■コロナが終われば、またすばらしい経済が戻る?
新型コロナウイルスの世界中への感染が避けられなくなった2月後半から3月にかけて、為替市場は猛烈に乱高下しました。
しかし、4月以降は3月の動きがウソのように膠着状態が続いています。
(出所:TradingView)
発表される経済指標は大変悪く、1929年世界大恐慌以来とも言われています。
しかしその一方、今回の経済危機はコロナ感染を止めるために「意図的に」作った経済危機なので、コロナの影響が終われば元に戻ると考える人達もたくさんいます。
【参考記事】
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(5月13日、志摩力男)
トランプ大統領もその1人でしょう。
FOXビジネスにおけるマリア・バトゥモロ(Maria Bartiromo)とのインタビューの中で、以下のように話しています。
「コロナの前は毎日のようにすばらしい経済指標が発表され、株価は連日最高値を更新していた。かつてないすばらしい経済だったのに、それがある日突然終わった」
「でも、コロナが終われば、また、すばらしい経済が戻ってくる。私ならできる」
トランプ大統領は今回のコロナに対する対応で非難を浴びていますが、コロナは不可抗力とも言えますし、コロナ前の米経済がすばらしい状態だったのは事実です。
■なぜ、トランプ大統領は強い米ドルを望むようになった?
驚くのは、かつて米ドル安論者だった大統領が、突然「強い米ドル」を支持していることです。
【参考記事】
●トランプ大統領がドル高を容認した理由は? 6月末に向けて英ポンドは上値が重くなるか(5月19日、バカラ村)
●トランプの米ドル高発言は神予想の再来!? 米ドル/円、106円台ミドルは買ってもいいか(5月18日、西原宏一&大橋ひろこ)
あまりの違いに不可解だったのですが、このインタビューの中で語っています。
動画の5分55秒あたりから、トランプ大統領が強い米ドルに言及するのですが、マリアがすかさずニンマリと「じゃあ、強い米ドルを望んでいるんですか? なぜなら、かつてあなたは…」といったところで、”I tell you what、It`s great time to have a strong dollar”(いや実はね、今は強い米ドルであることがいいんだ)と言っています。
さらに「貿易の観点から言えば大変だが、今は国として、そして、インフレの面からも、強い米ドルであることがいい」と話しており、従来は貿易面から米ドル安を志向していたが、今は強い米ドルであることで、インフレがなく、低金利を享受できることを強調しています。
米ドルが弱ければ、ここまで巨額の財政支出をすることはできなかったかもしれません。
【参考記事】
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(5月13日、志摩力男)
現在の米経済には強い米ドルが良い、そのことをしっかり大統領は意識しています。大きな方向転換です。
■ソフトバンクGによる円買いはそれなりのインパクトがある
しかし、大統領が「強い米ドル」と言っても、米ドルが強くなるわけでもありません。
以前のコラムで、ソフトバンクグループによる資産売却について言及しましたが、それが現実化します。
【参考記事】
●新型コロナ後の世界はどうなる? ソフトバンクGの資産売却でポンド/円の売り!?(4月1日、志摩力男)
ソフトバンクグループはアリババ株の売却で1.25兆円、そして、Tモバイル株の売却で2兆円ほどを調達しようとしています。
残り1.25兆円ほどが決まっていないのですが、それはもしかするとソフトバンク株(※)の売却かもしれません。
(※編集部注:東証9434の「ソフトバンク」は携帯電話事業を展開する会社。東証9984の「ソフトバンクグループ」はその「ソフトバンク」などを傘下におさめる持株会社)
そうなると、外貨からの円買いは合計3.25兆円になりますが、少ない金額ではありません。それなりのインパクトが為替市場にはあるでしょう。
不景気になればなるほど、日本は外にお金を持つ国(世界最大の債権国)なので、こうした外のお金を国内に還流させる動きは加速します。
■ハードブレグジットが現実化しそう。英ポンドに下落リスク
もう1つ、次に為替市場の話題になりそうなのは英ポンドです。こちらも以前のコラムでご紹介しました。
【参考記事】
●ブレグジットの移行期間延長は不可避? 復活したジョンソン首相は奇跡を起こせるか(4月22日、志摩力男)
ブレグジットの移行期間延長の期限である6月末に向けて緊張が高まるでしょう。
【参考記事】
●トランプ大統領がドル高を容認した理由は? 6月末に向けて英ポンドは上値が重くなるか(5月19日、バカラ村)
世界中の誰が考えても、延長不可避に見えますが、ジョンソン政権が延長を選択することはありません。
5月11日(月)~5月15日(金)にかけて、第3ラウンドのEU(欧州連合)と英国の貿易交渉がありましたが、フロスト英EU交渉特使は「ブレグジットの進展なし」と発言しています。
バルニエEU首席交渉官に至っては「英国との関係は、かなり悪化しつつある」とまで発言しています。
英国は2020年末の移行に向けて真剣に交渉する気が、実はないのではないかと思います。
英サンデータイムズ紙は「EUが譲歩しない限り、英国は合意なき離脱に向けて準備している」と報じています。
Unless the EU changes tack, the UK is prepared to walk away from the talks, a senior No 10 figure privately revealed. However a poll found 49% of leave voters wanted talks extended https://t.co/JhJQLWbH0a
— The Sunday Times (@thesundaytimes) May 17, 2020
かつては、この強気の態度が交渉の武器でした。
しかし、英国の立ち位置はそれほど強くありません。すでにEUからの離脱は実現しています。
あとは、2020年末に向けて、離脱をどのように着地させるかのみですが、EU側は英国に譲歩する意味があまりありません。
最終的にはなんとか交渉をまとめて、ハードブレグジットという最悪の事態は回避されるとほとんどの人は思っていますが、すでにハードブレグジットこそがメインシナリオなのではないかと思います。
英ポンド/米ドルがパリティ(1英ポンド=1米ドル)まで落ちるとは思いませんが、消えたと思っていたハードブレグジットが現実化しようとしています。
できることは、それをなんとかソフトにまとめることだけでしょう。
英ポンドの下落リスクは高まっており、対ユーロで再度0.95ポンドを試す局面が出てきそうです。
(出所:TradingView)
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