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西原宏一の「ヘッジファンドの思惑」

米通商政策に加えて、シリア情勢悪化が
懸念材料に…。 米ドル/円は戻り鈍く反落か

2018年04月12日(木)17:07公開 (2018年04月12日(木)17:07更新)
西原宏一

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■日経平均と米ドル/円は戻り基調に入ったものの…

 みなさん、こんにちは。

先週(4月2日~)のコラムでご紹介させていただいたように、先月(3月)までと今月(4月)の相場は、少々違った展開。

 外国人投資家は、2001年から17年連続で4月に日本株を買い越しており、4月はいったん調整で、株、米ドル/円とも戻すのではないか? というのがアノマリーになっています。

【参考記事】
米ハイテク株急落ほか悪材料は出尽くし!? セル・イン・メイに向けて米ドル/円は調整へ(4月5日、西原宏一)

 マーケットの想定どおり、4月に入ってから日経平均、米ドル/円とも戻り基調に入ったのですが、戻りが極めて限定的な展開に

日経平均 日足
日経平均 日足

(出所:Bloomberg)

 米ドル/円は107.50円にも届かず、本稿執筆時点では106円台後半でもみ合っています。

米ドル/円 日足
米ドル/円 日足

(出所:Bloomberg)

■シリア情勢悪化が不安定要因に

 この背景には、米国の通商政策に加え、もう1つの不安定要因がマーケットに投下されたことがあります。

 それは、シリア問題。

 4月11日(水)の欧州市場で注目を集めたのが、トランプ大統領の下記のツイートでした。

ロシアは「準備せよ」、ミサイルがシリアに来る

トランプ大統領は「ロシアはシリアに向けられたいかなるミサイルも打ち落とすと宣言している。準備に入ったほうがいい。(ミサイルが)来るからだ。見事で、新しく、『スマート』だ!」と述べた。

またロシアに対し、「自国民の殺害を楽しんでいる、ガス殺の獣(けだもの)」であるアサド氏と「手を組む」べきではないと警告した。

トランプ氏は、先週末に女性・子どもを含む40人以上が犠牲となったシリアでの空爆にロシアやイランが関与したとの結論に達した場合、両国に厳しい措置を取ると宣言している。だが米国はシリアに展開するロシアやイラン軍を標的とすることは示唆していない。

出所:Bloomberg

 トランプ大統領としては、2013年のオバマ政権の失敗をかなり意識している模様。

 オバマ前大統領は、シリアに対し、「化学兵器の使用はレッドライン越え」になると明言しました。

 しかし、2013年に、今回と同じ東グータで化学兵器が使用された際、当時のオバマ大統領は軍事介入を見送り、これが、かなり批判を浴びました。

 ただし、この局面では、ロシアの仲介で、シリアが化学兵器の廃棄に合意したことで、オバマ大統領が軍事介入をしなかったことは、ある意味正当化されます。

 合意に沿ってシリアは、大量の化学物質を廃棄。サリンも、そこに含まれていました。

 ところが、実際は廃棄していなかったという結末。

 そして、2017年4月。

 シリアが、再びサリンを使用したと判断した米国は、シリアのシャイラット空軍基地を巡航ミサイルで攻撃しました。

■ミサイル発射のカウントダウンは始まっている模様

 先週(4月2日~)末には、シリアのアサド大統領が、反体制派が拠点とする町で化学兵器を使用したとの報道が流れ、前述のトランプ大統領のツイートにあるように、ミサイル発射のカウントダウンが始まっている模様です。

 トランプ大統領のツイートによれば、「われわれとロシアの関係は冷戦時代を含め、史上最悪だ」とのこと。こうした不安定な環境は、株にとっては当然ネガティブ材料で、米国株の上値は重い展開にとなっています。

NYダウ 日足
NYダウ 日足

(出所:Bloomberg)

 欧米短期筋は、実際にミサイル攻撃が始まれば、株や米ドル/円を買い戻すとの思惑もあるようですが(バイ・ザ・ファクト)、短期は別として、現在の金融市場は、

(1) 米中貿易摩擦(戦争)

(2) シリア問題をきっかけとした米国とロシアの対立

(3) 米ハイテク株の反落

などといった不安定要素が多く、株の戻りも限定的です。

 年初からの「株安・円高」の流れは、変わりません。

 来月(5月)からの「セル・イン・メイ」に向けて、4月は「株、米ドル/円」ともに調整で反発する方が相場の流れとしては自然なのですが、「シリア問題勃発」の影響から、今月(4月)も「米ドル/円、日本株」ともに、戻りは限定的となっています。

■調整終了のユーロ/米ドルは上昇トレンド回帰へ

 もう1つの注目は、ユーロ/米ドル。

 米ドル/円と同様、今年(2018年)のユーロ/米ドルも米ドル安に振れ、一時1.25ドル台まで高騰(高値は1.2555ドル)しました。

 ただ、1.25~1.26ドルの強烈なレジスタンスに阻まれ、調整に入っている状況です。

 ここで、ユーロ/米ドルの1.25ドル~1.26ドルレベルが、なぜ重たいのか、テクニカル分析でチェックしてみます。

ユーロ/米ドル 月足
ユーロ/米ドル 月足

(出所:Bloomberg)

 注目すべきポイントは、3点あります。

(1)2008年7月高値(=1.6038ドル)から引いた10年にわたるレジスタンスラインが1.2630ドルレベルに位置していること

(2)2008年7月高値(=1.6038ドル)と2017年1月安値(=1.0341ドル)の38.2%戻しが1.2517ドルに位置していること

(3)200カ月移動平均線が1.2486ドルに位置していること

この3つの強烈なレジスタンスがユーロ/米ドルの上値を阻んでいるのです。

 ユーロ/米ドルが、2月16日(金)に1.2555ドルの高値をつけて調整に入ってから2カ月が経過。その調整過程においても、ユーロ/米ドルの下値は1.21ドル台止まりであり、限定的です。

 2カ月の調整期間を経て、ユーロ/米ドルは再び上昇トレンドに回帰し始めています。動意を見せ始めたユーロ/米ドルの動向にも注目しましょう。

「われわれとロシアの関係は冷戦時代を含め、史上最悪だ」とトランプ大統領がツイートするほど、現実的に両国の関係が悪化しているとすれば、そうした環境は、株にとってはマイナスです。

 「株下落=リスクオフ」の環境が続くのであれば、「セル・イン・メイ」のアノマリーがある5月を待たずに、米ドル/円は再び反落する公算が高まってきます。

 徐々に上値が重くなってきている米ドル/円と、調整期間を経て、上昇トレンドに回帰しつつあるユーロ/米ドルの動向に注目です。


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今井雅人