごく普通の米ドル/円チャート)を重ねてみよう。

(出所:JPモルガン・チェース銀行)
名目米ドル/円チャートは1998年ごろから特に顕著に右肩下がり(円高が進行)になっているのに対し、実質米ドル/円チャートは右肩下がりにはなっていないことがわかるだろう。
■物価上昇率が高い国と低い国があるのはなぜか?
さて、国力ではなく、物価上昇率が為替相場にとって重要なことはよくわかった。だが、ここまで来ると、相対的に物価上昇率が高い国と物価上昇率が低い国があるのはなぜなんだろう? という根本的な疑問がわいてきた。
これについて佐々木さんに聞いてみると…
「その問題はエコノミストが扱う領域ですし、明確な答えはないと思うので、コメントを控えます。ただ、個人的には経済の構造的な違いによって、物価上昇率の違いが出てくるのではないかと考えています」との答え。

先ほども述べたが、日本は「デフレ、デフレ」と言われるようになる以前から、米国に比べれば物価上昇率が低いという状態がずっと続いてきた。それは日米の経済構造の違いによるもの──ということのようなのである。
(取材・文/ザイFX!編集部・井口稔 撮影/和田佳久)
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