■中東情勢緊迫化! ソレイマニ司令官が暗殺される
年始早々、中東情勢が緊迫してきました。
米国は1月3日(金)にドローン攻撃でイラン革命防衛隊のコッズ部隊を指揮しているソレイマニ司令官を暗殺しました。コッズ部隊とは国外で軍事作戦を追行している精鋭部隊であり、ソレイマニ司令官は中東全域で有名でした。
エルドアン大統領は、米国のドローン攻撃の5時間前にトランプ大統領と電話会談したことを明らかにしたうえで、「米国の攻撃を知ってショックを受けた。中東におけるテンションを高める行為なので遺憾である」と批判しています。
エルドアン大統領は米国のドローン攻撃の5時間前にトランプ大統領と電話会談したことを明らかにしたうえで、攻撃について批判している。写真は、2019年6月に開催されたG20大阪サミットのときのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
一方で、エルドアン大統領の支持基盤である保守系・スンニー派はソレイマニ司令官の殺害ニュースを歓迎していました。それは、彼が長年に渡って中東全域でスンニー派と戦った人物だからです。
■トルコとイランは複雑な関係にあるが…
ソレイマニ氏が指揮していたイランの特殊部隊や、その他のシーア派武装組織はシリアの内戦で戦い、アサド体制が崩壊するのを防ぎました。
【参考記事】
●トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す(2018年5月23日公開)
つまり、トルコが内戦当初から支援していた反政府勢力が政権打倒に失敗した背景に、ソレイマニ司令官の活躍があるということです。そのため、エルドアン大統領は、米国の攻撃を批判しながらも、いつもと違ったソフトな表現を使い、トランプ大統領への直接的な批判は避けました。
イランとトルコは、現在、複雑な関係にあります。シリアの内戦で対立している一方で、クルドとの戦いで協力しています。イランにもトルコと同様、国内にクルド人の分離独立組織が存在していて、イラン政府はクルド独立を阻止するため、トルコと手を組んでいます。
また、トルコはイランから天然ガスも輸入していて、冬の間は特に天然ガスへの依存度が高まります。
■地政学リスクの高まりで、トルコリラ/円は下落
年明けのトルコリラですが、地政学的なリスクの高まりを受け、対円で18円を割る手前まで下がりましたが、これは円高の進行によるものであり、対米ドルでは大きく動いていません。
(出所:Trading View)
米ドル/トルコリラは5.98リラ台まで上昇しましたが、6.0リラを超えることはありませんでした。トルコ中銀は、6.0リラを越えさせないように、引き続き、介入を続けているのではないかと考えます。
【参考記事】
●トルコ政府介入もあり、トルコリラは小動き…。今後、トルコリラを動かす材料は?(2019年11月20日、エミン・ユルマズ)
(出所:Trading View)
■日本のトルコリラ投資家にとってリスクシナリオは?
日本のトルコリラ投資家にとってのリスクシナリオは、2つ。米国とイランが戦闘状態になった場合の円高と、原油価格が上昇し続けることです。
前者はトルコリラだけではなく、その他の新興国通貨にとっても大きな売り要因となります。
一方で、原油価格の上昇は、メキシコなどの原産国にとってはグッドニュースですが、トルコや南アフリカのような原油生産国ではない新興国にとっては望ましくないことです。
特に、この両国は経常赤字になりやすい経済構造なので、原油価格が上昇すると通貨が売られやすくなります。
(出所:Bloomberg)
北半球にあるトルコは、今、冬でエネルギー需要も高いので原油価格が大きく上昇した場合に経常収支が悪化し、トルコリラの売り要因となってしまいます。
【参考記事】
●3.25%の利下げ…だけどトルコリラ上昇!? 原油急騰によるトルコリラへの影響は?(2019年9月18日、エミン・ユルマズ)
●トルコ中銀のトルコリラ相場予想は楽観的? 原油上昇はトルコリラにとって悪材料(2019年4月24日、エミン・ユルマズ)
一方で、トルコの経常収支は昨年(2019年)後半からプラスに転じていて、個人的にはブレント原油の価格が75ドルを超えない限り、トルコリラの下げ余地は少ないと考えます。
【参考記事】
●2020年のトルコリラ相場と注目点を解説! 一ケタ台へ? トルコ中銀の利下げは続く!?(2019年12月25日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
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