■くりっく365:ストレステストはヒストリカルシナリオ、仮想シナリオの2種類のシナリオに基づいて行っている
伊藤渡オブザーバー(東京金融取引所 代表取締役専務。以下、「伊藤オブザーバー」と記載) 東京金融取引所の伊藤でございます。それでは取引所のほうからは、為替証拠金取引の特に前回問題となっております信用リスクの管理の現状についてご説明いたします。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、「取引所FX取引におけるFMI・監督指針対応」を掲載
伊藤オブザーバー 2ページをご覧ください。取引所の為替証拠金取引は、2005年7月に上場いたしました。その当初から信用リスク管理体制を構築しております。主だったところでは清算参加者の破綻に備え、証拠金の他に清算預託金及び違約損失積立金を整備しております。
また清算預託金は当時は基準日から過去1年間の相場変動のもとに算出するということで対応しています。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、2ページの「取引所FX取引の信用リスク管理の現状」を掲載
伊藤オブザーバー その後、世界的な金融危機、いわゆるリーマンショックがありまして、金融市場インフラのための、いわゆるFMI原則が策定され、その上で監督指針が制定されました。
この監督指針において取引所(清算機関)については、参加者に対する信用エクスポージャーを的確に管理し、証拠金制度、その他の制度・手法を組み合わせ、参加者の決済不履行等から生じる潜在的な損失を制限し、極小化することが求められています。このFMI原則あるいは監督指針に従いまして、従来のリスク管理体制を見直し、さらに強固な体制としました。
3ページですが、こちらは監督指針による信用リスク管理の主な着眼点ということで6つほど書いています。そのまま書いてきたものですが、その中で特に下線を引いた部分はこれから説明するところです。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、3ページの「監督指針による信用リスク管理の主な着眼点」を掲載
伊藤オブザーバー 「証拠金などの事前拠出型の財務資源を用いて、各参加者に対する信用エクスポージャーを高い信頼水準でカバーしていること」、「極端であるが現実に起こり得る市場環境を念頭におき、事前拠出型の財務資源に限らない追加的な財務資源も含めて、ストレスシナリオを十分にカバーするだけの財務資源を保持していること」、「上記の必要財務資源について、厳格なストレステスト等により、その十分性を定期的に検証すること」とされています。
4ページを見ていただきますと、先ほど監督指針で書いてありました信用エクスポージャー、それからこれから説明する想定損失額の概念について、簡単にまとめております。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、4ページの「信用エクスポージャーと想定損失額」を掲載
伊藤オブザーバー 信用エクスポージャーとは、極端だが現実に起こり得る市場環境として想定する価格変動、いわゆるストレスシナリオにおいて、参加者が破綻した場合に発生すると想定される損失をいうと定義されます。私ども取引所では、この信用エクスポージャーの算出において2つのシナリオを用いています。
1つは、一定のサンプル期間における過去最大の相場変動を用いるということで、これはいわゆるヒストリカルシナリオと呼んでいます。2つ目は、フォワードルッキングな仮想シナリオを適用したストレスシナリオです。
1番目の一定のサンプル期間ということでは、1985年1月2日以降、毎営業日の価格変動を使用しています。したがいましてブラックマンデー、湾岸戦争、アジア通貨危機と、すべて含むことになります。
また仮想シナリオにおいては、価格変動のデータより得られたリスク特性、いわゆる主成分の数値を増減し、組み合わせることで、仮想シナリオを作成しています。
このヒストリカルシナリオ、そして仮想シナリオ、各々のストレスシナリオに基づいて各清算参加者の建玉残高から発生し得る損失額を算出します。そしてこの損失額の最大1社+純資産額下位2社、これは財務基盤の脆弱というようなことで考えています。これを想定破綻参加者と呼んでいますが、この破綻に伴い発生すると想定される損失額が最大となるシナリオを採用し、想定算出額としています。
■くりっく365:過去2年半のストレステストでは最大想定損失額は568億円だったが、これは証拠金、違約損失積立金、清算預託金で100%カバーできる計算だった
伊藤オブザーバー 5ページは、その具体的な例という形になります。まず黄色の棒線で書いてあるところは、先ほど申し上げました「極端ではあるが現実に起こり得る市場環境を想定」するということです。ストレスシナリオに基づいて、この想定損失額を算出いたします。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、5ページの「想定損失額と財務資源」を掲載
伊藤オブザーバー そして事前拠出型の財務資源、これは証拠金、違約損失積立金、清算預託金ですが、こちらによりまして、想定損失額を100%カバーする体制ということになります。
ちなみに清算預託金というのは、清算参加者が清算機関に預託する金銭といったことで、実際に決済不履行等で損失が発生した場合に充当することを目的としています。また違約損失積立金は、私どもの準備金ということで自己資本になります。
実際に日次で私ども、このストレステストを行ってまいりまして、想定損失額を算出しております。ここ2年半ほど新たなFMIベースに基づいて、日々算出した中でも過去最大の想定損失額ということでいいますと568億円でした。
これに対しましてカバーの金額ですが、証拠金、これはあくまで所要額ということになります。こちらは90億円。私どもの自己資本で違約損失積立金が28億円、そして清算参加者の方から預託していただいた金額が450億円で、こちらをカバーしたということです。
逆に言いますと証拠金額というのは、この想定損失額の中では約16%ということになります。また私ども取引所あるいは清算機関は、この清算預託金制度を持っているがゆえに、こういった対応ができるということです。仮に清算預託金がなければ自己資本もしくは証拠金で、これをカバーしなければいけないという形になります。
次に極端ではあるが現実に起こり得る市場環境を想定しても、なお不足が生じた場合には、他の清算参加者からさらに追加の預託金を徴求するということになっています。
次に6ページに移っていただいて、信用リスク管理ということでは、先ほど申し上げましたように想定損失額については、日々のストレステストに基づいて算出しています。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、6ページの「信用リスク管理運営」を掲載
伊藤オブザーバー そして事前拠出型財務資源が、想定損失額を上回ったことを日々確認しています。仮にこの等号が逆になった場合には、ストレステストの見直しを実施するとともに、臨時で清算参加者に追加負担を求めることとしており、実際に2015年7月以降、3回ほど臨時見直しを行い、追加負担を求めた実績があります。
最後に8ページになりますが、取引所でのFX取引の流れを簡単に示しています。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第2回)の資料6「東京金融取引所資料」より、8ページの「取引所FX取引の流れ」を掲載
伊藤オブザーバー マーケットメイカー6社のレートを出しまして、取引所のほうでお客さまにとって最もいいレートを選別し、それを取引参加業者さまのほうにレートと金額をお送りする。そのレート、金額をそのまま取引参加業者と投資家に送るという形で、逆に約定が成った場合は、この中身が預託になるというようなことです。
こちらではマーケットメイカーと取引参加業者を別々のような形にしていますが、これはあくまで役割が異なるということであって、いずれも取引所の取引参加業者、取引参加者という位置では変わりはありません。すなわちマーケットメイカーからも証拠金と清算預託金を預かっています。説明は以上です。
池尾座長 どうもありがとうございました。時間的制約がきつい中でご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
(「【全文書き起こし3/4】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第3回)」へつづく)
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