■金融市場に2つの懸念事項がある
現在の金融市場で、今後の動向に大きく影響を与える可能性がある懸念事項が2つあります。
1つ目は、トランプ米大統領の通商交渉です。現在、トランプ米大統領が各国、地域に対して、関税等について厳しい要求を突きつけているのは、周知のとおりです。その状況を、簡単におさらいしてみます。
日本に対しては、2国間での貿易協議が開始されましたが、今のところ、具体的なものは何も出てきていません。今後の動向に注視しておく必要があります。
金融市場に大きな影響を与えそうな懸念事項の1つが、トランプ大統領の通商交渉。8月には日米通商協議が開催されたが、今のところ、具体的なものは何も出てきていない。写真は2018年4月の日米首脳会談時のもの (C)Joe Raedle/Getty Images
■米国とカナダの溝は埋まらない状況…
次に、対EU(欧州連合)です。こちらは、自動車を除く工業製品の関税撤廃、米国産大豆、LNG(液化天然ガス)の対EU輸出に関して、交渉を開始することになりました。
自動車を除いたと言う点がポイントで、とりあえず、深刻な対立は避けることができそうな状況となっています。
次に、NAFTA(北米自由貿易協定)。米国は、メキシコとは合意にたどり着いたものの、カナダとは依然として、溝が埋まらないままです。米国としては、今月(9月)中に片をつけたいと考えているようですが、カナダ側は慎重な姿勢を崩していません。
昨日(9月5日)から再協議が再開されていますが、今後、交渉が難航すれば、金融市場にも影響が出てくる可能性があります。
■対中国で2000億ドル相当の追加関税発動が間近に!?
そして、もっとも注目されるのは、対中国です。
これまで、2度にわたって中国に対して関税措置を講じてきましたが、トランプ大統領は3度目の措置を講じようとしていると報じられています。
今回は、2000億ドル相当の中国製品に対する関税措置を、9月6日(木)中にも発表するのでないかと言われています。さらなる措置が講じられると、益々、貿易戦争に突入する可能性が出てくるので、その動向からは目が離せません。
【参考記事】
●米国の対中関税第3弾が今週にも発動!? 米ドル安に誘導したいトランプはどう動く?(9月3日、西原宏一&大橋ひろこ)
●米中間選挙前の米ドル/円は下がりやすい! 2000億ドルの対中関税は米国にも悪影響!?(9月4日、バカラ村)
トランプ大統領は早ければ9月6日(木)中にも中国に対して2000億ドル規模の追加関税発動を発表するのではと言われている。そうなると、益々、貿易戦争に突入していくことになりそう… (C)Bloomberg/Getty Images
ただし、3度目ということで、これまでの2回よりは、金融市場は冷静に対応するでしょう。
■アルゼンチンは政策金利60%でも通貨安が止まらない
2つ目の懸念事項は、新興国での通貨下落です。
米国の利上げによって新興国から資金が流出し、新興国通貨が下落する(米ドル高)という展開が続いていますが、ここにきて、その流れがさらに鮮明になってきています。
アルゼンチンは、アルゼンチンペソの急落を止めるために、8月30日(木)に政策金利を45%から60%に引き上げました。
※アルゼンチン中央銀行のデータを基にザイFX!が作成
しかし、アルゼンチンペソの下落は、歯止めがかからない状況にあります。
(出所:Bloomberg)
■トルコの事態は深刻。南アフリカは景気後退入り
トルコは、エルドアン大統領が中央銀行に利上げをさせないように、政治的圧力をかけたり、米国との対立を深刻化させたりしており、事態はより、深刻になっています。
【参考記事】
●9月会合でトルコ中銀は500bp利上げ必要!? まさかの無策なら、トルコリラ/円は14円へ…(9月5日、エミン・ユルマズ)
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)
南アフリカは、4~6月期のGDP(国内総生産)が前期比年率でマイナス0.7%となり、これで2期連続のマイナス成長となりました。
2009年以来のリセッション(景気後退)です。
※南アフリカ統計局のデータを基にザイFX!が作成
これを受けて、南アフリカランドは、再び大きく下落してきています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:南アフリカランド/円 日足)
その他、インドルピー、インドネシアルピア、マレーシアリンギットなど、他の新興国通貨にも大きな下落圧力がかかってきています。
■今のところ、金融市場は冷静な対応を見せているが…
今のところ、こうした動きに対しても、金融市場全体は比較的、冷静な対応を見せています。現状の程度では、さらなるマイナスの影響は出ないと思っているので、それほど心配はしていません。
しかし、他の新興国へ、さらなる波及という事態になると、状況はまた、変ってきます。今後の動向に、注目しておきたいと思います。
■米ドル/円はもう少し、110~113円のレンジが続くか
以上のような懸念材料があるために、円相場もなかなか、方向感を出すことができません。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
本来、米ドル/円は、米国の短期金利が先進国でもっとも高くなり、日本人投資家が下落してくるところで確実に買いを入れてくる状況では、もっと上昇してもおかしくないのですが、前述したような不確定要因があるために、方向感を出せないでいます。
【参考記事】
●ポンドやユーロが今後も上昇する可能性は低い!? 米ドル/円はジリジリと113円へ!(8月30日、今井雅人)
もう少し、110~113円程度のレンジ相場に、お付き合いするしかなさそうです。
(出所:Bloomberg)
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