本日(12月25日)のコラムは、年内最後となりますので、2020年のトルコリラ投資にとって重要なポイントを簡潔にまとめたいと思います。
■トルコ中銀が利下げ継続でも効果は限定的か
まず、「トルコ中銀の金利政策」についてです。
今年(2019年)は、年始にフラッシュ・クラッシュで始まったトルコリラ相場ですが、年後半からボラティリティが下がり、対円ではおおむね18~19円のレンジで推移しました。
(出所:TradingView)
トルコ中銀とトルコ国営銀行は、懸命な為替介入を行い、トルコリラの推移を安定させることに成功したわけですが、その間にトルコの政策金利が大幅に引き下げられました。
【参考記事】
●トルコ政府介入もあり、トルコリラは小動き…。今後、トルコリラを動かす材料は?(11月20日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
来年(2020年)も、為替介入は継続すると考えますが、トルコの政策金利は、もはやマイナス金利テリトリーに入ってしまったため、今年(2019年)ほど効果を発揮できるかどうか疑問です。
トルコ中銀は、途中で総裁が更迭されるというドラマもありましたが、トルコ政府から利下げ圧力が大きく、特に、エルドアン大統領は、政策金利を一ケタ台まで下げたいと考えています。
【参考記事】
●トルコ中銀総裁解任の本当の理由とは? S-400問題で米国の制裁はほぼ確実!(7月10日、エミン・ユルマズ)
●米上院の対トルコ制裁可決で関係悪化!エルドアンが利下げ継続を望むワケとは?(12月18日、エミン・ユルマズ)
これは、トルコリラ投資家にとってリスク要因のひとつとなります。
一方で、トルコリラが直近の利下げ後に下落したことを受け、トルコ政府は、今後の利下げに慎重になる可能性も出てきました。
■S-400問題の行方に引き続き注目が集まりそう
次に、「米国との関係の行方」についてです。
トルコと米国の関係は、トランプ大統領とエルドアン大統領のG20大阪サミットでの会談以降、改善に向かっていましたが、S-400問題がネックになって、直近で再び悪化しています。
【参考記事】
●米国との関係改善でトルコリラは底堅い!解散総選挙と追加利下げがリスク要因に…(8月14日、エミン・ユルマズ)
●米上院の対トルコ制裁可決で関係悪化!エルドアンが利下げ継続を望むワケとは?(12月18日、エミン・ユルマズ)
今年6月に開催されたG20大阪サミットでの会談以降、トルコと米国の関係は改善していたが、S-400問題がネックになって直近で再び悪化している (C)Anadolu Agency/Getty Images
トルコがロシアから購入したS-400ミサイルシステムを諦めない限り、米国との関係改善は難しいと考えます。
一方で、S-400を諦めたら、今度はロシアと関係が悪化し、ロシアが軍事攻撃を再開するため、北シリアから大量の難民がトルコに押し寄せる可能性があります。
トルコ外交の駆け引きは、今後も続くと考えます。
【参考記事】
●米国と関係改善で、次の懸念はロシア…。トルコリラが大幅下落している理由とは?(8月21日、エミン・ユルマズ)
■トルコリラと逆相関関係にある原油の動きがカギに
3つ目に、「トルコ経済と原油価格」についてです。
トルコ経済は、2018年に2.6%の成長を記録しましたが、その後、2四半期連続でマイナス成長が続いたため、リセッションに突入しました。
足元で経済が緩やかに回復していて、OECD(経済協力開発機構)は、2019年通期で0.3%、2020年は3%のGDP成長率になると予想しています。
長年トルコを悩ませてきた経常赤字も縮小傾向にあり、原油価格が大きく上昇しない限り、経常収支が急悪化するリスクは低いと考えます。
以前から原油価格がトルコリラに与える影響について指摘していますが、原油価格とトルコリラは逆相関関係にあります。
【参考記事】
●原油価格の反発がトルコの懸念材料に…。トルコリラ/円の22円超えは難しいのか?(1月23日、エミン・ユルマズ)
●トルコ中銀のトルコリラ相場予想は楽観的? 原油上昇はトルコリラにとって悪材料(4月24日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
原油価格が、WTIで1バレル50ドル台推移すれば、トルコリラも底堅く推移することが多いです。
一方で、原油価格が70ドルまで上昇した場合は、トルコリラにとって大きな売り圧力となります。
足元で、WTIは60ドルを超えてきているので、原油価格の上昇トレンドが継続するかどうかを見守る必要があります。
(出所:Bloomberg)
■エルドアン大統領は解散総選挙に打って出るか
4つ目は、「トルコの国内政治と解散総選挙リスク」についてです。
2020年に、トルコの国内政治が大きく動く可能性も高まっています。
直近では、ダウトール元首相が新しい右派政党を立ち上げていて、ババジャン元経済担当大臣とギュル前大統領の右派新政党も、来年(2020年)早々に立ち上がる予定です。
【参考記事】
●8月26日早朝、トルコリラが急落したワケは? 米中貿易交渉次第で対円は17円台前半も…(8月28日、エミン・ユルマズ)
●S-400テスト継続なら米国は制裁発動か。2020年夏までにトルコで総選挙実施へ!?(11月27日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領率いるAKP(公正発展党)の、今年(2019年)の地方選挙での敗北を受け、トルコ政治が動き出しています。
【参考記事】
●イスタンブール市長再選挙は与党大敗! エルドアン政権弱体化で解散総選挙も…!?(6月26日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領は、2つの右派政党が力をつける前に解散総選挙をするとトルコメディアでウワサされていますが、その場合、2020年の夏に総選挙が行われることになります。総選挙前後に、トルコリラのボラティリティが高まると考えます。
■2020年の注目は、トルコ外交と国内政治の動向
最後に、「結論」をお伝えしておきましょう。
トルコ経済の改善が続いていることは、トルコリラにとって追い風となりますが、2020年は、トルコ外交と国内政治の方がトルコリラを大きく動かす要因となりそうです。
2020年前半のトルコリラ/円の想定レンジは16~20円です。レンジの上限・下限、もしくは、レンジをオーバシュートした時は、大きなトレードチャンスです。
(出所:TradingView)
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