■ロシアからトルコへの新パイプライン「トルコストリーム」
黒海を通ってロシアの天然ガスをトルコに運ぶ新パイプラインの基礎工事が今週(11月19日~)完成し、19日(月)にイスタンブールで行われた開通式に両国の首脳が参加しました。
このプロジェクトはトルコストリームと呼ばれていて、930キロにも及ぶ2本のパイプランが建設されています。
まだ、オンショア工事が完成していないので稼働していませんが、来年(2019年)末から稼働することが予定され、年間で315億立方メートルの天然ガスを運んでくれます。
また、セカンドパイプラインも計画されていて、これはトルコから東欧にパイプラインを伸ばすことを意味しています。トルコは、このセカンドパイプラインから通行料を稼ぐ予定です。
2014年のウクライナ危機の背景にも、欧州へのエネルギードミナンスを保持したいロシアの思惑がありましたが、ロシアは近年、欧州へのガス供給においては、ウクライナを通らないパイプラインの建設を急いでいます。
■トルコストリームのトルコ経済への貢献は大きい
トルコストリームが稼働した場合、トルコ経済に大きな貢献をするとトルコ政府は主張しています。一方で、米国のトランプ政権が欧州各国にロシアへのエネルギー依存度を減らすように促していた時期に、トルコはロシアへのエネルギー依存度を高めることになるので、トルコストリームは米国との関係にも影響しそうです。
エルドアン大統領も開通式で、「国家が天然ガスをどうやって手に入れるかは勝手であり、他国はその手法を尊重するしかありません」というトランプ政権を意識した発言をしていました。
エルドアン大統領は開通式で、国家が天然ガスをどうやって手に入れるかは勝手であり……と発言。これはトランプ政権を意識したものか? (C)Anadolu Agency/Getty Images
このパイプラインは、もちろんトルコだけに天然ガスを運ぶわけではありません。トルコは全体の約半分を消費し、残りはバルカン半島を中心に欧州諸国に運ばれる予定です。
北海で建設が続いていて、ロシアとドイツを直接つなぐノルドストリーム2もトルコストリームと似たようなプロジェクトです。
現在、トルコが消費している天然ガスの51%はロシアのものなので、すでに半分以上ですが、トルコストリームの完成で、トルコのロシアへのエネルギー依存度は7割に近づきます。
■トルコリラは来年3月までは堅調に推移すると予想
今週(11月19日~)のトルコリラは堅調に推移し、対円では一時、21円台に乗せることができました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
トルコリラが堅調に推移している最大の理由は、原油価格の下落です。原油安によってトルコの経常赤字が縮小し、インフレ圧力も弱まります。原油安が長期化すればトルコリラのボラティリティが低下し、再びショック安を起こす可能性が低くなります。
【参考記事】
●なぜ、トルコリラは上昇しているのか…!? 原油価格とトルコリラは逆相関関係にある(10月31日、エミン・ユルマズ)
●インフレ減速と原油下落はトルコに追い風! 21円台維持はハルクバンクへの罰金次第か(11月7日、エミン・ユルマズ)
●原油が弱気継続ならトルコリラも上昇継続! でも、ハルクバンクの罰金次第で20円割れも(11月14日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
個人的には、来年(2019年)3月に行われる地方選挙までトルコリラは堅調に推移すると考えます。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 週足)
しかし、地方選挙に結果によって一波乱が起きる可能性がありますので、その後の動きについては、結果を見てからの判断となります。
■警戒すべき2つのリスク要因とは?
さらに、来年(2019年)3月までのリスクもゼロではありません。
もっとも大きなリスク要因は、前回のコラムでもお伝えしているように、ハルクバンクへの罰金の件です。
トルコのチャウショール外相は、今週(11月19日~)米国を訪問していて、ポンペオ長官と会談を行う予定です。この会談の最大のテーマが、ハルクバンクの件であることは間違いなさそうです。
【参考記事】
●原油が弱気継続ならトルコリラも上昇継続! でも、ハルクバンクの罰金次第で20円割れも(11月14日、エミン・ユルマズ)
2つ目のリスク要因は、世界の株式市場の調整によるリスクオフです。
金融市場全体でリスクオフモードに入れば、トルコリラだけはなく、その他の新興国通貨も売られると考えます。
現時点で新興国通貨は、むしろ買われていてボラティリティも低いので、まだリスクオフになっていません。
この2つのリスクに注意しながら、トルコリラのポジションをマネージメントすればいいと考えます。
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