■「二番煎じ」の材料では、高値更新とはいかない?
教科書どおりなら、足元の米ドル高は、まだ始まったばかりと言えるが、2016年年末まで進行していた「トランプ・ラリー」の行きすぎに照らして考えると、いくぶん割り引く必要もある。
言い換えれば、仮にこれから米ドル高が加速していくとしても、材料の「二番煎じ」なので、2016年11月9日(水)から2016年年末まで進行した強い米ドル高のモメンタムにはならない公算が大きい。
ゆえに、米ドル全体は上昇基調を保つが、ドルインデックスにしても、米ドル/円にしても2017年年初来高値を更新していくには時間がかかる見通しだ。「トランプ・ラリー」がもたらした米ドル高のスピード自体、異例であっただけに、目先の市況、むしろ健全だと言える。
だから、米ドル/円がいったん115円の節目手前を試し、また反落してきたこと自体について、特筆するところはない。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)
そして、ユーロ/米ドルが1.05ドルの節目に迫ったものの、また反騰してきたのも同じ背景を有するから、健在なスピード調整とみる。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 1時間足)
スピード調整があるからこそ、トレンドはより持続されるから、米ドル高のトレンドは維持されよう。
■現状は珍しい米ドル・米国株・金のトリプル高
ところで、米ドル高基調が維持される一方、米国株高と並行して、金も上昇傾向を維持している。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
一般論として、米ドル高は金の下落と連動する傾向にあり、また、米利上げ観測は米国株を押し下げる効果があるから、トリプル高はよくみられるケースではない。
統計では、過去5年間、米国株が1%以上の上昇幅を達成した時、平均して金は2.2%の下落といった市況がみられた。
また、米ドル、米国株、そして、金が揃って1%の上昇を達成した局面は、過去10年間、2回しか出てこなかった。
■トリプル高の背景にあるのは「不安」と「インフレ懸念」
このような現象をもたらす背景として、大きく分けてみると、以下の2点が挙げられるのではないだろうか。
まず、トランプ政権の運営に対する不安や欧州政治の見通しに対する危惧が高まり、投資家は嫌でも金をポートフォリオに加えざるを得なかった。
次に、2008年のリーマンショック以来、現実として「あり得なかった」インフレの再来が懸念されているからだ。
米インフレ上昇率の予想値は、1年前の1%程度(5年平均)から1.9%に急上昇、2016年のインフレ率は2.5%と統計された。インフレの高まりや加速は、1月CPI(消費者物価指数)の2.5%(年率)という、2012年3月以来の高い数字からも確認され、米利上げの圧力として、十分インパクトがあると思う。
となると、米ドル高を支える材料として、米利上げ見通しの拡大はしばらく重要視されるだろう。
米債券利回りの上昇(債券価格の下落)が「トランプ・ラリー」とともに急激に進行し、また、同じく行きすぎた側面も否めないが、米インフレ見通しの強化で米債券市場のベアトレンドは容易には修正されず、また、これからも続くだろう。
資金が債券市場から撤退し、株式市場へ流入していることはすでに観測されたが、史上最高値圏にある米国株のみでなく、保険の意味合いで金も買っておく、といった流れも強まっているという。
だから、しばらく米ドル高、金高が共存する市況が継続してもおかしくなく、金の値動きをもって米ドル/円を語る、といった従来の手法では相場の真実をつかめなくなる、といったリスクも大きいのではないだろうか。
市況はいかに。
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