■眠れぬ日々が続くのはミセス・ワタナベとあの方!
ミセス・ワタナベは日本個人投資家のアダナであるが、今週(2016年2月1日~)のミセス・ワタナベは、よく眠れない日々を過ごしてきただろう。株安に円急騰、日銀がマイナス金利を導入して間もないだけに、ショックも大きいかと推測される。
前回のコラムで筆者が強調していたのは、マイナス金利導入でも昨年(2015年)以上の円安はあり得ないということだが、マイナス金利の効果は今週(2016年2月1日~)に入って以来、1回も確認できない。
【参考記事】
●ソロスが“孫子の兵法”で中国政府を翻弄? マイナス金利導入でも昨年以上の円安なし(2016年1月29日、陳満咲杜)
円高への巻き返しが急激に進んでおり、先週(2016年1月29日)の日銀政策がもたらした円安効果をすべて帳消しにし、さらにそれ以上の円高が進んでいるのが目下の状況だ。ここまでの展開には円高派の筆者でも驚きを禁じえない。マーケットは常に我々の意表を突く存在であることに、改めて感心しているところだ。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)
愕然としているのは、もちろんミセス・ワタナベたちのみではなく、米ドル高に賭けていたヘッジファンドの面々も然り。それに、よく眠れないと言えば、“あの方”もそうではないかと推測される。“あの方”とはほかならぬ、日銀総裁の黒田さんだ。
金融手段のイノベーションが無限と豪語した黒田総裁は、自分で「二枚舌」を意図的に演出してまで、サプライズを講じるのに腐心していたにもかかわらず、その効果は1日で終り、かつマーケットの「報復」にあった。
QQE(量的・質的緩和策)、QQE2に比べ、金融政策の波及効果どころか、その反対の状況を引き起こしているのであるから、重い責任を負う覚悟がもちろんできているのではないかと思われる。
■マインド悪化を防ぐには株高・円安が必須
実際、本コラムを含め、筆者が繰り返し強調してきたことを理解できれば、黒田さんの政策は効かないばかりか、逆効果のリスクが大きいことを察することができる。
すなわち、アベノミクス自体、目標(物価水準)はまったく達成していないものの、株高・円安でマインドの改善は促進され、それによってアベノミクスは支持されてきたわけだ。そして、マインドの改善は株高・円安とリンクしていることは見逃せない。換言すれば、株高・円安が逆転すれば、マインドが再び悪化していくことが容易に推測される。
こういうことを黒田さんほどよくわかっている人はいない。マイナス金利の導入、あるいはこれからのマイナス金利拡大で、物価水準が達成できる保証はどこにもない。予想達成時期も何回か先延ばしにされてきたから、再度修正される公算が大きい。しかし、それでもQQEにこだわっているのは、株安・円高への逆転をどうしても阻止し、マインドの悪化を止めたいからだ。
■マイナス金利政策は「王様の裸」を隠すための「新しい服」
言ってみれば、インフレターゲットがこれから達成されるぞと言い続けるには、株高・円安の環境が必要だ。そうでないと、皆が一斉に「王様は裸だぞ」と言い出すから、収拾がつかなくなる。
言い方は悪いが、マイナス金利政策は黒田さん、あるいはアベノミクス自体が裸であることを隠すための「新しい服」にすぎない。
しかし、マーケットは厳しい目を光らせ、時には少年のごとく真実をずばり言う。だから、今週(2月1日~)の市況は「王様は裸だ」と言っているような値動きなのだと思う。そう言われたら、いくら王様とはいえ、夜よく眠れるわけがない。
■今週の値動きは「ニセモノ」政策が市場に見抜かれた結果
結局、日銀政策にしても、アベノミクスにしても、外部環境の良さに乗ってきた部分が大きく、その表面的な成果(株高・円安)をもって効かない中身をカバーできてきたが、外部環境が著しく逆転してきた今は、いくら政策を出しても中身を隠すどころか、逆に中身が露呈されることとなり、疑問視されるハメになった。
だから、今回の日銀政策の効果が1日で終わり、逆にそれ以上の株安・円高を招いたわけだ。また、ちょっと失礼な言い方をすれば、マーケットから「勘違いするな」、「もうウソをつくな」と説教されたようなものだ。
外部環境の変化とは、言うまでもないが、いわゆるチャイナリスクを機に、世界金融市場の流れが昨年(2015年)夏から、大きなリスクオンから大きなリスクオフへ変わってきたことだ。
政策がホンモノなら、こういったリスクオフの環境でも効果を発揮するはずだ。逆に言うと、「ニセモノ」政策は、外部要素に頼って一時的にホンモノのように見えても、いつかは市場に見抜かれ、また、しっぺ返しを食らう。今週(2月1日~)の値動きは、まさにそのとおりなのではないだろうか。
■マイナス金利を拡大していくのは賢明ではない
ここで早くも、日銀の次の一手に期待する声が上がっている。こういった声は、まったく失敗の本質を理解しておらず、さらなる大きな失敗を期待するようなものだ。
たとえとして、もしかしたら適切ではないかもしれないが、緩和、マイナス金利の拡大など金融政策ばかりに頼る姿勢は、薬物依存症と基本は同じで、「効かないから、もっとくれ」と言っているようなものだ。
国債のすべてを日銀が買い取り、株式ETFの6割以上を日銀が買い占めている上、さらにマイナス金利を拡大していけば、出口は完全にふさがってしまうだろう。
黒田さんがこのあたりのことをどのぐらい意識しているかは定かではないが、日銀内部の焦りはしっかり確認できる。
今回の政策決定は賛成5に対し、反対4だったが、賛成票には総裁ご自身も入っている。つまり、総裁以外の委員の半分は反対していたのだから、果たして次のマイナス金利拡大を仮に黒田さんが提案しても、何人が賛同してくれることだろうか。
実際、日銀のみでなく、世界中の中央銀行が金融市場の動向に自由を奪われ、身動きが取れなくなっているリスクが大きい。
■桜が咲くころの米ドル/円は110円台を打診!?
今週(2月1日~)の米ドル急落・円急騰は、米ドル全面安が背景にあることを見逃せないが、言ってみれば、金融市場が大きなリスクオフのトレンドへ転換しているから、米利上げは想定されるほどできなくなり、場合によってはゼロ金利に逆戻りしなければならないリスクさえある。
このあたりの詳細はまた次回にするが、米ドル/円は115円台以下の終値をもって円高トレンドを大きく推進、桜が咲くころには110円の大台打診を視野に入れた方が良いだろうと、まず、アドバイスしておきたい。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 週足)
ところで、前回のコラムでも強調しておいたが、「女神が救いの手を伸ばしてきたら、しっかりつかめ」とのアドバイスを、皆さんは実行しただろうか。
【参考記事】
●ソロスが“孫子の兵法”で中国政府を翻弄? マイナス金利導入でも昨年以上の円安なし(2016年1月29日、陳満咲杜)
もしかしたら、あのオジサンの「黒手」を女神の手と勘違いしちゃった!? オーマイガー!
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