■米軍撤収でトルコ軍とクルド勢力は衝突不可避か
今週(10月7日~)は、トルコのインフレ率は本当に一桁台に落ちたのかを検証し、トルコ経済の実態について解説したかったのですが、シリア情勢が急激に動き出したので、インフレ率の話はスキップせざるを得なくなりました。
エルドアン大統領とトランプ大統領は10月6日(日)に電話会談を行い、トルコ政府が約1年間準備していた、シリアの北部に安全地帯を設置する作戦の実行について合意しました。
10月6日、エルドアン大統領とトランプ大統領は電話会談を実施し、シリア北部に安全地帯を設置する作戦の実行について合意した。写真は、6月に開催されたG20大阪サミットのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
その後、米国は、トルコの作戦に米軍は関与も支援もしない。そして、シリアの北部から撤収すると発表。
また、今までクルド勢力と米軍が管理していた、拘束されているISIS(イラク・シリア・イスラム国)戦闘員とその家族の管理もトルコに任せるとのことでした。
この動きを受け、トルコ軍とクルド勢力の衝突が避けられないとの見方が強まり、トルコリラが大きく売られました。
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■トランプ大統領の決定を受けて、共和党からも批判の声
トランプ大統領の決断は、米国が今まで手厚く支援し、ISISとの戦いを任せたクルド勢力を捨てることになり、民主党だけではなく、共和党からも批判の声が相次いでいます。
内外からあまりにも批判にさらされたので、その後、トランプ大統領はツイッターで、もし、トルコがやりすぎることがあれば、トルコ経済を「壊滅させる」と宣言しました。しかも、前にもやったことがあると付け加えています。
つまり、昨年(2018年)のトルコリラショックは自分が仕掛けたと言っているようなものです。
【参考記事】
●トルコリラ/円が一時、16円台まで暴落! トルコリラ急落の震源地はユーロか!?(2018年8月10日公開)
●トルコリラ/円は一時15円台まで大幅続落! 原因はトランプとエルドアンの両大統領!?(2018年8月13日公開)
エルドアン寄りのトルコメディアは、昨年(2018年)のトルコリラの暴落は米国の陰謀だとずっと主張してきましたが、ある意味、トランプ大統領自らその主張を認めたことになりました。
トランプ大統領は批判に応えようとして、トルコに対してはきつい言葉を発したので、10月8日(火)には、トルコを気遣ったツイートも書きました。
「トルコは米国の重要な貿易相手国で、NATO(北大西洋条約機構)のメンバーであり、ブランソン牧師の件でも私の要求に応じた」とポジティブに書いています。
【参考記事】
●ブランソン牧師釈放。経済制裁解除も近い!? トルコリラ/円は20円超えに向けて上昇中!(2018年10月17日、エミン・ユルマズ)
また、11月13日(水)に米国を訪問する予定のエルドアン大統領と会談することも明らかにしました。
■トルコの軍事作戦が、トルコリラのリスク要因になるか
今週(10月7日~)のトルコリラ/円ですが、戦争リスクを警戒して18円台前半まで下がっています。
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トランプ大統領の警告ツイートを受け、下落が加速しましたが、10月8日(火)のトルコを気遣ったツイート後に、少し買われる場面もありました。
トルコの軍事作戦はどんな規模のもので、実際にクルドとの本格的な戦争に発展するかどうか、現時点で予想はできません。軍事作戦が長引いた場合、すでにフラジャイル(壊れやすい、脆弱)であるトルコ経済をさらに弱体化させる可能性が高く、トルコリラにとって大きなリスク要因となります。
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トルコは観光シーズンの終了とともに外貨ニーズが高まり、また、冬にかけてエネルギー需要も高まります。
【参考記事】
●3.25%の利下げ…だけどトルコリラ上昇!? 原油急騰によるトルコリラへの影響は?(9月18日、エミン・ユルマズ)
先週(9月30日~)発表された、インフレ率が正しいと仮定した場合でも、目先の見通しは厳しいです。
(出所:Bloomberg)
一方で、トルコリラにとってポジティブな動きもあります。原油価格が下落しているのは、トルコリラの下支えになると考えます。
(出所:Bloomberg)
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