■日銀マイナス金利導入時の「逆噴射」が有力な事例
強調しておきたいのは、米ドル/円の値動きは、巷で思われているほど、いわゆるファンダメンタルズとは緊密な関係を持っていないだろうということだ。
もっとも有力な事例は、2016年1月末に日銀がマイナス金利政策を発表したあと、円安ではなく、大幅な円高になったということだ。
後解釈でいろいろと理由づけられはしたが、要するに、当時のレートでは、まだ円安トレンドに対する修正が不十分だったということだろう。だから、政策の「逆噴射」を招いたワケだ。
【参考記事】
●マイナス金利はなぜ逆効果だった? 急落の米ドル/円は桜の咲くころ、110円台打診!?(2月5日、陳満咲杜)
●黒田バズーカ3の自爆でアベノミクスは終わったか。米ドル/円は近々106円台へ!(2月12日、陳満咲杜)
●2016年は「中銀の裏に道あり、花の山」。為替は中央銀行の思惑と逆に動く!(2月19日、陳満咲杜)
となると、現在解釈されている円高トレンド継続の根拠は、果たしてどのくらい信憑性があるのだろうか?
日銀政策の限界論で円高継続といったロジックは、2016年1月末の時点における「マイナス金利政策が導入されると円安」といったロジックと同じく、検証に耐えないかもしれない。
■日銀政策の限界論ばかりが云々されるのは異常
さらに、米ドル/円と日本株のみが世界情勢と違うトレンドになっていることにも注意していただきたい。
(出所:株マップ.com)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
(出所:CQG)
「FRB(米連邦準備制度理事会)の早期利上げがないから米ドル売り・円買い」などといった論調は、実はちょっと前のロジックとは違っており、これもやや異常なことだと思う。
なにしろ、円はリスク回避先通貨とみなされているから、リスクオフなら買われ、リスクオンなら売られるはずである。本来、米利上げが延期されれば、米国株にはプラスの効果となり、そうなれば、リスクオンとなって円は売られ、円安傾向となるはずである。
実際、米三大株価指数(NYダウ、ナスダック総合指数、S&P 500)が揃って史上最高値を更新しているというのに、こういったロジックが聞かれなくなり、もっぱら日銀政策の限界論ばかりが云々されるのは異例であり、異常と言える。
この意味では、日本株のパフォーマンスが米国株と、だいぶかい離しているのも円高の影響だと思われる。
日銀政策の限界論による「行き過ぎた円高」が日本株のパフォーマンスを押し下げ、日本株の不振が今度は円高に作用といった「悪循環」ができているように見える。
■アベノミクス礼賛者が批判に転じていることが示すもの
筆者は、一貫してアベノミクスに批判的な立場を取ってきたが、それは今でも変わらない。しかし、だからと言ってアベノミクスの失敗で目先、円がどんどん高くなるとも思わない。
相場のことは相場に聞くならば、以前、アベノミクスを礼賛した一部のセンセイたちが批判的な見方に転換し始めている今だからこそ、円高の行き過ぎが鮮明になってきたと言えるのではないだろうか。
最後に、米ドル全体の状況も、やや売られ過ぎではないかと思う。ユーロ/米ドルの切り返しは、だいぶ良いところまできており、これ以上の大幅な伸びは難しいと思う。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
前回利下げ後、続伸してきた豪ドル/米ドルがいち早く頭打ちのサインを点灯していることは、米ドル全体の底打ちを示唆しているとみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/米ドル 日足)
米ドル全体の底打ちがあったとしても、しばらくブル(上昇)トレンドへ加速するのも容易ではないと思う。だから、円高は一服しやすいかとも思うのだ。
このあたりの話は、また次回。市況はいかに。
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