■WTI原油先物が史上初のマイナスに!
2020年4月20日(月)、世界の原油市場で圧倒的な注目を集めるWTI原油の先物価格が史上初めてマイナス圏に突入しました。
WTI原油先物の期近5月限の清算値は1バレルあたりマイナス37.63ドルとなり、一時マイナス40.32ドルまで暴落する場面もあったのです。

(出所:TradingView)
清算値ベースでは、前営業日4月17日(金)の清算値である18.27ドルからマイナス37.63ドルまで55.90ドルの下落幅に。その下落率は306.0%という目を疑うような数値となりました。
ここで、以下のチャートをご覧ください。

(出所:TradingView)
上のチャートは米国のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)(※)に上場されているWTI原油先物の期近5月限と期先6月限、北海ブレント先物の期近6月限、ドバイ原油先物の期近4月限の日足チャートです。
(※ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)はCMEグループの傘下にある)
4月20日(月)におけるWTI原油先物の期近5月限の清算値はマイナス37.63ドルだったわけですが、期先6月限の清算値は20.43ドルと、5月限の清算値より水準がずいぶん高いものとなっています。
同様に、北海ブレント先物の期近6月限の清算値は25.57ドル、ドバイ原油先物の期近4月限の清算値は21.467ドルと、こちらもWTI原油先物の期近5月限よりかなり高い清算値となりました。
NY原油先物は史上初めてマイナス圏に突入したものの、それは期近5月限に限った話で、期先6月限やそれ以降の限月で起こった現象ではありませんでした。また、北海ブレントやドバイ原油といった、NY原油以外で世界の原油価格の指標となっている先物で起こった話でもない、ということになります。
【参考記事】
●“NY原油”と“東京原油”は何が違う? FX大手のあの会社はCFDでもスゴかった!
■なぜ、WTI原油先物の期近5月限だけが暴落した?
それではなぜ、WTI原油先物の期近5月限だけがマイナス圏に突入する事態となったのでしょうか。
それは5月限の最終取引日が昨日4月21日(火)だったことが深く関係しています。先ほどから「期近5月限」と表現しているのは、4月20日(月)時点で5月限の最終取引日がWTI原油先物の中で一番近い時期にあるからです。6月限の最終取引日はもっと先になるため、そちらは「期先」と呼ばれます。
そんな期近5月限は5月受け渡しのもので、期近5月限の買いポジションを持ったまま最終取引日を迎えると、5月に原油の現物が受け渡されることになります。
受け渡された原油の現物は原油貯蔵施設で保管することになりますが、新型コロナウイルスによる自粛や外出規制で原油需要が急減するなか、報道では、WTIの受け渡し場所である米オクラホマ州クッシングの原油貯蔵施設が満杯に近づいており、貯蔵コストが急上昇しているようです。
原油貯蔵施設が満杯で貯蔵コストも急上昇しているのに、5月に原油の現物を受け渡されたら、受け渡された側は貯蔵に困ってしまいます。
そこで期近5月限の最終取引日目前の4月20日(月)、買いポジションを抱えた投資家が損失覚悟で一斉に売りに動き、売りが売りを呼ぶ展開となって一時、マイナス40.32ドルまで一気に暴落することになったようなのです。
■IG証券の原油CFDはマイナス圏までは暴落しなかった
そんなWTI原油先物の5月限の暴落を受けて、ここからは、主要なCFD取引会社における原油を対象とするCFDがどのように動いていたのかを見ていきたいと思います。
4月21日(火)時点で、主要なCFD取引会社における原油を対象とするCFD銘柄はIG証券だと「WTI 原油先物」、サクソバンク証券だと「US Crude June 2020」、GMOクリック証券だと「原油」、DMM.com証券だと「OIL/USD」となります。
まず、IG証券の「WTI 原油先物」ですが、「WTI 原油先物」には期限なしのものと、期限ありのものがあり、それぞれに米ドル建てのものと、円建てのものがあります。
4月21日(火)時点で、IG証券の期限ありの「WTI 原油先物」には期限が2020年6月と2020年7月のものがあり、ここでは期限が2020年6月の米ドル建て「WTI 原油先物」を見てみましょう。

(出所:IG証券)
WTI原油先物の期近5月限がマイナス40.32ドルまで暴落したのは4月21日(火)3時30分前だったのですが、その時間に期限が2020年6月の米ドル建て「WTI 原油先物」は2020.5セント、つまり20.205ドルまでの下落にとどまりました。
期限が2020年6月ということは、このCFD銘柄の参照原資産はおそらくWTI原油先物の期先6月限であり、大きく下落はしたものの、WTI原油先物の期近5月限のようなマイナス圏まで下落するという大事件は起きなかったということなのでしょう。
そして、記者が確認した限り、期限が2020年6月の円建て「WTI 原油先物」、期限が2020年7月の米ドル建てと円建ての「WTI原油先物」、期限なしの米ドル建てと円建ての「WTI原油先物」においても、WTI原油先物の期近5月限のように価格がマイナス圏まで暴落するという大事件が起こったものは見当たりませんでした。
■サクソバンク証券では期近5月限そのものを取引できた
続いて、4月21日(火)現在で取引できたサクソバンク証券の原油CFD銘柄は「US Crude June 2020」になりますが、こちらは2020年6月という期限つきのもので、以下のように推移していました。

