■会合前日にレバレッジ倍率引き下げ見送りの報道
5月30日(水)、店頭FXに対する規制を議論する「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」の第5回目となる会合が開催された。
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池尾和人氏 | 立正大学経済学部 教授 | ||
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上柳敏郎氏 | 東京駿河台法律事務所 弁護士 | ||
勝尾裕子氏 | 学習院大学経済学部 教授 | |||
黒沼悦郎氏 | 早稲田大学法学学術院 教授 | |||
坂勇一郎氏 | 東京合同法律事務所 弁護士 | |||
永沢裕美子氏 | Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 事務局長 |
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松井秀征氏 | 立教大学法学部法学科 教授 | |||
弥永真生氏 | 筑波大学ビジネスサイエンス系 教授 | |||
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星野昭氏 | 三菱UFJ銀行 金融市場部長 | ||
伊藤渡氏 | 東京金融取引所 代表取締役専務 | |||
山崎哲夫氏 | 金融先物取引業協会 事務局長 | |||
鬼頭弘泰氏 | GMOクリック証券 代表取締役社長 | |||
高村正人氏 | SBI証券 代表取締役社長 | |||
松田邦夫氏 | セントラル短資FX 代表取締役社長 | |||
緒方健太郎氏 | 財務省国際局為替市場課長 | |||
重本浩司氏 | 日本銀行金融市場局為替課長 |
今回の会合では、6月中にまとめるとされている報告書の方向性が示されるというウワサがあったが、有識者検討会の前日(5月29日)には、ブルームバーグやロイターといった有力メディアが、レバレッジ倍率の引き下げは見送られると報じていた。
有識者検討会が行われる前に、ネタバレ(!?)のような状況になっていたわけだ。
ここで前回、4月13日(金)に開催された第4回目の会合を簡単に振り返ると、レバレッジ規制強化というワードがはじめて登場したほか、店頭FX原則禁止論まで飛び出すなど、明らかに規制強化の方向で議論が進められていた。
【参考記事】
●風雲急!店頭FX原則禁止論まで飛び出した第4回検討会。レバ規制強化派が優位に!?
ザイFX!では、その議論の内容そのものを書き起こして、3回にわたって以下の記事で公開している。
【参考記事】
●【全文書き起こし1/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
●【全文書き起こし2/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
●【全文書き起こし3/3】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第4回)
つまり、規制強化の方向に進むのかと思われた有識者検討会が一転、逆方向に動くとの報道が出て第5回有識者検討会の当日を迎えたわけだが、さて、その結果は…
■意見募集ではレバレッジ規制強化反対が多数
第5回有識者検討会では、はじめに事務局(金融庁)から、「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」についての意見募集の結果について説明があった。
この意見募集は、2018年5月8日(火)~5月18日(金)にかけて電子メールで受け付けられていたものだ。

※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第5回)の資料1「事務局説明資料」より、1ページの「店頭FX業者の決済リスクにへの対応に関する有識者検討会についての意見募集結果の概要」を掲載
資料によると、集まった意見の総数は345件、その内訳は個人が342件、法人が3件。主要な意見として、「自己資本・ストレステストの拡充」、「取引データの報告制度」、「ロスカット制度他」、「レバレッジ倍率」などがあったという。
その中でも「レバレッジ倍率」についての意見が多かったようだ。

※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第5回)の資料1「事務局説明資料」より、2ページの「店頭FX業者の決済リスクにへの対応に関する有識者検討会についての意見募集結果の概要」を掲載
事務局の資料にあるものを一部抜粋すると、「現状の25倍ですら諸外国と比較すると低い」、「少額の資金でも投資を楽しめるのが魅力なのに、納得できない」などというように、レバレッジ倍率の引き下げに反対する意見が多数を占めていた。
■金融庁はレバレッジ規制強化を見送り
次に、事務局より今後の方向性についての説明があった。
先に、結論だけ言ってしまうと、冒頭で紹介したメディアの報道のとおり、レバレッジ倍率の引き下げは見送られた。
第4回会合の議論からすれば、もうレバレッジ規制強化ありきで突き進んでいくようにしか見えなかったのだが、そうはならなかったということだ。
事務局が配布した討議資料では、これまで開催されてきた第1回~第4回会合での有識者メンバーの意見がまとめられていて、それに基づいて、今後の方向性についても示されていた。
その中で、レバレッジ倍率の引き下げによる決済リスクへの対応については、未収金リスクへの備えとして必要とする意見がある一方で、自己資本が充実し、未収金を吸収できる十分な財務基盤を備えることとなれば、必ずしもこれまで以上の証拠金規制は必要ないという意見などもあったとされている。
このように有識者メンバー内でも賛否両論あったわけだが、事務局が今後の方向性として示したのは、レバレッジ倍率の引き下げではなく、ストレステストを通じた自己資本の充実などにより決済リスクへ対応していくというものだった。
■ストレステスト強化と自己資本充実で対応
では具体的に、ストレステストを通じた自己資本の充実により、どのようなリスクを管理することができるのだろうか?
これについて事務局は、「相場変動による未収金発生リスク」、「カバー取引先の破綻リスク」、「未カバーポジションに係るリスク」という、店頭FXが抱える3つのリスクに対応可能であり、決済リスク管理を向上させる上で汎用性が高く、優先度の高い対応策だとしている。
ただし、自己資本を充実させる上で必須としているのが、ストレステストの厳格化だ。
厳格かつ適正なストレステストを実施して、その結果を自己資本に反映させていくことが必要ではないかというのだ。
具体的には、店頭FXよりも厳しい条件で実施している東京金融取引所のストレステストと同等のものにしたいようだ。
【参考記事】
●【全文書き起こし2/4】 店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会(第2回)
事務局からは、店頭FXが実施している現状のストレステストについて、以下の点について見直しが必要なのではないかとの提言があった。
※「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第5回)の資料2「討議資料」より、7~8ページの「店頭FX業者の決済リスク管理の強化に向けた対応策」を掲載
こちらをご覧いただくと、①顧客未収金の発生リスクでは、現状では、建玉残高が少なくなる1日の取引終了時点の建玉残高に基づき算出しているが、もっとも活発に取引が行われている時点のリスクを織り込むために、日中最大の建玉残高を勘案して算出する必要があるなどとしている。
また、②カバー取引先の破綻リスクでは、G-SIFIs(※)であればリスクをゼロとしてきたが、G-SIFIsであってもリスクを適正に勘案する必要があるなどとしている。
(※編集部注:「G-SIFIs」とはグローバルな金融システム上、重要となる金融機関のこと。日本でG-SIFIsに認定されているのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ)
さらに、③ストレステストの実施頻度では、常時リスクを把握する観点から、現状の年1回の実施から毎日にする必要があるのではないかとの見解が示された。
そして、ストレステストの結果、自己資本が一定の比率を下回る店頭FX業者については、当局が自己資本の積み増しやレバレッジ倍率の引き下げなどを求めていく必要があるのではないかと結論づけている。
つまり、レバレッジ倍率引き下げ見送りとはいっても、それは店頭FXに対する一律のレバレッジ倍率引き下げは見送られたということで、ストレステストを通じて自己資本が基準に満たなかったFX業者に対しては、当局の指導が入り、レバレッジ倍率の引き下げが行われる可能性があるわけだ。
また、これとは別に、事務局からは…
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