■イラン情勢よりもリビア内戦の方がトルコに重要
年始からイラン情勢が緊迫したため、書くチャンスがありませんでしたが、実は、トルコにとっては、リビアの内戦の方が大事です。
リビアでは、トリポリをベースにしている国連承認のリビア国民合意政府(以下、リビア政府)と東部を拠点にしているハフタル将軍率いるリビア国民軍の間で内戦が勃発しています。トルコとカタールは、以前からリビア政府を支援し、軍事機器や無人偵察機などを渡しています。
一方で、ロシア、エジプト、サウジアラビアは、ハフタル将軍を支援していて、特に、エジプト軍は、ハフタル将軍の軍事作戦を直接支援してきました。ハフタル将軍は、リビア国籍と同時に米国籍も持っていて、この件に関しては米国の立場も非常に複雑です。
2016年に、東部だけを支配していたハフタル将軍は、戦闘で勝利し、支配エリアを大きく拡大させました。現時点で、リビア政府の支配地域はトリポリ周辺の海岸沿いだけになってしまっています。
■ハフタル将軍は停戦協定にサインせず帰国…
この流れを受け、トルコ政府はリビア政府を助けるため、トルコ軍のリビア派兵を決めました。トルコの軍事介入が、リビアの内戦のバランスを大きく変える可能性があります。
それを懸念したロシアが仲介し、先週(1月6日~)、リビア政府とハフタル将軍は停戦に合意しました。今週(1月13日~)、月曜日にモスクワを訪問したハフタル将軍は停戦協定にサインするはずでしたが、昨日(1月14日)サインせずにリビアに帰国しました。したがって、リビアの停戦がいつまでもつか、わからなくなってきました。
トルコにとってリビアとの重要な事案は、地中海にある天然ガス資源です。
トルコとリビア政府は、両国の地中海における海域を決める合意に達しています。トルコ南西部からリビアの北東部を結ぶエリアは資源が豊富とされていて、ギリシャとキプロスも自国の海域だと主張しています。
また、トルコとエジプトも東地中海の海域で対立しています。リビアやシリアの内戦にさまざまな周辺国が介入しているのは、地中海の天然資源をめぐる争いが主因とされています。
■トルコ中銀が直接介入でリラを下支え
今週(1月13日~)のトルコリラは、米国とイランの対立がエスカレートしなかったことや米中合意期待を受け、対米ドル、対円ともに上昇に転じました。円安も追い風となり、対円で18円台後半を維持しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
年始から、トルコ中銀の外貨準備高は4000億円近く減っています。イラン情勢によるリスクオフでトルコリラが売られたため、トルコ中銀は直接介入をし続けたためだと思われます。
【参考記事】
●トルコ政府介入もあり、トルコリラは小動き…。今後、トルコリラを動かす材料は?(2019年11月20日、エミン・ユルマズ)
トルコ中銀は引き続き、米ドル/トルコリラが6.0リラを超えないようにしています。
(出所:TradingView)
■トルコの利下げ余地はあまり残されていない
トルコ政府は昨年(2019年)に続いて、今年(2020年)も為替レートの安定を主要な目的のひとつにしながらも、利下げを続けたい意向です。
【参考記事】
●2020年のトルコリラ相場と注目点を解説! 一ケタ台へ? トルコ中銀の利下げは続く!?(2019年12月25日、エミン・ユルマズ)
●米上院の対トルコ制裁可決で関係悪化! エルドアンが利下げ継続を望むワケとは?(2019年12月18日、エミン・ユルマズ)
個人的には、為替レートに悪影響を与えない利下げは、かなりハードルが高くなっていると考えます。
もはや、利下げは政治的なイベントになってしまっているので、もちろん断言できませんが、地政学リスクの高まりとインフレ率の上昇の可能性を考慮すると、利下げの余地はあまり残っていません。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)