■トルコが抱える新たなリスク、S-400問題
トルコ政府が、ロシアからS-400といわれるミサイルシステムを購入したことで、トルコと米国とNATO(北大西洋条約機構)の関係が悪化するリスクが高まっています。
S-400は、ロシアが開発した多目標同時交戦能力を持つ超長距離地対空ミサイルシステムです。
米国のパトリオットミサイルのようなシステムですが、射程距離はパトリオットの2倍あると言われています。
現在はロシア以外に中国、インド、ベトナムなどで使用されていますが、トルコは2016年のクーデター未遂事件の後に、S-400の購入を決めました。
【参考記事】
●クーデター騒ぎ勃発でトルコリラが急落! 急落でも問題なくスワップで儲ける手法
●東ローマ帝国滅亡からクーデター失敗まで! トルコリラ急落の今、トルコの歴史を振り返る
写真は2016年のクーデター未遂事件のときのもの。トルコはこの事件の後にミサイルシステムの購入を決めたという (C) Defne Karadeniz/Getty Images
問題は、トルコがS-400を使用している他の国と違ってNATOの加盟国で、米国の同盟国でもあることです。
ロシアのミサイルシステムを購入することは、ロシアとの軍事協力を意味します。なぜならば、ミサイルシステムとは、買ったらすぐ使えるものではなく、設置にエキスパティーズ(専門知識)が必要な高度な武器です。
ロシアからミサイルの専門家がトルコにたくさん来て、NATOの重要な軍事拠点で作業することを意味します。
また、ミサイルシステムは単独で動くものではなく、レーダーシステムと連携を組んで作動します。私は軍事専門家ではありませんが、ロシアのミサイルシステムをNATOのレーダーシステムの上に設置するのは技術的にも難しいのではないかと予想しています。
軍事機密の保持という観点から見ても、NATOや米国はとてもS-400の購入を容認できると思えません。
■3月末の地方選挙後の動きは極めて読みにくい
このS-400ですが、トルコメディアの報道によると、早くて今年(2019年)の夏からシステムの設置が始まるとのことです。
これに対して、米国防総省の方から強い反発があり、米国下院からもトルコに再び制裁を課すべきとの意見が出ていると言われています。
昨年(2018年)のトルコショックは、米国の制裁がきっかけになったことを考えると、今年(2019年)のトルコリラにとって最大のテールリスクは、このS-400問題になるのではないかと考えます。
【参考記事】
●トランプ大統領が米軍のシリア撤退表明! 2019年のトルコリラは地政学リスクが鍵に(2018年12月26日、エミン・ユルマズ)
米国が、S-400の部品がトルコに運ばれる前に動くと決めた場合、それは、4月もしくは5月になるでしょう。そうすると、やはり地方選挙が行われる3月末までトルコリラが堅調でも、その後の動きは極めて読みにくいのです。
(出所:Bloomberg)
■スワップ金利狙いのトルコリラ投資家には好環境
今週(2月25日~)のトルコリラですが、引き続き、狭いレンジで動いています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 日足)
米ドル/円自体のボラティリティも、7年ぶりの低水準に下がっていますが、新興国通貨も対円でのボラティリティは非常に低くなっています。これはスワップ狙いの投資家にとっては望ましい環境と言えるでしょう。
FRB(米連邦準備制度理事会)が引き締め政策を一旦停止し、ECB(欧州中央銀行)も再び緩和に動く可能性が高まっているのは、新興国通貨にとって極めて好環境といえます。
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