■最大レバレッジ引き下げ、その議論の行方は?
店頭FXへのレバレッジ規制強化(最大25倍から10倍へ)は見送られる方向で決着しそうだ。
金融庁が新たな規制の枠組みを示したのは6月12日(火)に開催された第6回の有識者会合。今年(2018年)2月から始まった「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」では、レバレッジ規制をはじめとする店頭FXの「決済リスク」について足かけ5カ月に渡って検討を進めてきた。
【参考記事】
●日経は新レバレッジ規制の結論を知ってる!? 「第1回有識者検討会」で話されたこととは?
●有識者から新レバレッジ規制必要なしとの声も!?春に規制ありとした日経新聞は誤報?
●有識者検討会に新たな参加者もレバレッジ規制強化の声はなく…!?
●風雲急!店頭FX原則禁止論まで飛び出した第4回検討会。レバ規制強化派が優位に!?
●急転直下! レバレッジ規制強化は見送り! けれどまだ安心できない隠れた注目点とは?
|
9月27日 | 日経電子版「FX証拠金倍率を引き下げ 10倍程度に、金融庁検討リスク管理を 懸念、最大25倍の規制見直し」と報道 |
||
10月19日 | 金融庁、店頭FX業者向けに「店頭FX 業者のリスクへの対応策」の説明会 |
|||
12月18日 | 金融庁、有識者による検討会の 設置を発表 |
|||
|
2月13日 | 第1回有識者検討会開催 | ||
3月12日 | 第2回有識者検討会開催 | |||
3月29日 | 第3回有識者検討会開催 | |||
4月13日 | 第4回有識者検討会開催 | |||
5月8日 | 意見募集を開始 | |||
5月30日 | 第5回有識者検討会開催 | |||
6月12日 | 第6回有識者検討会で報告書(案)を提示 |
6月12日(火)に開催された第6回会合では、これまでの議論をもとに事務局(金融庁)が「報告書(案)」を作成し、有識者メンバーに対する最終確認を求めた。
メンバーから大きな異論はなかったため、「報告書(案)」で示された方向で最終的な報告書を取りまとめることになりそうだ。
|
池尾和人氏 | 立正大学経済学部 教授 | ||
|
黒沼悦郎氏 | 早稲田大学法学学術院 教授 | ||
坂勇一郎氏 | 東京合同法律事務所 弁護士 | |||
永沢裕美子氏 | Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 事務局長 |
|||
松井秀征氏 | 立教大学法学部法学科 教授 | |||
弥永真生氏 | 筑波大学ビジネスサイエンス系 教授 | |||
|
星野昭氏 | 三菱UFJ銀行 金融市場部長 | ||
伊藤渡氏 | 東京金融取引所 代表取締役専務 | |||
山崎哲夫氏 | 金融先物取引業協会 事務局長 | |||
鬼頭弘泰氏 | GMOクリック証券 代表取締役社長 | |||
高村正人氏 | SBI証券 代表取締役社長 | |||
松田邦夫氏 | セントラル短資FX 代表取締役社長 | |||
緒方健太郎氏 | 財務省国際局為替市場課長 | |||
重本浩司氏 | 日本銀行金融市場局為替課長 |
※メンバーの上柳敏郎弁護士、勝尾裕子教授は今回は最初から欠席
この報告書をもとに、必要に応じて法律や内閣府令、自主規制ルールなどが変更され、FX業者などは新制度への対応を進めていくことになる、とみられる。
つまり、「報告書(案)」はいわば、「新たな店頭FX規制の枠組みが示された航路図」だ。そこには何が書かれていたのか、いくつかのテーマに切り分けて見ていこう。
■レバレッジは現状維持が基本線に
まずは最大の焦点、レバレッジ規制(証拠金倍率規制)について、だ。
見送りとなったレバレッジ規制だが、細かく読めば「条件付き」の見送りでもある。
後述する店頭FX業者に対する新たな施策を優先し、その効果を見極めた上で、十分な効果が見られないようであれば、レバレッジ規制を「再度検討することが適当」となった。
個人投資家にとっては望ましい結果といえるだろうが、有識者メンバーの間ではレバレッジ規制の強化を望む声が大きかった。
そのためか、前回の第5回会合で示された文案に、「レバレッジ倍率の一律引き下げが望ましいとする意見があった」と追記されている。


※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第5回)の資料2「討議資料」より、11ページの「(3)証拠金倍率(レバレッジ倍率)について」、(第6回)の資料1「報告書案」より、11ページ「(3)証拠金倍率(レバレッジ倍率)について」を掲載
■店頭FX業者に課される2つの規制
最大レバレッジが現状維持であれば、今回の有識者会合によって何が変わるのか。大きく変わるのが店頭FX業者に対する2つの規制だ。
(1)ストレステストの厳格化を通じた自己資本の拡充
(2)取引データの報告制度
店頭FX業者は、現在も金融先物取引業協会が主導してストレステストを行なっているが、有識者メンバーからは厳しい意見が出ていた。
「現行の(金融先物取引業)協会の共通テストによるリスク把握には相応に限界があるのではないかという印象は否めないと思います。これは精度を上げる必要がある」(第4回会合での坂メンバーの発言)
「取引所(FX)だけではなくて、店頭取引(FX)についても同じように、常時(の実施を)」(第4回会合での上柳メンバーの発言)
【参考記事】
●【全文書き起こし1/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
●【全文書き起こし2/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
●【全文書き起こし3/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
こうした指摘に対応し、店頭FX業者では現状だと年1回のストレステストを毎営業日行ない、また、テストの基準も厳格化することになる。
■新設されるデータ報告制度、投資家への影響は?
もうひとつ、大きな変更となるのが「取引データの報告制度」だ。第3回の有識者会合などで指摘された店頭FXの「不透明性」に対応することが主眼となる。
「各業者に対し、日々の取引データ(約定・注文データ及び顧客に提示した価格等。カバー取引を含む。)について自主規制機関及び当局への報告を義務付けることが適当」
ストレステストの精緻化とデータ報告制度――この2つが導入されると投資家にどんな影響が出るだろうか。
店頭FX業者には新たなシステムの構築、運用コストが新規に発生することになるし、会社によっては自己資本の積み増しが必要になることもあるかもしれない。
こうしたコストがふくらむようだと、スプレッドの拡大やサービスの低下といった形で、投資家にしわ寄せが及ぶ可能性がゼロとは言えない。
■取引データ、投資家へ公開されるか
少し話がそれるが、報告された取引データが投資家に公表されるかどうかも、気になるところだ。
「報告書(案)」を見るかぎり、自主規制機関(金融先物取引業協会)と金融庁への報告と記載されているだけで、投資家へ公開されるかどうかはわかっていない。
有識者メンバーからも「これら(のデータ)は投資者にも重要。何らかの形で公開を」 (第6回会合での坂メンバーの発言)との意見が出ていた。ぜひ公開されることを望みたい。
もし、各FX業者がどんなレートを提示したのかが逐一、開示されれば「あの業者、米雇用統計のときにスプレッドが開きやすくない?」、「ストップ狩りでは?」といった疑問や疑心暗鬼を解消できそうだし、FX口座選びの新しい基準ともなりそうだ。
ストレステストは、じつは最大レバレッジにも…
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)