(出所:サクソバンク証券)
WTI原油先物の期近5月限がマイナス40.32ドルまで暴落した4月21日(火)3時30分前に、「US Crude June 2020」は20.15ドルまで下落しました。参照原資産がおそらくWTI原油先物の期先6月限であるため、下落はしたもののマイナス圏には突入しなかったものと思われます。
一方、サクソバンク証券ではCFDだけでなく先物取引も可能で、実は歴史的と言える価格大変動を起こしたWTI原油先物の期近5月限そのものも取引できたようでした。
以下はWTI原油先物の期近5月限をサクソバンク証券のチャートで見たものですが、実際に4月21日(火)3時30分前にマイナス40.32ドルまで暴落している様子がわかります。

(出所:サクソバンク証券)
■GMOクリック証券の「原油」は価格調整が済んでいた
次に、GMOクリック証券の「原油」ですが、こちらは期限なしのCFDです。
期限なしのCFDではあるものの、参照原資産であるWTI原油先物が最終取引日を迎える前に、参照する限月を期近から期先に変更するタイミングがあり、その際に価格にズレが発生します。
WTI原油先物の期近5月限の最終取引日は昨日4月21日(火)だったわけですが、GMOクリック証券の「原油」において、参照限月の期近5月限から期先6月限への変更は4月17日(金)にすでに行われていました。
それを踏まえたうえで、GMOクリック証券の「原油」の推移を見てみましょう。

(出所:GMOクリック証券)
上のとおり、GMOクリック証券の「原油」の参照原資産は4月17日(金)、WTI原油先物の期近5月限から期先6月限へ移行し、価格にずれが発生しました。
そのため、WTI原油先物の期近5月限が暴落した4月21日(火)3時30分前に、GMOクリック証券の「原油」は一時20.18ドルまで下落したものの、WTI原油先物の期近5月限のようにマイナス圏にまで突入するような値動きにはなりませんでした。
なお、参照原資産の参照限月が移行して価格にズレが発生すると、保有しているポジションの評価損益も変わってきますが、GMOクリック証券では、価格のズレによって生じた評価損益分ほど「価格調整額」というものが付与され、そこはおかしなことにならないように調整されます。
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■DMM.com証券ではレート配信停止後、価格が大きくズレた
最後にDMM.com証券の「OIL/USD」ですが、こちらもGMOクリック証券の「原油」と同様に期限なしのCFDで、参照原資産の参照限月移行とともに価格のズレが発生します。
「OIL/USD」の参照原資産は明示されていないのですが、WTI原油先物の期近5月限の最終取引日である昨日4月21日(火)に、「OIL/USD」の参照原資産も期近5月限から期先6月限へ変更されました。
つまり、その前日の4月20日(月)時点では「OIL/USD」の参照原資産は話題の中心となっている期近5月限だったということになります。
それを踏まえたうえで、DMM.com証券の「OIL/USD」の価格推移を見てみましょう。

(出所:DMM.com証券)
4月20日(月)の「OIL/USD」は10ドルを割り込んで下落が続き、一時0.910ドルまで暴落したあと、取引時間中の4月21日(火)2時53分58秒に0.930ドルでレート配信が停止されてしまったのです。
「OIL/USD」のレート配信は結局、取引終了時刻である4月21日(火)5時50分まで停止され、レート配信が再開したのは4月21日(火)の取引開始時刻である7時でした。そして、参照原資産が期近5月限から期先6月限に移行したことで、21.030ドルまで大きく上窓を開けてのスタートとなったのです。
レート配信停止時の0.930ドルから、レート配信再開時の21.030ドルまでの上昇幅は20.100ドルで、上昇率は2161.3%となり、参照原資産の参照限月移行でとんでもない価格のズレが生じたことになります。
とはいえ、この価格のズレで、保有しているポジションの評価損益が変わった分は、GMOクリック証券と同様に「価格調整額」が付与され、調節されます。
「OIL/USD」の買いポジションを保有しているトレーダーはレートが0.930ドルから21.030ドルにずれて評価損益がプラスになった分、マイナスの「価格調整額」が付与され、「OIL/USD」の売りポジションであればプラスの「価格調整額」が付与されることになるのです。参照限月移行を挟んで、買っていれば爆益、売っていれば爆損になるというわけではありません。
■「OIL/USD」のレート配信停止の理由は?
DMM.com証券は「OIL/USD」のレート配信停止について以下のような説明をしています。
「現在、OIL/USDのレートが急変動したことにより、当社カバー先金融機関より安定したレート配信を受けられていない状況でございました。そのため、4月21日2時53分58秒からマーケットクローズである5時50分までOIL/USDのレート配信を停止している状況でございました」
DMM.com証券がカバー先金融機関から安定したレート配信を受けられなかったことが「OIL/USD」のレート配信停止の理由だったわけですが、「OIL/USD」がマイナス領域に突入する直前にレート配信停止となったことを考えると、もしかしたら「OIL/USD」はマイナス領域のレートを配信できるようになっていなかったのかも…しれませんね。
ここまでを振り返ると、4月20日(月)のWTI原油先物の期近5月限はマイナス40.32ドルまで暴落する場面があったものの、IG証券の「WTI 原油先物」、サクソバンク証券の「US Crude June 2020」、GMOクリック証券の「原油」にはそこまでの異常な価格形成は見られず、DMM.com証券の「OIL/USD」は1ドル割れまで暴落してレート配信が停止したあと、21ドル台でレート配信が再開された、ということがわかりました。
本記事はここまで、WTI原油先物の価格が史上初めてマイナス圏に突入した4月20日(月)に起こった出来事をおもにまとめてきたのですが、その翌日…
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