■米上院で対トルコ制裁可決!
米上院は12月17日(日本時間は12月18日未明)に対トルコ制裁を可決しました。制裁の中身を見ますと、大きく3つに分けることができます。
(1) トルコが購入したF-35戦闘機のトルコへの引き渡しの中止
(2) ロシアの天然ガスをトルコ経由で欧州に運ぶパイプラインの建設に関与している企業や個人に対する制裁
(3) トルコがS-400の購入をやめないので、CAATSA、つまり敵対者に対する制裁措置法に基づく制裁をただちに開始させる
米議会の対トルコ制裁の内容は重いものではなく、どちらかといえば警告的な意味合いが強いと考えます。
【参考記事】
●S-400テスト継続なら米国は制裁発動か。2020年夏までにトルコで総選挙実施へ!?(11月27日、エミン・ユルマズ)
3つの中で目新しいものは、2番目のパイプライン計画に関する条項ですが、これは「トルコストリーム」と言われる、ロシアの天然ガスを黒海からトルコ経由でギリシャに届けるパイプラインのことです。
米国は北海のノルドストリーム2とトルコストリームの建設に関与している一部の企業や個人に対して、資産差し押さえや取引停止などの制裁を行うことを決めました。
米上院は、直近で第一次世界大戦中に起きたアルメニア人殺害事件をジェノサイド、つまり、民族大量虐殺と認定する決議案も可決したばかりです。その動きを受け、エルドアン大統領は12月15日(日)の演説で、「報復措置としてトルコにある米軍基地を閉鎖する可能性がある」と発言しました。
米上院のトルコ制裁措置可決などを受けて、エルドアン大統領は報復措置としてトルコにある米軍基地を閉鎖する可能性があると発言した (C)Anadolu Agency/Getty Images
■トルコと米国の関係が急に悪化してきた
また、トルコ議会が北アメリカ先住民(ネイティブアメリカン)の虐殺をジェノサイドと認定するかもしれないとも発言し、両国の関係が急に悪化してきました。
トルコ議会が北アメリカ先住民の虐殺をジェノサイドと認定するかもしれないと発言し、トルコと米国の関係が急に悪化してきた。写真は6月にG20大阪サミットのときのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
このコラムでは、トルコがS-400を諦めない限り、CAATSA(対敵対者制裁措置法)に基づく制裁が避けられないと以前から書いています。
【参考記事】
●S-400テスト継続なら米国は制裁発動か。2020年夏までにトルコで総選挙実施へ!?(11月27日、エミン・ユルマズ)
今回の制裁は重い内容のものではありませんが、両国の関係悪化が継続すれば、もっと重い制裁も近いうちに発動されるでしょう。
■今回の利下げはエルドアン大統領の強い要望だった!?
今週(12月16日~)のトルコリラですが、米国との関係悪化を受け、18円台半ばまで下落しています。
(出所:TradingView)
トルコ中銀が先週(12月9日~)行った2%の利下げも、トルコリラの下落に影響していると考えます。
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
前回のコラムで、「トルコ中銀はインフレ上昇圧力が高まる冬季に利下げすることのリスクを熟知しているので据え置きの可能性もそれなりにある」と解説しましたが、現地メディアによると、今回の利下げはエルドアン大統領の強い要望であり、トルコ中銀は逆らえなかったとのことです。
【参考記事】
●利下げ予想多いが、据え置きの可能性も!? トルコリラは18円台後半で小動きが続くか(12月11日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領に逆らって更迭されたチェティンカヤ元総裁の件も記憶に新しいので、その可能性は高いと考えます。
【参考記事】
●トルコ中銀総裁解任の本当の理由とは?S-400問題で米国の制裁はほぼ確実!(7月10日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領は、今後も利下げの継続を希望していて、政策金利を一ケタ台まで下げたいようです。その背景には、利下げによって不動産・建設セクターを活気づけたいという狙いがあります。
米国との関係悪化と利下げ継続の可能性を受け、トルコリラは慎重なスタンスが必要です。
(出所:TradingView)
トルコ政府は、トルコ中銀と国営銀行の直接介入によってトルコリラを長期間安定させることに成功しましたが、その政策も、そろそろ限界に近付いていると考えます。
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