■日銀のゼロ回答をきっかけに、米ドル/円は急落
前回コラムでご紹介したように4月上旬、5円弱暴落した後の米ドル/円は4月末に向けて調整局面入り。
【参考記事】
●上海合意で「株高・資源高・米ドル安」が進行中だが今後の狙いはユーロ/円の上昇(4月21日、西原宏一)
4月22日(金)には、ブルームバーグの日高記者による「日銀が銀行への貸出金利にもマイナス金利を適用することを検討する」との報道が出たことも影響し、米ドル/円の調整は加速、一気に111.91円まで急騰。

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そして、世界中の注目を集めた日銀金融政策決定会合ですが、日銀の発表はサプライズのゼロ回答、つまり「据え置き」。
【参考記事】
●日銀追加緩和見送りで円全面高に! ドル/円は一時、108円台後半まで急落!
マーケットの期待を大きく裏切った形になった日銀の決定を受け、米ドル/円はメイントレンドに回帰。

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つまり、上海合意のもと、米ドル/円はメイントレンドである米ドル安に回帰しました。
【参考記事】
●上海合意で「株高・資源高・米ドル安」が進行中だが今後の狙いはユーロ/円の上昇(4月21日、西原宏一)
■日本が初の「為替監視リスト入り」で介入の可能性低下
日本のゴールデンウイーク前日(4月28日)の為替市場では「日銀のゼロ回答」というサプライズで急激に円高が進行。
加えて、その翌日(4月29日)には、日本の「為替監視リスト入り」という驚愕の報道で米ドル/円は一気に106円台前半まで急落。
米為替報告、日中独など大幅な黒字国5カ国を監視リストに
米財務省は29日、半年ごとに議会に提出する為替報告書のなかで、日本、中国、韓国、台湾、ドイツの5カ国・地域の経済政策に懸念を示し、大幅な黒字を抱えていることを主な理由に、新たに設けた監視リストに載せた。
米議会では不公平な外国為替慣行への対処に関する条項を盛り込んだ法律が今年に入り成立しているが、財務省は今回初めて同条項を利用した。
5カ国は一段と厳しい監視となるすべての基準は満たさなかったものの、財務省は5カ国の経済トレンドと外国為替政策を注意深く監視するとしている。今回の為替報告でも為替操作国の認定はなかった。
日本に関連しては、ドル/円市場は秩序立っていると指摘。すべての20カ国・地域(G20)、主要7カ国(G7)参加国・地域は為替政策をめぐるコミットメントを順守する必要があるとの立場をあらためて強調した。
中国については、ここ数カ月は外国為替市場に大規模な介入を行なっていると指摘。為替相場の目標をより明確に示せば、市場の安定化につながるとした。また、人民元相場は中期的に実質的に上昇するとの見方も示した。
また、中国、ドイツ、台湾、韓国では原油安により国庫が潤ったと指摘。ドイツについては、経常黒字が世界で第2位の規模に拡大しているとし、同国は内需押し上げにこれを振り向けられるとの見方を示した。
台湾については、前年にかけて持続的に外為市場への介入を行なったとし、介入を特別な状況のみにとどめるよう呼びかけるとともに、透明性の向上も訴えた。韓国に対しても、外為市場への介入を控えるよう呼びかけた。
出所:ロイター

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日本がこの監視リストに入ったのは、初めて。この報道が「日本の介入の可能性」を急激に低下させることになりました。
■麻生財務相が反論も、流れを変える介入はできない
ただ、この報道に対して、麻生財務相が下記のように反論しています。
麻生太郎財務相は30日深夜、海外市場で円相場が1ドル=106円台と1年半ぶりの円高水準に上昇したことについて「一方的で偏った投機的な動きに極めて憂慮している」と述べた。
「(投機的な動きに)必要に応じて対応する」とも明言し、円売り介入も辞さない姿勢を強調した。
羽田空港で記者団の取材に応じた。米政府が29日に発表した報告書で日本の為替政策を監視対象にしたことに関しては「(為替介入など)我々の対応を制限することは全くない」と明言した。
出所:日経新聞
麻生財務相の言っていることはこれまでと同じで、急激な円高に対してはスムージングオペレーションをするというもの。
つまり、円高のスピードを緩慢にすることはできますが、流れを変えるだけの介入は、「上海合意に加え、監視リスト入り」した環境下ではできないという意味。
結果、麻生財務相のコメントにも関わらず、本稿執筆時点での米ドル/円は106円台ミドルで推移しています。

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■米ドル/円は106円台到達で100円が視野に入った
次に、米ドル/円をテクニカルでチェックしてみます。
2011年10月に到達した米ドル/円の安値である75.56円と2015年6月の高値である125.86円の38.2%戻しが106.65円。
よって、月足ベースでは38.2%である106.65円レベルに到達したことになります。

(出所:CQG)
加えて、このコラムでも何度かご紹介している、15%の調整であれば、現在の106円台がまず最初のサポート。
【参考記事】
●安倍首相が米国に「介入しない」と宣言!? 上海合意で、米ドル/円は100円も視野に!(4月7日、西原宏一)
ただ日本を「監視リスト入り」させた米国が本格的に通貨調整に入っていると仮定すれば、20%である100円が変わらず目標となりそうです。

(出所:CQG)
■ユーロ/米ドルの次のターゲットは1.17ドル
ここで気になるのがユーロ/米ドル。米ドル/円が下落するのにつれ、ユーロ/米ドルも遅ればせながら1.15ドルに向けて上昇中。
【参考記事】
●上海合意で「株高・資源高・米ドル安」が進行中だが今後の狙いはユーロ/円の上昇(4月21日、西原宏一)

ただ、上記のようにドイツも「監視リスト入り」していることから、ユーロ/米ドルも、もう一段調整が進みそうです。次のターゲットは1.17ドルでしょうか?
ここまでは上海合意の文脈のもと、対円でも対ユーロでも米ドル安が進行中。
■高値圏を維持するNYダウの動向が今後のカギに
一方、マーケットがちょっと神経質になっているのが、急激な円高は「日経平均の下落を誘発」すること。

(出所:株マップ.com)
この日本株の下落がNYダウの1万8000ドル回復の足を引っぱっています。
今年(2016年)も5月に入り、「セル・イン・メイ」(※)が叫ばれる中、現在はなんとか高値圏で膠着しているNYダウが反落するようだと、リスクオフ相場となり、豪ドル/円などの資源国通貨に対して、円高が進行します。
(※編集部注:「セル・イン・メイ」(Sell in May)とは元々は米国株に関する相場格言で「5月に株を売れ」という意味。5月に株が下がりやすい傾向があるためできた言葉。そこから少し意味が転じて、「5月にリスク資産が急落すること自体」を指して使われることがある)

(出所:CQG)

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結果、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の下落が米ドル/円での円高のスピードを速めることにもつながるため、今後、NYダウの動向には要注意です。
上海合意に加え、日本が初めて「為替監視リスト入り」したことで、高値から15%調整した米ドル/円。20%の100円に向け、下落を続ける米ドル/円の動向に注目です。
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