■米ドル高が有力だが、紆余曲折はあるだろう
昨日(2019年7月25日)、ECB(欧州中央銀行)は金利据え置きを決定したものの、ドラギ総裁は利下げや金融緩和の可能性を示唆し、ユーロの安値更新をもたらした。
反面、利下げが確実視される米国は、6月耐久消費財受注の指標が好調で利下げ幅や回数に関する一部過激な憶測がやわらぎ、これが米株反落や米ドル高につながった。これまで利下げ期待によって株高が進んだ側面が大きかった分、米株の反落は途中のスピード調整と見なすべきであり、また、健全な値動きであろう。
ユーロの安値更新が昨日(7月25日)、一時的なものに留まったのは、ドラギ総裁から性急な市場センチメントにくぎを刺す発言があったからだ。ECBの利下げや量的緩和の再開があってもたちまちのことではないと強調し、マーケットの習性をよく知るバンカーとして、高いコミュニケーションやコントロールの能力を窺わせた。
現実よりいつもできるだけ早く、そして過激に材料を織り込み、反映していくのが相場である。それをよく知るドラギ氏だからこそ、バランスを取る発言をし、過激な値動きを防いだわけだ。
したがって、ユーロは一気に安値更新を果たしたことが、これからの方向性を暗示しているが、安値トライ後に大幅切り返しが起こったことで、それが一直線にはいかないことも示唆されている。
換言すれば、相場の内部構造に沿った形で、これからの米ドル高は有力視されるものの、材料や市場センチメントの変化次第で、紆余曲折した値動きになる可能性もあるから、米ドル高一辺倒な市況にもなりにくいかと思われる。つい最近まで米ドル安を確実視する向きが多かったから、一転して今度は米ドル高になっても、外貨ごとにパフォーマンスが違ってくるだろう。
■ユーロ/米ドルの戻り売りが最も明確なストラテジー
ユーロ/米ドルはいったん安値更新を果たしたから、昨日(7月25日)切り返したものの、ここからの戻りがあっても限定的だと推測される。この意味では、ユーロ/米ドルの戻り売りが最も明確なストラテジーとして提示できるのではないかと思う。
(出所:Bloomberg)
ちなみに、ユーロ/米ドルは4月、5月や昨日(7月25日)の安値がほぼ同じ水準にあり、目先はサポートゾーンの存在があるものの、それは脆弱だと思われる。戻り切れず、再度、サポートゾーンを割り込む場合は、ユーロがさらなる下値余地を試す最初のサインと化すだろう。
■米利下げがあるから米ドル安という発想は理論上の根拠なし
米ドル/円は108円台後半にトライ、前回のコラムで指摘した「三尊底(※)」のフォーメーションを構築する途中とみる。
(※編集部注:「三尊底」とはチャートのパターンの1つで、大底を示す典型的な形とされている。「ヘッド&ショルダーズ・ボトム」とも呼ばれる。また、「三尊底」の逆で、天井を示す典型的な形が「三尊型」(ヘッド&ショルダーズ))
【参考記事】
●市場心理の割に米ドル/円は底堅い。利下げ実行で調整下落終了の公算大(2019年7月19日、陳満咲杜)
(出所:Bloomberg)
この場合、やはり近々7月10日(水)高値108.98円のブレイクが期待される。これにより前述の三尊底のフォーメーションが成立し、上値余地は一段と拡大することだろう。
7月18日(木)安値107.20円を下回らない限り、米ドル/円が再度「底割れ」するリスクは低下しており、最近まで市場の見方の主流だった「戻り売り」のスタンスは、そろそろ修正される時期に来たかと思う。
筆者が繰り返し指摘してきたように、そもそも「米利下げがあるから米ドル安」といった発想は理論上の根拠がなく、また、歴史的な統計の裏付けもない。さらに、「ウワサの売り、事実の買い戻し」なら、米利下げが実施されると米ドルが一段と買われる可能性もある(※)。
したがって、ユーロ/米ドルは早晩、再度安値更新、また、大きく下値余地を拡大する公算が高いと思われるから、残る問題はトレンドの方向性ではなく、そのモメンタムだと言える。
(※編集部注:米FOMC(米連邦公開市場委員会)は7月30日~31日に開催され、結果は7月31日(日本時間8月1日未明)に発表される。そこでは利下げが実施されるということが市場コンセンサスとなっている)
■ユーロ/円には切り返しのサイン点灯か?
ユーロ/円は昨日(7月25日)、安値を更新してから大きく切り返し、日足では強気「リバーサル」のサインをともした。
仮にこのサインがホンモンなら、ユーロ/円の下げ止まりや切り返しを示唆するサインとして見逃せない。
(出所:Bloomberg)
筆者が強調してきたメインシナリオ、すなわち「ユーロ/円など主要クロス円(米ドル以外と円との通貨ペア)は、2019年年初来安値を更新しないだろう」という推測も、やっと最初の兆しが見えてきたかと思う。
この場合、逆説的になるが、「米ドル/円の反騰が加速するうちは、ユーロ/米ドルの保ち合い継続」、もしくは「ユーロ/米ドルが大幅に切り返して、米ドル/円は保ち合い」といった市況が連想されるが、現実味があるのは前者ではないだろうか。
となると、やはり、ユーロ/米ドルは早期に安値更新するよりも、いったん保ち合いに転じる可能性が大きい。換言すれば、ユーロ/円の切り返しがあるならば、それはユーロ/米ドルの下落モメンタムが強くならないうちに発生し、そのときは米ドル/円の反騰が加速される、といった可能性が暗示される。
市況はいかに。
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