■英ポンドがショートカバーで上昇。でも、また軟調に!?
先週(8月19日)前半の為替相場は動意なく、小動きが続いていましたが、後半は激しく動きました。
まず、8月22日(木)は、英ポンドが主役になりました。
これまでは、ジョンソン英首相が10月末のEU(欧州連合)からの離脱を示唆しており、合意なき離脱も辞さず、という立場でもあったことから、英ポンドは軟調な展開が続いていました。しかし、22日(木)にメルケル独首相が、「10月末までにバックストップ(※)の解決策を見つけることができる」と発言。
さらに、これまでブレグジット(英国のEU離脱)問題に厳しい対応をしていたマクロン仏大統領からも、「30日以内に何らかの賢明な策を見いだせると自信」と、軟化した発言が出てきました。
(※編集部注:「バックストップ」とは、英国がEUを離脱したあとも、英国領の北アイルランドと隣国のアイルランドとの国境を開放しておき、北アイルランドをEU関税同盟に留めること)
英ポンドは、市場参加者のポジションが売りに偏っていたこと、テクニカル的にも英ポンド/円や英ポンド/米ドル、ユーロ/英ポンド、英ポンド/加ドルなどが、長期的な英ポンドの安値水準に位置していたこともあって、英ポンドのショートカバーが大きく出ました。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
まだしばらく、英ポンドはポジション調整による、底堅い展開になると思います。ただ、バックストップの解決策などが、簡単に見つかるとは思えず、離脱期限が近くなれば、また合意なき離脱懸念から英ポンドは軟調な展開になってくると考えています。
【参考記事】
●いつ売っていつ買うか?これから英ポンドのトレードがおもしろくなりそうな理由とは?(8月20日、バカラ村)
●英ポンド大混乱か。合意なき離脱の高まりがEU離脱取り止めの可能性を高める!?(8月22日、西原宏一)
●市場を膠着させている4つの「摩擦」とは? 英ポンドはブレグジット後の最安値更新も!?(8月22日、今井雅人)
■パウエルFRB議長は追加利下げを示唆した…?
8月23日(金)には、ジャクソンホール会議(※)で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の講演がありました。
(※編集部注:「ジャクソンホール会議」とは、米ワイオミング州ジャクソンホールで開催される、カンザスシティー連銀主催の年次経済シンポジウムの通称。世界中の中央銀行総裁や金融関係者の多くが参加するイベントのため、毎年、市場参加者から高い注目を集めている)
市場は、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げを確実視していますが、パウエルFRB議長からは、利下げをするとの発言が、まだされていないこともあって、ここで利下げを示唆するのではないかと思われていました。
9月FOMCでの追加利下げが市場で確実視されるなか、ジャクソンホール会議で行われたパウエルFRB議長の講演が注目イベントとなったが… (C)Bloomberg/Getty Images News
ただ、FOMC議事要旨(7月開催分)でも、メンバーの利下げに対する見解が分かれており、8月22日(木)には、ジョージ米カンザスシティ連銀総裁が、「金利は均衡、据え置きを望む」とタカ派な発言。
一方、8月23日(金)にはブラード米セントルイス連銀総裁が、「次回(9月)会合では0.5%の利下げの活発な議論がある」と、ハト派な発言を行っており、FRBの中でも見解が分かれたままです。
そのため、パウエルFRB議長も利下げには言及せず、「世界景気はさらに減速」「景気拡大を維持するために適切に行動する」と、利下げの可能性を示唆する程度で終わりました。
■米中の関税合戦が相場の波乱要因に
パウエルFRB議長の講演は、無難な内容で終わりましたが、米中の関税合戦が相場を動かしました。
8月23日(金)の日本時間21時ごろ、中国が「750億ドル相当の米国からの輸入品に、5~10%の追加関税を課す」と、米国の関税第4弾の報復措置として、追加関税を示唆しました。
これを受けて、株式市場は下落し、米ドル/円やクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)も下落。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 1時間足)
それに対してトランプ大統領は、10月1日(火)から、関税第1弾から第3弾の関税率を25%から30%へ、関税第4弾の関税率を10%から15%へ引き上げることを、8月23日(金)の取引終了後に発表しました。さらに、米企業の中国からの撤退も指示しています。
中国が米国の関税第4弾に対する報復措置として追加関税を示唆すると、すかさず関税率の引き上げを発表したトランプ大統領。米企業に中国からの撤退を指示するなど、米中の通商摩擦は一段とエスカレートしている (C) Chip Somodevilla/Getty Images News
■短期底打ちにも見えるが、米ドル/円は戻り売り継続
これを受けて、昨日(8月26日)は米ドル/円がこれまでの年初来安値を下回り、104.46円まで下がりました。
(出所:TradingView)
105円を下回ったところでは、ファンドが買ってきたり、トランプ大統領が「中国から通商交渉を望む連絡があった」と発言したこともあって、106.39円まで戻しています。
戻りが早く、チャートからは短期の底打ちのようにも見えます。ただ、米中の対立には終わりが見えず、そうなると、FRBも利下げを継続していく必要性が出てきます。
また、リスク選好にもなりにくい状況のため、米ドル/円は戻り売りのままで考えています。
【参考記事】
●1月のフラッシュクラッシュとの違いは何? ドル/円は窓を埋めたが中期的には101円へ!(8月26日、西原宏一&大橋ひろこ)
■投機筋の円買いポジションは積み上がる余地あり!
IMM(国際通貨先物市場)では、2016年4月に投機筋の米ドルに対する円の買い越しが、約7.2万枚まで積み上がりました。現在は約3.1万枚のため、まだ円買いが積み上がる余地があります。
※CFTCのデータをもとにザイFX!が作成
避難通貨として円が買われているだけなので、以前のように大きく偏ることはないと考えていますが、まだ円が買われる余地はあると考えています。
米ドル/円は、105円台前半から下で売ると、捕まってしまうと思いますが、106円台後半にかけては、戻り売りでいいのではないかと考えています。
【参考記事】
●いつ売っていつ買うか?これから英ポンドのトレードがおもしろくなりそうな理由とは?(8月20日、バカラ村)
(出所:TradingView)
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